Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    Naked_MIKAN

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 11

    Naked_MIKAN

    ☆quiet follow

    三点リーダーとダッシュの使い方練習

    俺が俺の家で裸になって何が悪い 帰宅したルーシアスはその光景に目を疑い、何度も瞬いた。貴族のものとしてはそこそこの広さの庭に、東屋が設えられている。普段は人気のないその場所が、今夜は妙に騒がしかった。
     目の前の出来事を認識するとともに、ルーシアスの褐色の貌が引きつる。

    「何やってんだよ……ルーク!」

     卓上のランタンの光でも、異常な状況だというのは分かる。東屋のもと、葡萄酒の空き瓶が倒れる卓上に、しろがね色の頭が突っ伏している。
     盃には飲みかけの酒が残り、控えめなつまみは殆ど手つかずだった。切った無花果にはちみつ、そしてチーズが添えてある。それに、干し肉の塩漬けの皿もあった。
     空き瓶は4本と、汗をかいた水差しがひとつ。空きのグラスは既に乾いている。酒飲みの光景としてはまぁ普通だ。普通ではないのは、ルークの反対側に座っている兄だった。

    「何やってんだよ兄上……!」
    「アフタヌーンティーだ」

     普段は厳しい兄、マーカスはそのとき全裸だった。
     事務畑を自称しつつも、暴力ではルーシアスに勝るマーカスが、その隆々たる身体を外気に晒してグラスを傾けている。
     見慣れてはいるし、弟から見てもいいガタイだとは思うが、それがルークの真ん前だということが問題だった。

    「もう、酒を飲んでも脱がないって、この間言ってたじゃないですか……!!」
    「俺が俺の家で全裸になって何が悪い」

     マーカスは、完全に目が据わっていた。
     その後ろには、腹心であるシモンが控えている。なぜかシモンも上裸だった。

    「お前がいながらなぜ」
    「坊っちゃん、分かっていても防げないときもあります」

     ぴくりともしないルークは、眠っているのだろうか。シモンが口をぱくぱくさせて、「早く連れていきなさい」と言ってくる。
     シャツに、兵と同じズボンを履いたルークは、服こそ脱いでいないが襟元のボタンは開いている。血色が増して、吸い跡や噛み跡がそこかしこに浮かび上がっていた。これは概ねルーシアスのせいだ。
     とにかく起こそうと肩に手をかけると、「やだ、何だよー」と情けない声を上げられた。
     ルークが機嫌を損ねている理由は分かる。だが、その向かいで、兄が全裸で飲んでいる理由がわからない。そもそも、酒を飲むと兄が全裸になる理由がわからない。

    「僕のことは心配しなくていいよ?君も僕に構わずに、好きにしてくれ」

     突っ伏したまま、ルークがそう言う。だがさすがに、全裸のマーカスと一緒にしてはおけない。シモンが、早く連れていけと顔全体で急かして来る。左右対称に歪めた顔は限りなく渋い。
     ゆさゆさと揺さぶっても、ルークは起きない。間違いなく拗ねている。
     昼から夕方までのシフトに出勤する前に、ルーシアスに来客――それも若い女性が訪れてきたからだ。間の悪いことに行為の真っ最中で、いいところで中断せざるを得なかった。
     訪れてきたのは、高位貴族の娘だった。先日、首都の警備中、具合が悪くなっていた彼女を助けた。その礼に、侍女を伴って訪ねてきたのだ。
     トドメに、来客が帰るとそのまま出勤の時間が来てしまった。

    「ルーク、なぁ、悪かったよ」
    「別に君は悪くない」
    「あっちで話そう、な?」

     むっくりと顔を上げたルークは、完全に目が据わっている。

    「別に、僕が何を感じたって、君が気にすることはないんだ。僕はただの捕虜、そうだろう」
    「はいはいはいはい」

     脇の下を掴んで強引に持ち上げようとすると、脱力して抵抗してくる。獣医に連れていくときの犬みたいだ。

    「殿下、まーだそういうことしてるんですか」

     マーカスが立ち上がって、何かしらが露わになる。

    「う、うわぁあああああああっ!?」
    「!?うわ!?うわぁああああ!!」

     ルーシアスが叫びながら、ルークを座らせて目を隠した。ルークは驚いて叫び声を上げる。凍りついた空気の中で、弾んでいるのはマーカスだけだ。シモンがやれやれという顔で宥める。

    「どうかお座りください」
    「今更か」

     マーカスが正論を返した。それもそうですが、とシモンは毛の生えた胸筋を動かした。乳首から生えた毛が風にそよぐ。

    「ルーシアス、大丈夫だ。僕のことに気を遣うな」
    「大丈夫とか大丈夫じゃないとか、そういう話じゃない」

     目を隠されたままのルークが、淡々と言う。

    「別に、宮廷でだって飲んで全裸になる人はいたよ」
    「それはそうだったね」

     そう言いながら、誰かがルークの隣に腰を下ろす。小麦色の髪に、ルーシアスに張り合うような体格――フェリックスだ。

    「!!てめえ!」
    「今まで、牢から抜けられるけど我慢してやってたんだよ。酒の一口くらい飲んだっていいだろ」

     フェリックスが、ルークの飲み残したグラスを呷る。縄張りを荒らされたルーシアスが、また眦を吊り上げた。マーカスが、「おっいける口じゃん」と次を注ぐ。フェリックスがシャツのボタンを開く。乾いて冷涼な夏なのに、湿度が上がった気がした。
     ルーシアスは、思わず呟く。

    「暑苦しい風景だ……」
    「ルーシアス、僕は大丈夫だから手を離してってば」
    「えっと、俺が精神的に大丈夫じゃないからね」

     よっ、と持ち上げて、胸の前に抱えあげる。うにうにと暴れるルークを、強く固定した。早くこの場から引き離さなければならない。いくら兄とはいえ、全裸中年男性の側にルークを置いておきたくはない。
     
