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    osame_jr

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    osame_jr

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    以前に投降した「もがけ 導くはキミ」のシリーズというか続編です。
    今度は別の昔話に巻き込まれてしまったようで…

    お話の中で前回の話に触れているので、前回のから読んでいただいた方がわかりやすいかと思います。

    むかしむかし キミは ハッと気が付くと、ザザー..ザザーと波の音。打ち寄せる波は青く輝くのに、空は黒くどこまでも続く。
     感じたことのある気配に、軽く痛む気がする頭に手をやってふと違和感を覚える。
    「ん?まさか」
     何か確認する物はと辺りを見回せば、近くの岩場に潮溜まりを見つけた。近づいてのぞき込むと、そこに映ったのは見慣れた顔。右手を上げて頬に触れてみれば鏡合わせの自分も同じ動作をした。ここのところ忙しかったから疲れは見えるが、若さの為か草臥れた印象は無い。今は大きな傷も無いし、黒い靄が覆い隠すことも無かった。
    「このパターンか」
     溜め息交じりに言葉を吐き出したが嘆いたところでどうなるものでもなく、ここから出るには自分で何とかするしかない。今回は初めから周囲の景色が設定されているだけマシだろう。
     この状況から考えられる筋書きはと思いを巡らしながら周囲を探るために右手に集めた力を雫のように落とすと、波打ち際に1つの影が見えた。ひとまずそちらに向かってみると、その影が目視でとらえられるのと同時くらいにザザッとノイズが走る。そして、嫌な気配が集まったと思うと餓鬼童子など学生姿のマレビトたちが姿を現した。
    「いきなりかよ」
     構えた右手にエーテルを集めるが、マレビトたちはこちらに目もくれずに霊視で浮かび上がった影の方に向かって行く。その様子はあの夜に鬼を呼び出す犬や木霊を狙っていく様に似ていた。
     こちらに背を向けているならそれは好都合と一度構えを解いて背後に忍び寄り、懐から取り出した札を一気に背中に叩きつけてそのまま鷲掴みにしたコアを砕いた。まだ気づかれてはいなかったが、目標にたどり着いた数体のマレビトたちが手をかざして精気を吸い始めていた。
    「っち、これでもくらえ!」
     1か所にまとまっている所を狙って横薙ぎに水の刃を投げつける。1発では仕留めきれなかったが、背中にもろに入った攻撃にマレビトたちはこちらに標的を変え迫ってくる。影法師などの大人の姿のマレビトたちに比べて素早い動きで飛び回る学生姿のマレビトたちは取り囲まれれば厄介だが、一方向にまとめてしまえば何ということは無い。更に数発の水のエーテルショットを投げつけ、ダウンした奴から1体ずつ着実にコアを露出させ一帯のマレビト全てがコアを晒したところをまとめてワイヤーをかけて一思いに砕いた。
     周囲をもう一度確認し、マレビトが完全に消えたことを確認して息を吐いた。
    「一丁上がりだな」
     そして改めて霊視で見えた影に歩み寄った。そこにいたのは子どもほどの大きさに甲羅を背負ってとがった口元をした河童だった。
     海辺で甲羅を背負った生き物を子どもたちがいじめていると言えば、これもまた有名な話だ。
    「今回は浦島太郎か。ってことは、荒事はここだけで後は話を進めれば良いな」
     流れに沿うならば、助けた亀に連れられて竜宮城に行くはずと河童に目を向ければ任せろとばかりに一鳴きした。河童が海水に浸かっても大丈夫なものかいささか心配ではあるが、本人の様子を見る限り問題ないらしい。
