バデェニ「バキュームベッド?」 むちゅ、むちゅうと口づけられて、仕方なく目を閉じる。自分より大きな唇を不躾に押し付けられる感覚は、何度目になってもちっとも慣れやしない。
「ん……っ」
食事と発声のために進化した唇を、どうして人間はくっつけたがる。生存にはまったく必要のない行為であり、中世では疫病が蔓延する原因にもなった。
他人の呼吸も他人の唾液も厭わしいだけだ。
それなのに、口をくっつけながら髪を梳かれると、無性に体が重くなる。抗議をするのが面倒なほどに。
ちゅ、ちゅう、と軽く吸われてリップ音が立てられて、また唇同士がむにゅりと圧迫される。この妙な音を立てる意味も、私には理解しがたい。百歩譲って、キスの接触という行為は受け入れたとしよう。だが、音に何の意味がある。五感をだいたい使うはめになり、いつもより鋭敏になった感覚により落ち着かなくなるだけだ。
3023