「それじゃあ塗るぞ」
「はい、お願いします」
クリスの右手をそっと握り、やけに真剣な表情をしている雨彦に、クリスはこくりと頷いた。
雨彦の手にはマニキュア用の小さな刷毛。クリスの指先はこれから、雨彦の手で彩られようとしている。
事の発端は先日出演した映画。鬼を演じた二人は、その印として赤い角と爪を付けた。
最近では男性でも、マニキュアなどで爪を彩る人が増えてきているが、まだまだその数は少ない。クリスもアイドルになって何度かマニキュアや付け爪を使用したが、未だに慣れてはいなかった。視界の端に映る鮮やかな赤に、不思議な感覚になったのも記憶に新しい。
そんな撮影から少し経った今日、二人は仕事終わりにドラッグストアに立ち寄った。今晩は雨彦の家で過ごす予定で、足りない日用品なんかを買って帰るつもりだったのだ。
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