    「じゃあ、よろしく頼むよ」
     その小さな体に乗るわけにもいかないので河童に続いて海に入りこちらに向けられた甲羅に摑まった。
     そういえば河童をつかまえる時はキュウリでおびき出したところを身を隠して忍び寄っているから、こうしてじっくりと観察したり交流することはあまりなかったかもしれない。そんなことを思っているうちに河童がザブンと海に潜る。思わず目を強く瞑って息を止めるが、咄嗟の事に大きく息を吸うこともできなかったのでそう長く息が続くわけもない。やがて限界を迎え自分の口から大きな気泡が逃げ出した。次の瞬間襲い来る海水の塩辛さと口を満たす水の苦しさを覚悟したが、それらは訪れることは無く恐る恐る目を開けても目に沁みることも無く視界も明瞭だった。
    「おぉ」
     思わず感嘆の声が漏れる。一面の青い海に眼下に見える鮮やかなサンゴ礁。普通に生活していれば直接見ることなど叶わない、ましてや身一つで体感することなどありえない景色が広がっていた。
     その景色に目を奪われているうちに河童はぐんぐんと深く潜っていく。そして、サンゴと海藻の林を抜けた先に立派な宮殿が姿を現した。それは先ほどのサンゴに負けないくらい色鮮やかで豪奢で美しく仄かに輝いているようで、これがかの有名な竜宮城かと目を奪われた。
     竜宮城の入口に着くと河童はその泳ぎを止めて肩越しに振り返り一鳴きした。到着の合図だろうか。甲羅から手を離すと河童はそのまま竜宮城の中へ進んでいっていしまった。どうやら案内はここまでらしい。迎えは待たずに竜宮城の中へ入って行くことにする。歩いて進むことはできるが、陸と違って少しふわふわとした感覚だ。だがやはり息苦しさも無いし、水に濡れた服がまとわりつくような動きにくさも無い。つくづく不思議な場所だと実感する。
     誰とも出くわさないまま廊下を進んでいくと、どこからか賑やかな音が聞こえてくる。霊視をしてみれば音の聞こえてくる方に多数の気配が集まっているのも見えた。話の筋書きに沿うなら竜宮城に危険はないはず、と遠慮なく進むことにした。廊下の先に扉が見えてくると聞こえてくる音も一段と鮮明になってくる。楽の音やガヤガヤと騒ぐ声など中にたくさんの気配がひしめいていることが察せられるが、実に陽気な調子だ。
     扉に手を伸ばそうとすると手を触れる前に扉がひとりでに開いた。
    「いらっしゃいませ~!ようこそ、竜宮城へ」
     元気にお出迎えしたのはなんと猫又だ。どうして海の中で猫又なんだと言いたくなるが、それらしくペットの猫用の魚の被り物を着けている。しかし、それ以外はどう見てもいつも通りの猫又だ。呆れが顔に出ていたのか、猫又がニヤリと笑ってきた。
    「商魂たくましいね」
    「儲かる話があるのなら、たとえ火の中水の中ですよ」
     昔話ならば、浦島太郎は乙姫に迎えられながら美味しい料理と魚たちの踊りなどの宴を楽しむことになっている。
     広間の中を見渡せば所狭しと鮮やかなかざりで彩られ、卓の上には美味しそうな料理が並べられている。そしてあちらこちらで楽しそうに踊り騒ぐ…妖怪たち。
    「いや、なんでだよ」
     クラゲやタコのように傘をふわふわとさせ舞う唐傘小僧、イワシのごとく群れて大きな影を作って遊ぶ木霊、真っ赤な着物の袖をひらひらと尾鰭のように揺らして楽し気な座敷童、その身をゆらゆらそよがせているのは海藻に扮した一反木綿か。魚ではないにせよ、せめて海の妖怪であれと思うけども海の妖怪はなかなかに洒落にならないものに事欠かないので多少アホらしく感じるくらいで丁度いいのかもしれない。
     猫又が席を進めてくるのでそちらに腰かけると先ほどまで自由気ままに宴を楽しんでいたようかいたちが見やすい位置で踊りや芸を披露し始める。一応、もてなしてくれるつもりはあるらしい。
