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    triangle_sak

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    🐱🐱🐱日(2/22)フィガファウ
    魔法舎 付き合っている フィガロの様子がおかしい

    #フィガファウ
    Figafau

    🐱🐱🐱 にゃあにゃあと鳴く必要はない。ファウスト! 大好き! そうやって、調子に乗って口に出すだけで、叶う。魔法とはなんて便利なものなんだろう、なんて、とぼけたことを思ってみる。
     鳴らした喉をくすぐってくる指先に身を任せていると、気分も上々になってきて、もっと甘えてやろうと思う。サービスだと言わんばかりに惜しげもなく声を出し続ければ、穏やかな眼差しに滲んだ慈しみが、より深くなる。俺もファウストも気分が良くなる、好循環だった。
     赤子の手を捻るよりも容易い、自身の姿形を変える魔法。俺が本気を出せば、相当、精巧に仕上げることができるから、想い人の望む姿で近づいて、正体を隠したままで触れ合うことなど造作もない。ごろごろにゃーん。ファウストには、俺が発する言葉なんてその程度に聞こえていることだろう。
     相手の望みも叶えられて、自分も存分にその愛情を感受できる。こんな素晴らしい憩いの手段を、どうして今まで思いつかなかったんだろう。いや、思いついていながら避けていただけかな。ファウストには、可愛がられるより格好をつけたい。ましてや、仮初の姿を借りるほど必死になってまで、好意を乞わないといけないなんて。そんなちゃちなプライドが邪魔をして……。
     しかし、心を重ねて、相手の気持ちが自分に向いているとわかっていれば、自尊心のくだらない一部分を捨てることもまた、容易いことだった。これは、そういう娯楽。いつもと違う愛情の交わし方。「たまには変わったことをしてみない?」なんてまどろっこしい提案はない方が、二人とも幸せに決まっている。
     さらに、ファウストに気がつかれないよう、念入りに気配を消しているから、他の猫が興味を示してくることもない。唯一、至上の空間の出来上がりだった。今日の東の授業が先ほど終わったのは知っている。南も同じくだった。つまり、この時間はまだまだ続くはずで……。
     しかし。
     更なる心地よさを求め、腹でも見せてやろうとした、そのときだった。
    「先生、こんなとこにいたの」
    「ネロ」
     ファウストの手が、さっと引っ込む。噴水に腰掛けていた彼と、石造の縁に伸びていた俺は、それだけで他人になってしまう。なんということだ。
     もちろん気配をなくす魔法の効果は持続中で、対象は生きとし生けるものすべてだから、魔法使いも例には漏れない。しかし、身を隠しているわけではないし、気配を探らずにやってきて偶々見つけられてしまった場合は、手の施しようがない。周りの気配にももう少し過敏になっておくんだったと後悔したってもう遅い。よっ、と手のひらを見せた気楽な顔を睨むことしかできなかった。しかも、嫌な予感がする。
    「どうかした?」
    「いや、どうってほどのことじゃねえけど。シノの好物、焼いたからさ。中庭に机出すから、四人で、どうかなって思って」
    「それは十分どうってほどのことだ。丁度、小腹も空いてる。ありがとう、すぐ行くよ」
     ほら! やはり、俺の良くない勘は当たる。どんな鳴き方で伝わってしまうのかわからなかったから、声こそ上げなかったけれど、心の中では非難轟々。
     断じて、彼の交友関係を快く思わないわけでは、ない。けど、今日の先約は俺だった。もし俺がいつもの姿をしてファウストの傍らにいたなら、ネロだって何かしら察して声は掛けてこなかったはずだ。なのに……いや、自分が選んだ手段である以上、たら、れば、の話をするべきではないとわかっている。それでも。いいところだったのに……!
     無意識に、尻尾くらいは立っているのかもしれない。ネロは、俺と目を合わせると、そそくさと去っていった。いや、ファウストに気を遣っただけかな。それならなぜその気遣いをもっと早く……。際限なく湧いてきそうな不満を眼差しに込めて、小さくなっていく背中を睨み続ける。だが、こほん、と咳払いをされて、はっと視線を戻す。もちろん、つい先ほどまで自分を愛でてくれていた彼に。
    「というわけで、僕は行かないと」
     想像していた通りの言葉だ。だが、なんで、と、聞き分け悪く問い掛ける。すると、彼に聞こえているであろう鳴き声にまで不満の色が滲んでいるのか、形の良い眉がやれやれと下げられた。
    「……きみも、聞いてただろう。生徒たちに呼ばれてしまったから」
     でも、でも。どうしてこんなにも悔しくなるのか、わからなかった。まさか、変化している生物に、精神のあり方まで依存している? いや、そんなの二流が陥る事態だ。そもそも、猫の固定観念がそれほど執拗とも限らないし。判然としない苛立ちに顔を顰めることしかできないでいると、ファウストの手が再び伸びてくる。
     さっさっと頭を撫でられるが、先ほどより随分と簡素な触れ合いを仕掛けられたように思えて、それすらも不満の衝動を刺激してきた。
    「また可愛がってあげるよ」
     また、って。そのときにも邪魔が入ったら、こうやって、簡単に見捨ててしまうつもりなんだろう。
    「近いうち……。あとで、来るから」
     嫌。今がいい。
     首を捩って、一本の指の腹に、甘く齧り付く。
    「こら、もう……」
     呆れた顔だ。けれど、ふっと溢れてきた吐息とともに、ファウストの口角が上がる。今だ、と思い、その膝に飛び乗ろうとしたときだった。
    「……まったく、あなたって人は」
     えっ。
     彼が呟いた言葉が、人気のない空間と、俺の頭の中にこだまする。あ、と短く声を出して口を押さえた彼の、丸くなった二つの青紫色が、くっきりと目に焼き付く。
     今、人って、言った? いや、俺、人間じゃないけど、いや、まって、そういう問題じゃ、なくて……。
    「ごめん、気にしないで。とにかく、甘えてくれて嬉しかったよ。今度は、なにか、美味しいものでも……。あ、かといって生の魚の頭とかは持ってこないから。僕たちでも口にするような……」
     ファウストにしては珍しく饒舌な口ぶりに反して、その顔が、次第に険しくなっていく。失言を重ねるのも、彼らしくはなかった。その様子が、真相を語るには十分なもので。俺は、堪らずに踵を返しそうになって……いや、その方が、後腐れが残りすぎる、と踏み止まって、仕方なく、呪文を唱えた。
    《ポッシデオ》
     紛れもない、自分の声。今さっきまでは頭に響くように聞こえていたそれが、今度は耳からも響いてきた。
     ああ、戻ってしまった。ファウストが、こちらを見ている。だがやはり、その顔つきからは驚嘆を読み取れない。至って、平然な表情をしていた。
     なんとなく視線を横へ投げてから、ええと、と言葉を繋ぐ。だが、相手は無言のまま。返ってくる声はなかった。仕方なく、再びその顔色を窺う。
    「いつから……」
    「さあ」
    「俺、けっこう頑張ってたはずだけど」
     そう、上手くやっていた、はずなのだ。自信があったから、あんな風に、近づいてみたわけで。だがファウストは、俺の見立てを嘲笑うかのように、短く、ふうっと息を吐く。
    「……僕に、変化の魔法と、その見破り方を教えたのは誰でしたっけ?」
    「……俺だね」
    「それで、ヘマをすると思いますか」
     真摯な口調に反して、わざととぼけたような声色。気づかれようと主張している皮肉を見逃すのは至難の業だ。
    「思いません……」
     だから、そう答えるのが精一杯だった。
     そうだ。彼の師匠は俺だ。なら、まあ、見破れて当然だろう。なんて誇らしいことなんだ。……そう思えても、今は、まったく嬉しくなかった。
     昔は、人間、魔法使い、魔法生物、野鳥等、ありとあらゆる生物に化けて彼を謀った。引っ掛かったら、それじゃあ駄目だと指摘して……あのとき、猫になったことはなかったっけ? まあ、北に野良の猫はいないし、彼が猫を好きということも知らなかったから、当然ではあるけど。
     とにかく、今は弁明をするのが先だ。いや、させてもらえるのだろうか。……待てよ、そもそも、する必要があるのだろうか。彼も、甘んじて受け入れていたじゃないか。楽しかったね、で、終わりにして……良いわけがない。
    「あのね、ファウスト、俺、きみを騙してやろうとは思ってなくて」
    「……わかってる。もう、いいから。僕も行かないといけないし」
     じゃあまた、と立ち上がる彼の手首を、待って、と掴む。たしかに、これ以上会話を続けたとて、もう、俺の望む言葉を言える気も、貰える気もしない。
     けれど、それならせめて、被害の程度を知っておく必要はあって。
    「……ちゃんと、にゃあにゃあって聞こえてたよね?」
     
