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    cebollaverde_t

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    cebollaverde_t

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    やっと完成。
    2022年のポルさん誕生月間のお祝いと思い書き始めたら、何ヶ月掛かってるんですか?年跨いでますよ?な状態。
    あまりに長くなったので、前後に分けました。
    こちらは前編になります。
    アヴさん離脱後〜花京院離脱前ぐらいのお話。
    ※誤字脱字は見つけ次第修正します。
    ※時系列、各国の国の事情など調べてはいますが、ゆるゆるなのでその辺りはスルーでお願いします。

    大切なもの(前編)「誕生日かぁ……そういやすっかり忘れてたな」

     パキスタンの国境へと向かう車中、助手席でポルナレフがふと口にした。
     話のきっかけはなんだったか。後部座席に座る承太郎と花京院の着ている学生服の話をしていた気がする。その流れで、承太郎の幼い頃の話になり、ジョセフが彼の誕生会の話をしていた。

    「なんじゃ、ポルナレフ。誕生日がどうかしたか?」

     ハンドルを握るジョセフが聞き返す。話題にされていた承太郎は目を閉じたまま微動だにしない。その隣の花京院は会話に興味がないようでウィンドウの外を眺めていた。

    「んー? そういや忘れてたなって、誕生日……」
    「ほお、いつじゃ?」
    「あー……っとな……」

     ポルナレフは変わり映えしない景色を見ながら、忘れていたと日付を口にして笑う。
     それを聞いた花京院とジョセフ、薄く目を開けた承太郎のそれぞれがチラリとポルナレフを見るが、その視線に気づくことはなかった。

     
    ---------------------------------------------------
     
     
    「なんで、そういう大事なことを早めに言わないんだ、君は」

     荷物を抱えたポルナレフの隣を歩く花京院は、その不機嫌さを隠すことなくぶつけていた。

    「早めにって言ったってよー……忘れてたっつったろ」
    「自分の誕生日を忘れるほどバカなのか、君は」

     あれから暫く走った先。
     人で賑わう少し大きな街があり、一行はそこに休憩と物資補給のために立ち寄ることにした。その際、ジョセフと承太郎が道の確認やSPW財団への連絡、花京院とポルナレフが物資調達をすることになった。
     ジョセフから渡されたメモにある物を買い終え、待ち合わせ場所に向かっていると、花京院が車内での話をむし返した。

    「そうは言うがよぉ……それどころじゃあなかったんだから、仕方ねえだろ」

     いつもならくってかかるポルナレフが大人しく、花京院は明け透けな自分の発言を後悔した。

    「シェリーがいなくなってから、あのドブ野郎を探すので頭いっぱいだったし……アヴドゥルのこともあったしな……」

     そうなのだ。目の前の男は3年もの間、最愛の妹を殺した相手を追い、つい先日その仇討ちを成し遂げたばかり。花京院は共に闘い、その瞬間にもそばにいた。
     それだけであれば、ポルナレフは誕生日を忘れなかったかもしれない。アヴドゥルという大切な仲間の犠牲を出していなければ。

     思い詰めたように話すポルナレフを花京院はただじっと見つめ、なんと声をかけるべきか迷っていた。

     アヴドゥルは生きている。

     ポルナレフだけが知らない事実。
     自分のせいでアヴドゥルを失ったと思っている彼に、花京院の胸が少々痛む。伝えないよう提案したのは花京院なのだ。

    「まぁ、どっちにしたって、なぁんも用意してねえし、やるべきことは他にあっからな!」

     切り替えるように、いつもと変わらぬ笑みを見せるポルナレフに花京院は少し安堵した。詰めていた息を少しだけ吐いて、その隣に並ぶ。

    「そうだな……君の誕生日なんか比べ物にならないほど、大切なことだ」
    「そうそう! って、少しは否定しろよ、お前」
    「そんなことより、君はさっき『用意がない』と言っていたが、どう言うことだ?」

     拗ねたような顔をしているポルナレフに気になっていたことを聞く。
     誕生日の主役が何を用意するというのだろう。周りにいる自分たちが何かを用意する必要はあるかもしれないが、何もせずともよいのではないか。

    「ん? だって、ケーキとかヴィエノワズリーが必要だろ、誕生日なんだから」
    「ヴィエノワズリー?」
    「知らねえ? クロワッサンとかブリオッシュのこと。いっぱい入ったやつが売っててよ、それを配るんだよ」
    「君が?」
    「Oui!」