     そして目の前には美味しそうな海鮮を中心とした料理が用意されているがそれは仄かに光を放っていて何となく冷たそうな気配を放っている。あの夜を過ぎてはほとんど見かけることも無くなっていた冥食だ。あの夜は渋谷自体が特殊な結界で覆われた状態だったのと、半死半生の身だったから口にしてもむしろプラスの影響があったが、夢に近い状態とはいえそれを口にするのは黄泉戸喫と捉えられかねない。そんなことで帰れなくなるのはご免んだ。しかし、仕事明けで食事もとらないまま眠りに就いてしまった今、これは大変に目に毒だった。
    「早く話を進めてくれよ」
     くぅくぅと鳴く腹を撫でながら嘆くしかなかった。召し上がらないならありがたくなんて言いながら美味そうに口に運ぶ猫又が心底恨めしい。
     その後、他の妖怪たちも食事に手を着け踊りなども粗方披露し終えたのか何となくそろそろお開きという空気が漂い始めた。浦島太郎の筋書きでは楽しい宴が終われば後はお土産を持たされて地上に帰れば終わりのはずだ。そこでふと気が付いた。
    「まさか、オマエは乙姫じゃないよな?」
     席を進めた後にしれっとそのまま隣で食事を満喫していた猫又に尋ねる。魚の被り物こそしているがそれ以外はいたっていつも通りの法被姿で、とても『姫』と呼べるような姿ではない。
    「もう、せっかちですね。そう急かさなくてもそろそろ準備が整いますよ」
     準備とは何のことかと疑問が浮かぶ。そもそも多くの語りでは乙姫は最初から浦島太郎を迎え、亀を助けた礼を伝えてそのままもてなすものだが、この時点でまだ乙姫は姿を現していない。これは実はイレギュラーが起きているのかもしれない。筋書き通りならもう荒事は無いという考えは改めるべきか。
     そんなことを思っているとさっきまで明るかった広間が突然薄暗くなる。とっさに片手にエーテルを集めて身構えて目を凝らす。何か、今までの妖怪たちより大きな、人間の大人と変わらない体格の何かが見えたと思った瞬間、どこからともなくスポットライトがその姿を照らし出した。
    「待たせたな、祓い屋!」
     黒い装束に不気味な丸印がトレードマークのその姿は、祟り屋だ。いつもは3人組のところ今日は1人だけのようだが、そんなことは問題じゃない。こんな不気味な姫がいて堪るか。もしや、腕に申し訳程度に引っかかっている布切れが羽衣のつもりだろうか。
    「チェンジ!」
    「まぁ、そう言うな」
     思わず叫んだのは何も悪くないはずだ。
     祟り屋は気にした様子も無くいつの間にか明かりの戻った広間をこっちに歩み寄ってくる。手にはいつの間にか黒い箱を持っている。
    「姫と結ばれる話ならまだしも、今回の我らの仕事はこの『土産』を渡せばそれで終わりだ。一応言っておこうか。『決して開けてはいけませんよ』」
     コイツらから渡される箱などヤバい呪物しか連想されず、平時なら絶対に受け取りたくないが受け取らなければ話が進まない。いやいやながらその箱を受け取る。これで後は地上に戻るだけと思いつつあることに気が付いた。
    「オマエらはどうやって現実に戻るんだ?」
    「心配せずとも、後の2人が道をつないでいる」
     大したことも無いように言われて、なるほど姿の見えない2人も役割があるらしいと納得しかけるが、ちょっと待て。
    「なら、わざわざ物語を最後まで終えなくてもそこから帰れるってことか?」
     純粋に浮かんだ事を口に出すと、祟り屋の纏う気配が変わる。その表情は見えはしないが、まるでうっそりと笑ったような不気味さを感じた。
    「それは別料金だな。高くつくぞ」