    「や〜だ〜」
    「ルーク?俺ちょっと怒ってるんだけど」

     低く吹き込むと、ルークがぴくりと反応する。閨でするように囁いたからだった。身を緊張で固くしたルークが、大人しくなる。

    「たくさん分からせられるほうが良いか?」
    「っ……」

     腕の中、顔を下に向けたルークの首筋や腕は、酔ったことで咬み跡が浮かび上がっている。王子様のような見た目からは想像もつかないその跡が、卑猥だった。
     フェリックスが、こちらを見てニヤニヤしているのが腹立たしい。一方でマーカスは全裸のまま酒を味わい、ぽろりと口を開いた。

    「そういえば殿下がさぁ、お前のこと……」
    「だめ!!わぁーーーーーーっ!!!わぁーーーー!!」
    「!?」

     マーカスの言葉に、慌てふためいたルークが悲鳴を被せる。驚いたマーカスは、ボロリと身じろぎした。
     
    「何だよ!?」

     マーカスの言葉を制止しようと、ルークはうにうにと暴れる。その身体を落としかけて、ルーシアスは思わず「こらっ」と叱った。

    「殿下が何て?」

     無花果と塩漬け肉をつまみながら、フェリックスが追求する。

    「マーカス殿〜〜!!!やめてぇ〜〜〜!!」
    「ルーシアスに若いご令嬢のお客さんが来たあと、殿下が庭でワインをラッパ飲みしてた」
    「わぁあああ〜〜〜!!」

     フェリックスが、端正な顔を歪ませる。笑いを堪えているらしい。ルーシアスの首に腕を回したルークは、顔をずっと下に向けている。
     炙った川魚の身を口に放り込み、フェリックスはしみじみと言う。

    「殿下はそういうところ、姉君に似なかったんですねぇ」
    「似たら困るわ!」

     ルーシアスはすかさず反論し、一方でルークは涙目になる。
     
    「僕のクールなイメージが終わる〜!もうダメだぁ……」
    「「「クールなイメージ!?」」」
    「……クールなイメージ?」

     ルーシアスとマーカス、それにフェリックスが異口同音に追い打ちをかける。やや遅れてトドメを指したのはシモンだった。
     顎を撫でながら、フェリックスが過去を顧みる。

    「幼少のみぎりより、姉君の後ろに隠れている気弱な印象が……」
    「坊っちゃんに滅茶苦茶にされている印象しかありませんねぇ」

     シモンが追い打ちをかけた。そこに更に、マーカスが被せる。
     
    ルーシアスのことで心乱してばっかりだと」
    「ルーク、この流れは泣いていいぞ」

     むっとしたルークが、抱えられたままルーシアスの頬をつねる。「なんで俺なんだよ」と言ったルーシアスは、確かに一番泣かせてるのは自分だもんなと勝手に納得した。若干ニヤニヤしたマーカスが、葡萄酒を干して呟く。

    「今日も、『本人に、ご令嬢に会わないでくれと言わないんですか』とお尋ねしたところ、『ルーシアスにとっては、ちゃんとした身分のご令嬢とくっつく方がいいんだ』と、ラッパ飲みしながらお答えになって。はー大人になられましたねぇ」
    「…やめっ…」

     今度こそ完全に赤面したルークが、動物病院に連れていかれる猫のように暴れる。ルーシアスはというと、一瞬停止したあとに茹でダコのようになった。

    「もう生きていけない!恥ずかしい!」
     
     腕の中で、ルークが見をよじった。マントを外し、手際よくルークをクレープにする。経験上、こうすると抵抗が弱くなるとルーシアスは知っていた。一瞬とろんとした目を向けてきたルークが、はっとして我に返る。
     腕の中、酒のせいで上がったルークの体温がこそばゆい。

    「……ルーク、早く部屋に帰ろうな?それでは兄上、失礼します。あとフェリックスははやく牢に戻りやがれ。できれば、その途中で頭ぶつけてマトモになってくれ」

     フェリックスが、中指を立てる。ルーシアスは、牙を剥き出しにしてそれに応えた。

    「殿下ーーーッ!!姉君に怒られない程度にお願いしますよーーーッ!!」

     完全に男所帯のノリが入ったフェリックスの、やじが飛んだ。クレープの中に、赤くなったルークの顔が完全に隠れる。



    「――で、何で君が脱いでるんだ」
    「俺が俺の部屋で裸になって何が悪い」

     ルーシアスが詰め襟を脱ぎ、壁に吊るす。シャツを脱ぎ、ズボンを下ろし、最後に下着を床に落とす。
     神が与えた、獣めいた強靭な肉体。濃い色の肌は、筋肉の外郭を写し取っている。
     ルークはそれを、ベッドの上から見ていた。まだ、黒いクレープのままだ。当たり前のように隣に横たわるルーシアスの、湿った熱気が顔を撫でる。舌で唇を舐めたルーシアスが、その明るい色の目を細めた。

    「兄貴の全裸は良くて、俺はダメとか言わないよな?」
     
     身体に巻かれたマントの中に、褐色の手が滑り込んでくる。ルークは黙り込み、ただ顔を赤らめた。そっと梱包をほどくように、マントが開かれていく。

    「ルーシアス、僕は……」

     言いかけた唇に、頑強な人差し指が当たる。指先の皮膚が固くなった、ルークが慣れ親しんだ指。

    「――続き、しようか」

     眉根を寄せたルーシアスが、怒っているのか、昂っているのか分からない。ルークは、唇に触れた手を掴み、目を閉じた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🌋🍌🌋✨✨
    Let's send reactions!
    Replies from the creator