     詳しく聞くと、フランスではその日誕生日を迎える本人がパーティを企画し友人を招いたり、ヴィエノワズリーと呼ばれるクロワッサンなどのパンやお菓子を配ったりして、『今日は自分の誕生日』とアピールするらしい。
     お互いの国の違いに花京院が関心していると、ポルナレフが懐かしそうに続けた。

    「シェリーがいた頃は、ケーキとか焼いたりしてよ。今年はイチゴがいいとか、チョコレートがいいとか……」
    「待ってくれ、ポルナレフ。今、ケーキを焼くと言ったのか? 君が?」
    「Oui! 俺が焼いてたぜ。シェリーも手伝ってくれたしな」

     花京院は思わず足を止めた。こちら見て不思議そうにしているポルナレフの顔をまじまじと見る。

     ポルナレフがケーキを焼く、そう言った。
     そんなこと、できるのか?
     ポルナレフが?
     この電柱が?

    「花京院……お前さぁ、今、もんの凄い失礼なこと考えてねぇか?」
    「そんなことはないぞ、ポルナレフ。みんながきっと思うことだ。僕だけじゃあないから、安心してくれ。はっきり言うが君にはそんなイメージは一切ない」
    「はぁ!? お前らの中の俺って、どんなイメージなんだよ!」

     真顔で言えば、ポルナレフが声を上げる。
     子どものように拗ねて唇を尖らせてるいる男は、3年前まで妹と2人、身を寄せ合って生きてきた。両親を早く亡くした彼は、それこそ生活、家事の一切、妹の面倒をよく見ていたのだろう。自分や承太郎を気にかける様子を見ていればよくわかる。不器用で無遠慮ではあるが、彼のストレートで馬鹿正直とも言える感情表現は、羨ましく好ましいものだった。
     だからこそ、こうして国だとか年齢だとかを気にせず、楽な気持ちで言葉や気持ちをぶつけ合える。
     少なくとも花京院はそう思っているし、他の仲間も同じ思いだろう。
     尊厳を踏み躙られ殺された妹の仇を追い、肉の芽に自身を支配されようとも、その高潔さを失わなかった孤高の騎士。
     彼の持つスタンド、銀の戦車シルバー・チャリオッツは、その名の通り『戦車』を暗示している。強い意志と実行力、そして勝利。勝利のためであれば周囲を押し退けようとも前へと進む。
     そんなイメージがふと花京院の中に浮かぶ。

    「君のイメージ? そんなの決まっている」
    「え、なになに?」

     そんなことを素直に教える気はない。期待に満ちた、澄んだ空色の目を向けられては尚更だ。
     ふ……と花京院は、その整った顔に笑みを浮かべるとポルナレフをまっすぐに見つめた。
     
    「……ラジオみたいによく喋る電柱、だな」

     言って再び歩き出し、呆然としているポルナレフの横を通り抜ける。我に返ってギャーギャーと抗議するのをよそに、花京院は視線の先に見つけた見慣れた姿に声をかけた。

    「そちらは終わったのかい? 承太郎」
    「あぁ……そっちは?」
    「必要なものは全て揃っているはずだ。念の為、後で確認してもらうつもりだ」

     道の端、建物の脇でタバコをふかしていた承太郎は、花京院とその後ろ、物の詰まった袋を抱え何やら喚いているポルナレフへと視線を向けた。

    「お、承太郎! ジョースターさんは?」
    「……じじいは中だ」

     花京院に不満を捲し立てていたポルナレフは、承太郎を見るなり、ころりと表情を変える。そして親指で示された先には、「Hotel」と書かれた自動ドアが目に入る。

    「今日、ここ泊まるのか?」

     建物を上から下まで眺めていたポルナレフが首を傾げる。まだ日は高い。普段であれば、車を走らせている時間帯だ。

    「あぁ、ここから次の街までは距離があるみたいでな。途中で野宿になりそうだから、明日の朝早く出ることにするらしい」

     花京院が中を覗くとジョセフがフロントの男性と話しているのか見えた。するとこちらに手招きをしてくる。

    「承太郎、ポルナレフ。終わったみたいだ」

     花京院に促され、ホテル内へと足を向ける。すると、ジョセフがフロントから受け取ったルームキーを手に近付いてきた。

    「今日は個室が取れたぞ。荷物を置いたら、2時間後に夕食にしよう」
    「じじい、この後少し買い物に出る。花京院、二度手間で悪いが付き合っちゃくれねえか?」
    「あぁ、構わないよ。準備ができたら部屋に行く。部屋はどこだい?」

