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    自覚あり片思いの雨彦さんと自覚なし片思いのクリスさんな雨クリ

    #雨クリ
    raincoatClipper

    好みのタイプの話「はい、オッケーです!お疲れ様でした!」
     カメラマンの軽快な声がスタジオに響く。
     ふう、と一息ついた雨彦が撮影場所を離れると、撮影用の衣装に身を包んだ想楽が入れ替わるようにその場に立った。
     プロデューサーに一声掛け、その足で控え室に戻る。控え室に足を踏み入れると、先に撮影を終えていたクリスが、雨彦に気づきぱっと顔を上げた。
    「雨彦、お疲れ様です」
    「ああ、お疲れさん。後は北村の撮影が終われば、今日のスケジュールは終いだな」
     どかりと椅子に腰掛けた雨彦は、早速窮屈だったネクタイを緩める。
     女性向けのファッション誌に特集として掲載される今回の撮影は、読者の女性を恋人に見立てたものになるようだった。
    「……あの、雨彦」
     一仕事を終え、すっかり気の緩んだ雨彦に、クリスが声を掛けてくる。いつもより少しおとなしい声音に、雨彦は何かあったのだろうかとクリスを見た。
    「どうした?」
    「雨彦は、先程のインタビューに何と答えたのですか?」
    「ああ、好みのタイプ、だったか」
     クリスはこくりと頷く。
     撮影前に行われたインタビューは、撮影のテーマにあわせたのか、三人の好みのタイプに関する質問が中心だった。
     この手のテーマにクリスが関心を示すことはあまりない。珍しいこともあるものだ、と雨彦は驚く。
    「俺はまあ……清らかな人、とは答えたな」
     そう答えながら、雨彦はまさかこれをクリスに伝えることになるとは、と内心苦笑した。
     雨彦は、クリスに懸想している。もちろんそうと気取られないようにインタビューには答えたが、好みのタイプと聞かれて思い浮かべたのは、クリスのことだったのだ。
    「清らか……雨彦らしいと思います」
     雨彦の想いなど知る由もないクリスは、自分のことだとは微塵も思っていない様子だ。雨彦はそんなクリスに安堵しながらも、少し残念に思う。
     なるほどと呟くクリスは、話題に反して神妙な面持ちをしていた。
    「そういうお前さんはどう答えたんだい?」
    「……私は、こんな私と共に歩んでくれる人、と」
    「お前さんらしい答えじゃないか」
     クリスが海へ向ける情熱の大きさは、万人が受け止めきれるものではない。それが原因でうまくいかなかった人間関係も多いのだという話は、以前クリスから聞いたことがあった。
     そんなクリスが好みのタイプとして、自分と歩むことを選んでくれる人を挙げるのは納得がいく。
     だが、クリスは依然として難しい表情のままだった。
    「以前から、こういった話題になった時には、そう答えていたのですが……」
    「納得がいってないって顔だな」
    「……ええ。答えているうちに、それだけではないように思えてきて、わからなくなってしまったのです。なので、雨彦は何と答えたのか気になって」
     雨彦の答えを聞いても、結局クリスの答えは見つからなかったようだ。
     雨彦は考え込むクリスを静かに見守る。これはクリスを想う雨彦にとっても聞いておきたい話題だった。
    「私は、ただ自分を受け入れてもらうだけではいけないと思うのです。それだけではなく、私も何かを返したい。そうしたいと強く思えるような人と共にありたいと思います」
    「……ああ」
     クリスらしい答えだと、雨彦は思う。いつか、クリスがそう思える相手に出会う時が来るのだろうか。
    「ですが、それがどんな人なのかと問われると、上手く言葉にできません。凪の海のように穏やかに二人で過ごせるような……時に海のことさえ忘れてしまうほど惹きつけられるような……」
     一言で言い表すのが難しい、というようにクリスは思い当たる言葉を紡いでいく。
     雨彦はクリスの言葉を聞きながら、クリスの考える人物像を思い描こうとしてみる。
     そうして一頻り頭の中のイメージを絞り出したクリスは、ふと何かに思い至ったような顔をした。
    「……そうです、例えるなら、雨彦のような人でしょうか」
     納得がいった、というように顔を上げたクリスは、ひとつ瞬きをして動きを止めた。
     雨彦も予想外のクリスの言葉に、思わず固まってしまう。
     二人の間に、少しの沈黙が降りた。
    「あ、あの、違います!今のは忘れてください!」
     慌てたようにそう告げるクリスは、これまで見たことがないほど顔を赤らめ、あたふたとしている。見ていて面白いほどくるくると表情が変わり、ついには自らの手で顔を覆ってしまった。
    「……古論」
     クリスの表情が見たい。
     衝動のままに顔を覆うクリスの手を取り、その顔を覗き込むと、クリスは恥ずかしそうな、少し困ったような顔で雨彦を見上げた。
     そんなクリスの様子を、雨彦は心底愛おしいと思う。
    「俺は嬉しかったんだが、違うのかい?」
     そう言って、雨彦は落ち込んだような表情を作った。
     我ながら意地の悪い返しだと雨彦は思う。もしこの場に想楽がいたなら、心底呆れたような表情を浮かべただろう。
     雨彦の表情を見たクリスは、先程までの表情から一変してさっと青ざめ、さらに慌てふためく。
    「雨彦、あの、違うわけでは、ないのですが!……雨彦のような人だったらと思ったのは、本当なんです」
     しどろもどろに答えるクリスは、次第に語調を弱めていく。クリス自身も自分の言葉に戸惑っているようだった。
    「……私もこんな結論に至るとは思っていなかったので、驚いているんです。すみません雨彦、貴方を困らせるようなことを言いました。だから、このことは忘れてください」
     すっかり意気消沈したクリスは、そう言ってぎこちなく笑う。そんなクリスの様子を見れば、クリスの想いは明らかだった。
     思いがけない展開に、雨彦は喜びが抑えられない。ひっそりとしまい込まれるはずだった想いが、堰を切ったように溢れてきた。
     クリスの手を握る雨彦の手に、少し力がこもる。
    「……なあ古論。俺の好みのタイプっていうのも、実はお前さんのことなんだって言ったらどうする?」
     そう告げた雨彦を、クリスは驚いたような顔で見上げた。
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