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    nekosaba66

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    nekosaba66

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    転生おねショタシャンウタです。
    おねショタ要素はねえです!尻切れ蜻蛉。
    くたびれたOLのようなウタちゃんがいるので注意!

    生まれ変わっても ―――生まれ変わってまた会えたら、お嫁さんにしてね
     
     所詮は死に際の戯れ言だった。別に本当にそうして欲しいとかそういうことではなくて、単に、死ぬ前に少しシャンクスの事を困らせたかっただけだった。
     久しぶりに見たレッド・フォース号の内部に感慨に耽る余裕もなく吐血を繰り返して、船医であるホンゴウさんは私を抱くシャンクスに急いで船医室に連れて行くよう指示をしていたけれど、すでにもう、時間が無い事を私自身が一番よく分かっていた。
     船医室ではなくシャンクスの部屋がいい、と言った私に、ホンゴウさんは尚も何か言い縋ろうとしたけれど、一連の話を聞いていたベックさんがホンゴウさんの肩に手を置き何も言わず首を横に振った。次いでシャンクスに目配せすると、シャンクスは浅く頷き船医室に背を向けて歩き始めた。…シャンクスの腕の間から、ホンゴウさんが崩れ落ちるように床に膝をついたのが見えた。
     久しぶりに見たシャンクスの部屋は、記憶の中とそう違和感はなかった。十二年前、此所は私の部屋でもあったから、壁の傷から棚に置かれた物の配置までしっかりと記憶していた。毎日毎日、頭の中で繰り返していた光景だった。
     私をベッドに横たえて、その傍らにシャンクスは座った。真っ白な寝具に私の血が垂れてしまって少し罪悪感を感じたけれど、シャンクスは大して気にしていない様子だったので私も気にしない事にした。
     シャンクスは私の頬を節くれた親指で優しく触れ、輪郭を確かめるように撫でた。何度も何度も、飽きもせずその行為を繰り返した。
     私が黙ってそれを受け入れていると、シャンクスも口を開かず、ただ繰り返し私の頬や額、髪の毛に触れるだけだった。時々少し口を開いて、何か言おうとしてまた口を閉ざして、誤魔化すように私の頬をまた撫でる。その繰り返し。
     そんな時間を最期にしても悪くはない気がしたけれど、もう少し、シャンクスの声が聞きたいような気がしたから、「ねえシャンクス」と私から声をかけた。
    「……うん? どうした、ウタ」
    「改めてになっちゃうけどさ。助けにきてくれてありがとう」
    「…当たり前だろ。お前が困ってんなら、どこにだって駆けつけるさ」
    「嘘つき」
    「ええ?」
     私が貴方に置いて行かれて、どれだけ泣いたか知ってるのかと言いたくなる。最期だし、喧嘩したくないから言わないけれど。
    「…でも、まぁ良いか。嬉しかったしね」
     海軍に向かって「おれの娘だ」と言ってくれた事が、どれだけ私にとって救いになっただろうか。血の繋がりもなく、彼の娘として船に乗っていた時間よりもエレジアに居た時間の方が長くなってしまって、誰も私と彼が親子であると証明してくれる人が居なくなってしまったから。
    「ごめんね、世間にシャンクスの娘ってルフィがばらしちゃったから、迷惑かけちゃうかも」
    「事実だろ。寧ろ、世界中にウタがおれの娘だって自慢できるってもんだ」
     悪戯っ子のように笑みを浮かべる彼に、私は嬉しくなって笑ってしまった。今際の際にあっても、嬉しければ笑顔が出てくるものであるらしい。
    「…私さぁ、多分この後、死んじゃうんだよね」
    「………」
     シャンクスは黙ってしまった。眉を寄せて、少し困った顔。そんな情けない顔はきっと親しい人にしか見せないんだろうと思うと、不謹慎にも少し嬉しい。
    「本で読んだことがあるんだけど、死んだ人は生まれ変わって新しい人生を生きていくんだって。転生っていうらしいんだけど、知ってる?」
    「………」
    「私は、…どうかな。沢山悪いことをしてしまったから、もしかしたら転生できないかもしれないね」
     沢山の人を殺して、沢山の人を苦しめてしまった。大切なファンを、幼なじみを、…家族を、私は傷つけてしまった。
    「でもさ、もし生まれ変わる事ができたら。…それで、シャンクスも転生して、同じ世界で同じ時間にまた会う事が出来るかもしれないよね」
     夢物語だ。まるで絵本の主人公とヒロインみたい。だけど、少しずつ冷えていって動かなくなってきた指先に、烏滸がましくも恐怖が過った。ああ私死ぬのか、なんて今更実感してしまった。怖がる資格なんてないのに。
     だから死ぬ前に、良い夢を見たかったんだ。生まれ変わった新しい人生でもシャンクスと出会って、今度は離れずに側に居続ける。そんな、夢の話をしたかった。
     だけどシャンクスはそんな夢物語を喋る私の手を強く掴んで、真剣な、ちょっと怖い顔をして口を開いた。
    「そのときは、絶対におれがお前を見つけてみせる」
     ―――それで、今度こそお前を離さない
     嗚呼、良かった。そう思った。この言葉だけで、私はもう何も怖くない。だけど死を間際にして少し性格が悪くなってしまったのだろうか。「本当に?」と問い詰めたくなってしまった。
     私はシャンクスを試すように「じゃあ」と言葉を続けた。
    「生まれ変わってまた会えたら、お嫁さんにしてね」
     立つ鳥跡を濁さずなんて知ったことではない。彼を困らせたくてそう言ったのに、シャンクスは動じた様子もなく私の目を真っ直ぐに見た。
    「絶対に迎えに行く」
     贅沢な最期だな。
     シャンクスのその言葉を最後に、私の意識は遠ざかった。