     ルームキーを受け取りながら、承太郎の言葉に花京院が頷く。

    「あ、それなら俺も……」
    「ポルナレフ、てめーはダメだ。てめーがいると、時間がかかる」
    「はぁ!? なんでだよ!?」
    「……君、いつもフラフラして、じっとしていないじゃあないか?」

     なおも同行を願うものの、やはり拒否される。直情型の彼とクールを絵に描いたような高校生2人。どちらが年上かわからなくなるような、いつものやりとりと光景にジョセフは、眩しげにその目を細める。

    「それじゃあ、ポルナレフ。わしの方を手伝ってくれんか?」
    「……いいけど、何をぉ?」

     年下2人に拒否され、落ち込んでいたポルナレフの肩にジョセフが腕を回す。

    「荷物のか・く・に・ん☆部屋で待ってるわ〜ん」
    「うぇ! マジかよ、めんどくせぇやつじゃん!!」

     キーと同じ番号のドアにポルナレフを押しやりながら、ジョセフがケタケタと笑う。それぞれの部屋の前に立つ高校生たちは呆れたようにそれを見ていた。特に承太郎は、言葉にはしないものの『やれやれ』と顔に書いてある。
     ドアを開け、部屋に入る直前。承太郎はジョセフに呼び止められ、その方に体を向けた。
     
    「承太郎、ちょっといいか? 頼みたいことがあるんじゃが……」
    「……ん?」


    ---------------------------------------------------

     
     久々のシングルルーム。
     トイレとバスルーム、バルコニー、念のため冷蔵庫の中まで確認を終えると、ポルナレフは持っていたずだ袋をベッドへと放り投げた。
     バルコニーへ出ると、ポケットから出した煙草を咥え、火を点す。深く吸い込みゆっくりと紫煙を吐く。手すりに肘をつき、色の変わり始めた空を見上げる。
     青い空の下の方に薄らと橙が広がっている。青と橙の混ざるグラデーションが少しずつ、その色と割合を変え、少しすれば、青が濃紺へと変わっていくのだろう。
     そんな空を見上げながら、ふと思い出したのは妹のことだった。
     こんな空の下を2人で手を繋いで歩いたことがある。笑っている時もあれば、泣いている時もあった。寄り添い、家への道を歩き、時に競うように走った。

    (シェリー……)

     仇は打った。自らの手で、大切な妹の命を、魂の尊厳を奪った男の命を絶った。後悔はしていない。

     全てが終わる。
     終わると思っていたのに。

     ずしりと胸に重くのしかかる。
     全てを終え、安堵したと同時に酷く胸が重くなった。
     理由はわかっている。

     (アヴドゥル…………)

     復讐心に支配され、周りが見えなくなっていた自分を庇い、命を落とした男。
     目の前で倒れた彼から流れる赤色に目の前が暗くなる思いさえした。
     
     なぜ、自分を庇ったのか。
     聞きたくても、答えてくれる相手はもういない。

     もう二度と、そんな思いはごめんだと思っていたのに。
     もう、遺されるのはごめんだと思っていたのに。
     大切なものを失くすのは嫌だと思っていたのに。

     思考を断つように、ゆっくりと頭を振る。考えても答えは出ず、堂々巡りで深みへはまるだけだ。
     短くなり始めた煙草をすぅ……と大きく吸い、空へ向けて紫煙を吐く。

    「…………ウシッ」

     前を向く、決めたのは自分だ。助けられた、貰った命を無駄にはしない。
     パシンッと両頬を叩くように手で挟み、気持ちを切り替える。部屋の灰皿に煙草を押し付け、ドアに向かって歩き出した。
     ドアを開け、向かうのは隣の部屋。軽くノックをすれば、部屋の奥から返事が聞こえた。

