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    彦のあのええ声で羊数えてほしいだけの雨クリ※事後

    #雨クリ
    raincoatClipper

    「羊が1匹、羊が2匹」
     低く穏やかな声が羊を数えるのを、クリスは目を閉じて静かに聞いている。
     雨彦に眠りにつく前に羊を数えてほしいと頼んだのはクリスだった。
     先日出演した番組の、ファンに向けてシチュエーションに沿った一言を言う企画で、雨彦は夜眠る前というシチュエーションを与えられた。
    「眠れないのなら、眠りにつくまで俺が隣で羊でも数えてやろう」
     そう言って微笑む雨彦の威力は絶大だ。スタジオも大層盛り上がった。
     雨彦の言葉を聞いていたクリスは、確かに雨彦に羊を数えてもらったらよく眠れるのではないか、と考えた。
     雨彦は良い声をしている。独特の色気を持ったその声はいつだって優しくて、クリスは雨彦の声が大好きだった。
     そしていつものように二人で過ごした夜、ピロートークとして繰り出したクリスの頼みを、雨彦は笑いながら聞き入れてくれたのだ。
    「羊が12匹、羊が13匹」
     雨彦の落ち着いた声は耳に心地良い。このままずっと聞いていたくなってしまう。
     聴覚以外の感覚をシャットアウトして、クリスは雨彦の声に集中する。
    「羊が23匹、羊が24匹……羊が25匹」
     急に耳元近くで低く囁かれて、クリスは思わず目を開いてしまった。雨彦の方を見ると、悪戯に成功したというような顔で笑っている。
    「どうした、古論?」
    「雨彦……」
    「ほら、目を閉じな。まだ数え始めたばかりだぜ?」
     クリスが非難するような目を向けても、雨彦はどこ吹く風だ。ぽんぽんと寝かしつけるように胸元に手を置かれて、クリスは再び目を閉じた。
    「羊が32匹、羊が33匹」
     時折耳元で囁かれると、身体がぴくりと反応してしまう。まるで睦言のような甘さを秘めた声に、眠気は遠ざかっていくばかりだ。
    「羊が47匹、羊が48匹」
     次第に先程までの情事の中での雨彦の声が呼び起こされていく。先程まで雨彦は、この声でクリスの名を呼んでいた。
    「羊が55匹、羊が56匹……羊が57匹」
    「っ、雨彦……!」
     ついに耐えきれない、というようにクリスは雨彦を制止した。
     心臓がばくばくとうるさい。すっかり目は冴えて、鎮まったはずの熱までほんの少し帰ってきてしまったようだ。
    「眠りにはつけなかったみたいだな」
    「もう……」
     雨彦はくつくつと笑っている。反応を見るにわざとだろう。
     思わず口を尖らせたクリスの頭を、雨彦が優しく撫でる。そのまま雨彦はクリスの耳元に口を寄せた。
    「眠れないのなら、眠りにつくまで俺がもう少し相手をしてやろう」
     そうクリスに囁く声は甘い。この声は、この言葉はクリスだけのものだ。
     クリスは雨彦の首に腕を回し、噛みつくようなキスで答えた。
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