     ―――古い、気が遠くなるほど昔の記憶。


     * * *

     
     
     そして今に至る。
     前世の記憶を持ったまま現世に転生を果たした私は、前世の享年を悠々と越して、今は齢二十八である。
     三十を手前に見据え未だ未婚を貫いているのは、前世の約束を待っている―――からではない。出会いさえあれば身を固めたいと人並みに考える程度には、私も社会に揉まれ大人になったのだろう。
     別に今までも全く縁がなかったわけではない。実際に交際にまで行ったことはある。…だけど、やはりどうしたって前世の初恋と比べてしまうのだ。
     我ながら、過去を美化しすぎているとは思う。思い起こせば情けないところだって結構あったと思う。…だけど、そんなところすら愛おしいと思ってしまう程、前世の初恋は強力だった。
     それに妙な事もある。私がきちんと相手と向き合えていないという問題もあるだろうが、何故か長続きしないのだ。相手から告白してきても、三日と経たずに告白を撤回される事が殆どだ。私の交際歴は、最長で一週間である。両手の指で足りる程の日数しか同じ人と付き合えた事がないので、恋愛経験はほぼ皆無であり、初キスさえ未だである。
     仕事が特別好きというわけでもないので向上心も然程ない。前世の事が引っかかって、歌を歌う事はもう仕事にはしたくないなと思っていた。事務員として可も無く不可も無く。せめてもっと野心があれば結婚に意欲的でなくても世間様は許してくれたのかもしれないけれど、この歳になっても恋人の一人も居ないと白い目で見られがちだ。生き辛い世の中である。
     シャンクスとの約束は、今でも頭の隅に宝物のように置いているけれど、別に本当に迎えに来てくれるとは思っていない。…もしかしたら、もう少し幼い頃はそんな事夢見てたかもしれないけど、流石にこの歳にもなると夢ばかり見てはいられないのだ。
     仕事の休憩中、最近登録したマッチングアプリを開く。「いいね」を送った男性の何人からかメッセージが届いている。最初から下心しかなさそうな人はさっさと弾き、まともそうな人に返信する。こんな行為に意味があるのか、とかは考えてはいけない。どうせ好きになれる男なんて、後にも先にもあいつだけだろ、なんて脳内で幼い私が喚くけど、知ったことではない。
     私は大人になったのだ。社会人になった。夢を見るだけじゃ、駄目なんだ。
     この歳になって仕事を持って、初めてあのとき、ファンから拒絶された理由が少し理解できた気がする。大人は責任がある。趣味とか追いかけるものは誰しも持っているが、それだけの為に他の全ては捨てられない人が殆どだ。…あのときの私は、そんな事一つも分からなかった。身体だけが大きくなった、九歳の少女のままだった。
     淡々と仕事をこなしていると、終業の鐘が鳴った。それなりにホワイトな私の職場は定時帰りが推奨されている為、荷物を片付ける周囲の人に倣い、私も使用していたパソコンの電源を落とした。
     夏が近づき随分と日が落ちるのが遅くなった。そんな事を考えながら帰路を歩いていると「そういえば」と思い出したのは、近隣に楽器屋が出来たという、家のポストに入っていたチラシだった。
     今生で歌は生業にはしていないけれど、カラオケとかで時々発散する位には歌は好きだし、楽器なんかは見てるだけで楽しくて、学生時代は当然音楽が一番好きだった。
     なんだか今日はやけに前世を思い出す日だったからだろうか。「歌」に触れたい、と思った。
     普段は楽器屋なんて行こうとは思わないのに、私はふらふらとチラシで見かけた地図を頭に浮かべながら帰路を外れた。
     小綺麗な楽器屋は所謂名の知れたチェーン店ではなく、おそらくは個人で立ち上げた店舗だった。少し緊張気味に入ると、ギターやベースが壁に立てかけられ、奥には楽譜の本棚が置かれている。「音楽」だけが占めたその空間に、一歩踏み入れるだけで思わず笑みを零してしまった。
     店には店長らしき男がカウンターに居る以外には誰もおらず、私はならばと遠慮せず店内を見て回った。