    「おーい、ジョースターさぁん! しょうがねぇから、来てやったぜ!」


    ---------------------------------------------------

      
     その日の夕食を、ジョセフがフロントで聞いていた『この街で一番うまい店』で済ませた後、一行はジョセフの部屋へと集まり、翌日の予定や道のりを確認をしていた。
     地図を広げ、レストランやフロントで聞いた道を確認すると、やはり次の街までは相当な距離がある。話によると、町や村はあるものの、そこは本当に小さなもので、物資の補給や宿泊などはあまり期待できないという。
     そのため、明日は朝早くにここを出て先の街を目指そう、という話になった。朝食はジョセフがホテル側に交渉し、車内でも食べれるような軽食を用意してもらえるらしい。

    「……とまぁ、予定通りに行けば、明日の夕方頃にはこの街に着けるじゃろ」
    「何事もなければ、いいんですが……」

     地図を示すジョセフの言葉に、花京院が気遣わしげに眉を寄せる。これまでの道中を思えば、心配も理解できる。杞憂で済めばいいが、そうでない確率の方が高い。
     一行を包む空気は少し重いものに変わる。しばらく地図を見つめたあと、その空気を変えるようにジョセフが口を開いた。

    「……そうじゃなぁ……どちらにしても少し余裕を持って明日はここを発つ。寝坊するんじゃあないぞ、ポルナレフ」
    「……へ? 俺??」
    「ポルナレフ、君は寝汚い上に、身支度に時間がかかりすぎるからな」
    「花京院ッ!! お前だって、時間かけてるじゃあねぇか!!」

     いつもの言い合いが始まると、承太郎は小さく息を吐く。それを見たジョセフは肩をすくめて見せる。

    「いい加減にしろ、喧しくてかなわねえ……」
    「でもよお、承太郎……」

     割って入る承太郎にポルナレフが情けない声を出した。詳しい内容は全くと言っていいほど聞いていないが、いつものように花京院の正論で言い負かされそうになっていたのだろう。

    「ポルナレフ、テメェが寝汚えのも支度が遅いのも事実だろ、諦めな」
    「じょ、承太郎ぉぉ……」
    「それより、花京院……」

     散々な言われようにショックを受けているポルナレフをよそに、花京院へと視線を投げる。すると、ハッと何かを思い出したように承太郎の顔を見た。

    「…………ん?」

     承太郎の顔を見て頷く花京院を訝しげに見ていると、ポルナレフの鼻先にずいっと小さな箱が突き出された。

    「うを!? なんだ急に!!」
    「承太郎と僕からだ」
    「へ?」

     箱をポルナレフに押し付けると花京院は承太郎の陰に隠れるように移動する。
     
    「開けてみな」

     その青い目を白黒させつつ承太郎の顔を見ると、そう促され、ポルナレフは手の上の箱を見つめた。
     それは特に包装をされているわけでも、シールが付いているわけでもない。ただ、簡素な割に重みがある。
     開けてみると、中には銀色のオイルライターが1つ、ウッドパッキンの上に鎮座していた。表面は、頼み込んで施してもらったという割れたハートの細工。ポルナレフがつけているピアスのモチーフと同じものだ。薄いブルーと明るい黄色の小さな石2つが並んで嵌め込まれている。

    「……ブルートパーズは射手座の星座石、ゴールデンベリルは守護石の一つだ。トパーズの色とゴールデンベリルは承太郎が選んだ」

     承太郎の後から花京院の声がする。
     ポルナレフは、2人とオイルライターを交互に見る。

    「大したものじゃあねえがな。……誕生日、おめでとう」
    「…………おめでとう」

     承太郎の手によって、花京院が前へと押し出される。先程まで言い合っていたせいか、どこかバツが悪そうに視線を逸らす少年に、ポルナレフは思わず吹き出した。
     反射的に文句を言おうと戻した視線の先には、拍子抜けするぐらい満面の笑みがあった。

    「Merci  Je suis si heureuse   大切にするぜ!」

     感謝と喜悦の思いを込め、2人まとめて思い切り抱きしめ、それぞれに頬をくっつけビズを贈る。

    「おい、暑苦しいぜ……」
    「ちょっ、待て!? やめないか、ポルナレフ!」
    「にゃにお〜ん!? 主役のキスが受け取れねえってか! 素直に受け取れ、花京院!!」
     
     承太郎は呆れたようにそれを素直に受け、ハグやビスの習慣が薄い花京院は慌てて顔を逸した。
     その様子を微笑ましそうに見ていたジョセフが軽く咳払いをすると、3人の視線がその方へと移る。