     ――さあ。
     ファウストの答えは、なんとも簡素なものだった。しかし、すぐに後ろを向いた彼の口元、その口角が、一瞬、持ち上がっていた気がして。力なく、捕まえていたそこを手放してしまった。
     一体、今夜はどちらの姿で現れてみせるのが正解なんだろう。
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    triangle_sak

    MOURNINGいつかの無配にした一般人フィ(大学教授)×アイドルファ(???)のお話です。フィガロがずっとオタク。モブの女の子が出ます。
    設定違うとはいえ公式芸能パロに焼かれて続きが書けなくなるかもなので先に供養します。
    推しより先に死にたくない! あなたの好きなものを教えて、と言われて、そのとき思いついたものを伝える。車内に響くラジオがタイミングよくいい感じの曲を流していると、これなんていい感じだよね、と便乗して。こちらがハンドルを握っているというだけで容易くそこそこのムードを作り出せるのだから、それで十分だった。
     しかし後日、「あれを聴いた」「同じ歌手の他の曲を聴いた」などと報告されたって、反応に困る。添えられる感想が、ほとんどの場合自分が抱いた所感の熱量を上回っているからだ。
     だから、良くないことだとわかっていて、ああそう、と生返事をするたびに、好きなんじゃなかったの、と怪訝な顔をされる。そういった些細なことがきっかけになって、関係に亀裂が入って。弁明に力を尽くしてまで繋ぎ止める気力はないので、去っていく背中を追ったことはない。あまりにもろくに続かないものだから、最近はもうめっきり枯れ気味だ。
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