     最近流行の曲のギターのコード表からクラシックのピアノ楽譜。ドラムや電子ピアノ、ギター、ベース、ウクレレもある。何処を見ても楽しくて仕方ない。今更歌手になりたいとは思わないけれど、それでも音楽と触れあう時が一番心地よい瞬間だった。
     夢中になってディスプレイに飾られたトランペットを見ていると、ウィーン、と自動ドアの開く音が聞こえてはっとなる。先ほどまで自分だけの空間だと錯覚していたこの場所が、急に素っ気なく離れていったような気がした。…当たり前だが、此所は私だけの場所ではない。
     ふと窓から外を見遣れば随分と薄暗くなっていて、どれだけ自分が此所に長居したのかとなんだか恥ずかしい気持ちになった。
     何も買わずに申し訳ないけれどさっさと店を出よう、と思って入り口を見ると、…そこには帽子をかぶった少年が、ぽつんと佇んでいた。
     何か目当てがあるのかと思ったが全く動く様子を見せない少年…恐らくは中学生くらいだろう男の子に少し首を傾げつつもその横を通り抜けようとしたところで、―――がっ、と私の手を捕まれた。
    「えっ」
     くん、とつんのめり危うく転びそうになるのをなんとか堪えて腕のほうを向くと、やはりあの少年が私の腕を掴んでいたのだ。
     なんで? と思いつつも、私はできるだけ優しい表情を浮かべて口を開く。
    「えーと、…ごめん、放してもらえるかな」
    「…ウタ」
    「え」
     少し枯れた高音は、おそらく声変わりの時期なんだろう。
     こんな年頃の子供と私には、面識はない。…なのに、どうしてだろう。私は、この少年を知っている。
    「遅くなって、悪かったな」
    「………も、しかして…」
     少年は、帽子を外した。
     炎の様に真っ赤なそれは、昔、私が大好きだった―――。
    「約束通り、迎えに来た」
    「…っしゃん、くす」
     ぐい、と引っ張られ、気づけば私は彼の腕の中に居た。腕の太さも何もかも違うのに、私はこの腕を誰よりも知っているような気がした。
    「あ、会いたかった…」
    「うん、おれもだ」
     気づけば泣いてしまっていた。店長さんは居る筈なのに咎める声はなく、みっともなく泣く私を、シャンクスは黙って受け止めてくれていた。
     しばらく時間が経って、私はようやく落ち着いて顔を上げる事ができて―――絶句した。
     いや、分かっていたのだ。だけどそれよりもシャンクスに再び会えたという感動と興奮に、ただただ感じ入ってしまっていたのだ。
    「…………あ、あのさ、シャンクス」
    「うん?」
     彼は、確かにシャンクスだった。
     だけど、…その姿は、どう見ても。
    「シャンクス、………今、何歳?」
    「12だけど」
    「………おおう」
     想像より下だった。
     そうなのだ。今のシャンクスは、その姿は、どう見ても、…少年のものだった。
    「そっか、…そうだよね」
     思えば私は早死にだった。シャンクスより年上なのもそんなに変な話じゃない。まさか十六も年齢差があるとは思わなかったけれど。
     ―――生まれ変わってまた会えたら、お嫁さんにしてね
     死に際の自分の言葉が頭に過る。
     …流石に、小学生に嫁入りするわけにはいかないなぁ。
     少しだけ胸が痛んだような気がしたけれど、仕方ないと割り切れる程度には今の私は大人だった。こんな事で喚く程、みっともなくはなれない。
     …それに正直なところ、目の前の少年のシャンクスは可愛いとは思ってもあの頃のシャンクスに対してのときめきはなかった。やはりそれも、私が大人になって、それなりに倫理観を持っているからだろうか。
     良いのだ。結婚なんて出来なくても、彼が私を忘れず、こうして見つけてくれた事が、何よりも嬉しい。
     未だ少しだけある初恋の未練が棘になって私を刺すけれど、なんとか表情に出さずに笑顔を見せた。
    「本当に、会えてうれしかったよ。この辺に住んでるの?」