    「ワシからもあるんじゃが……承太郎」

     チラリとジョセフが承太郎へと視線を送る。すると、がっしりと抱き込む腕から抜け出て、廊下へと出ていってしまう。何事だと、ポルナレフが驚いていると、サービスワゴンを押して戻ってきた。
     そこには白いクリームにイチゴの乗ったショートケーキが4ピース、そのうちの1つに細くカラフルな蝋燭が1本立てられている。

    「味はわからんがのぉ、誕生日にケーキは外せんからな!」

     承太郎が蝋燭に火をつけると、スタンドでも使ったのだろう、不意に明かりが落とされ、その柔らかい光にケーキが照らされる。

    「ほれ、ポルナレフ。早く、消さんか」
    「へ? え、あぁ……」

     まさかケーキまで出てくるとは思わなかった。呆気に取られてしまい、慌てて火を吹き消すとすぐに部屋に明かりが戻る。ポルナレフが礼を言おうとジョセフの方を見ると、その手に一本の瓶が握られているのが見えた。

    「大したものは手に入らんかったが、ワシからじゃ」

     ポンッという小気味のいい音がする。ケーキと共に用意されていたキャンティグラスに薄ピンク色の液体が注がれていく。
     それをポルナレフへと渡すと、一度コホン、と咳払いをした。

    「誕生日おめでとう、ポルナレフ。色々あったが、たまにゃあいいじゃろ。これからもよろしく頼むぞ」

     どこか懐かしいような柔らかい笑みを浮かべ、改まった様子で祝いの言葉を口にすると、グラスを触れさせ小さな音を立てる。
     その音にチラリとジョセフを見ると、促すように頷かれ、ポルナレフはグラスへと口をつけた。

    「…………ロゼ・ダンジュ、か?」

     ほのかな甘さと広がる香りにポルナレフは笑みをこぼす。いつの誕生日だったか定かではないが、シェリーが『ケーキに合うのよ!』と買ってきた。人に聞いたのだろう、まだワインを飲んだこともないのにケーキと共に用意されていたものは、穏やかな甘さと少しの酸味、そしてベリーのような香りがしていた。

    「お、さすがじゃのぉ、ポルナレフ」
    「全く……無茶振りがすぎるぜ、じじい。ケーキと、それに合うフランス産のワインを探してこい、なんてな」

     話を聞くと、承太郎と花京院はその条件に合うもの探し、街中を歩き回っていたという。言葉もわからぬ土地で店を探すのはもちろんのこと、この辺りではアルコールを買うのも楽ではなかったはずだ。
     それでも、自分のために探してきてくれたのだ。

    「……Merci…………」

     ポルナレフは小さく呟いた。
     出会ってから共に過ごした時間はそう長くはない。無鉄砲に飛び出した自分を庇い命を落とした仲間もいる。それでも、何気なく発した言葉を拾い、誕生日を祝ってくれている。
     この3年間、妹の仇を討つことしか考えてこなかった。思い浮かぶのは、降りしきる雨の中、赤い色を滲ませながら雨に濡れ、横たわる姿だけだった。
     今日のように、妹との思い出を話したり、笑顔を思い出せたりしたのは、彼らのおかげだ。

    「……ポルナレフ? 君、泣いてるのか?」

     ケーキを食べていた手を止め、花京院が驚いたように声をかける。
     ポルナレフはその時に初めて、自分の頬が濡れていることに気がついた。

    「え……は…いや、泣いてねえよ、バカッ! 泣いてるわけねえだろ!!」

     ぐい、と頬を拭うとポルナレフは、誤魔化すようにグラスのワインを一気に飲み干す。

    「いや、泣いているだろう? 隠すな、ポルナレフ!」
    「お、なんじゃ? ポルナレフちゃん、嬉しくて泣いちゃったの〜?」
    「うるせえ! 泣いてねえ、泣いてねえって言ってんだろ!!」
    「やれやれ、喧しい……」

     サプライズが成功し上機嫌な花京院と、思わぬことに泣き出した青年を揶揄うジョセフ。そして照れ隠しに騒ぐポルナレフをよそに、承太郎は1人静かにケーキの甘さに眉を顰めていた。

    「……っ、甘ぇ…………」



    ーーーーー To be continued.
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