    「いや…」
     そして言ったのは此所からは随分と離れた地名で、私を探す為にそんなに遠方から来たのかと驚き半分喜びながらも、一方でそれじゃああまり会えないなと少し悲しく思った。
    「…そっか、じゃああんまり会うことはできないね。…ねえ、もし住んでるとこ教えてくれるなら、私逢いに行ってもいいかな」
     端から見たらいい大人が小学生をナンパするかなりやばい光景だが、どうしてもここで得られた縁をこれだけで終わらせたくないという必死な思いだった。
     だけど私の言葉に、シャンクスはきょとんとして首を傾げた。
    「何言ってんだ?」
    「何って…」
    「言っただろ。今度は絶対離さないって」
    「いや、言ったけど…」
     シャンクスが何を言おうとしてるのか分からず少し動揺していると、シャンクスは私を掴む腕に少し力を入れた。小学生といえど、男の子の力はそれなりに痛い。
    「おれのお嫁さんになりたいんだろ」
     その言葉に、私は思わず困った顔をしてしまった。
    「それは、…忘れて良いよ。私本当にシャンクスに会えただけで嬉しいし、第一、…私今二十八だよ」
     一回り以上離れた歳を伝えてもシャンクスは特段動揺した様子はない。
    「まぁ、流石に今すぐにとは言えないから、まずは婚約って形にはなるけど、ただ仲間と一緒に作った会社の金が結構あるんで、お前一人養うくらいなら問題はねえよ」
    「え、いや…、…えぇ?」
     何が起こってるか分からず眼を回す私にシャンクスは淡々と将来設計を語る。「会社も辞めて良い」と言ったところで、私はようやく正気に戻った。
    「いや、だから流石に結婚は無理でしょ⁉」
    「無理じゃねえよ。後の問題はおれの年齢だけだろ」
    「いや一杯あるけど⁉」
     何言ってんの⁉ と喚く私に対し、シャンクスはどこ吹く風だ。
     …シャンクスは、私の死に際の願いを叶えたがっている。私の約束に、縛られてしまっているのだろうか。そう思うと、申し訳ないような気がした。
     私の言葉が彼を縛っているのなら、それから解放できるのも私だけだろう。私は意を決して口を開く。
    「…そもそも、私、小学生のシャンクスを流石に男として見れないし」
     だから結婚なんてする必要はない、と言おうとして、―――シャンクスの目をみてぎくりと身体を強ばらせてしまった。
     シャンクスは、ただじっと私を見つめていた。怖いくらい、真っ直ぐに。それはとても、小学生と侮れない、そんな鋭い目だった。
    「…でも、今ウタには特定の相手はいないだろ」
    「……そんなの」
     関係ないでしょ、と言おうとしたところで、それが分かっていたようにシャンクスは「関係あるだろ」と言った。
    「だから、調べた」
    「……へ?」
    「ウタの恋愛遍歴全部確認した。友人に零した愚痴も確認したけど、何度か交際はしてるけどいずれも長続きはしてないし、なんならキスも未だ。…なら、当然処女のままなんだろうし」
    「しょっ…⁉」
     あけすけな発言に戦いてしまう。ていうか、調べたって…。
    「まぁ、仮に誰かと付き合ってても関係ないけどな」
    「は…?」
    「言っただろ。…今度こそ離さないって」
     そう言ったシャンクスは、私の背中に手を回して引き寄せた。身長差があり、私は思わず膝をついてしまった。
    「おれに魅力を感じないなら、これから感じさせるまでだ。…平和な今生、せいぜい末永く謳歌しようじゃねえか」
     そう言って、シャンクスは私の唇―――の端に、唇を寄せた。
     …その一連の行為に顔を赤らめてしまった私が、今生のシャンクスに落とされてしまうのはそう遠くないのかもしれない。
     現実から逃避するように、そんな事を考えて私は身体から力を抜いた。

     


     
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