     それは嫌な予感でしかなく、物語が無事に進行している今わざわざ藪をつついて蛇を出す必要も無いので頼む気が起きるわけもない。こちらの表情からそれを読み取ったのか、祟り屋は押し売りしてくることも無かった。
     箱を手に持ち周囲を見回してみると、竜宮城まで連れてきてくれた河童がどこからともなく宙を泳ぐようにやってきてまた背を向けてくる。竜宮城でこなすべきことはこれで終わったということで、地上まで送り届けてくれるらしい。
    「ではな、祓い屋」
     祟り屋と猫又に見送られついでに辺りを見てみると広間に溢れていた妖怪たちはすっかり姿を消して、部屋の隅の方は波が少しずつ砂を攫って行くように空間自体が崩れ始めていた。物語もう終わりで、前回同様にこの世界が終わり始めているらしい。
     河童に摑まってぐんぐんと海の中を今度は上へ上っていく。ちらりと振返ると竜宮城はもう見えなかったが、祟り屋と猫又のことは空間の崩壊に巻き込まれるようなヘマはしていまい。
     そうこうしているうちにもう海面に顔が出て、海底に足が着いた。そこから歩いて浜辺に上がるが、不思議と髪の毛や服も水が滴ることも無い。まぁ、気にしてもしょうがないのだろう。海面から顔を出していた河童もいつの間にか姿を消していた。
     砂浜に手に持っていた箱を置いて、ひとまず隣に腰を落ち着ける。この箱、玉手箱を開けてモクモクと煙に包まれると浦島太郎はお爺さんになってしまいました、というのが浦島太郎の筋書きだ。気になる点はありはするがここまで来たらもう箱を空けるしかないので、かかっていた紐を解き一思いに蓋を開けた。予想通り箱から立ち上った煙で視界が白く染まる。
     煙が晴れた後を見ると、玉手箱の中に1つの手鏡が入っていた。手に取ってのぞき込んでみれば、よくよく見慣れた顔だ。
    「おいおい、オレがしわくちゃなじいさんだってか?」
     思わず浮かんだ苦々しい表情で独り言ちていると、頭の中に声が響く。
    『やっと外に出られた。早くKKを探さなきゃ…て、え!?』
     聞きなれた声もこうして聞くと知らない声のようで少し戸惑うところもあるが、自分以上に慌てているやつがいると不思議と落ち着くものだ。
    「落ち着けよ、暁人」
     表情どころか姿も見えないが、戸惑い慌てている姿は易々と浮かんだ。若いながらに様々な経験をしていると言っても、さすがに人に憑りついたことは無いだろう。オレだってつい最近までなかった。
    『あれ、KK?もしかして僕、今KKの中にいるの?』
     自分の中に自分以外の意識があるというのは、なるほどこういう感覚なわけか。暁人がそうしようとしないからか、体のコントロールはオレがはっきりと握っている。だが、自分の内側というかすごく中心に近い場所に他の存在の気配を感じる。それにあまり違和感が無いのは立場が逆とは言え、過去に1つの体に同居していたことがあるからか。
    「まさか、オレがオマエに憑りつかれるとはな」
     状況を理解したらしい暁人はひとまず落ち着きを取り戻したらしく、心がざわつくような感覚は無くなった。
    『無事みたいで安心したよ。KKがまた巻き込まれたみたいだから助けに来たと思ったら、何か暗い場所に閉じ込められてるみたいで、エーテルも扱える感覚が無いしどうしようかと思った』
     暁人はなんと今回は『玉手箱役』だ。最初にオレの姿が暁人になっていた時点でどうなっているんだと思ってはいたが、暁人の姿はオレになり暁人自身は玉手箱に閉じ込められていたらしい。
    「『迎えに行くのは慣れてる』とか言ってたのはどこの誰だったかね?」
     からかいを含んでいってやれば、ばつが悪いのかもごもごと不明瞭な声が帰ってきた。そんなやり取りをしていると、ザザッとノイズが耳に入る。マレビトが現れたのかと辺りを見回すが、音の発生源は用が済んでほっぽり出していた玉手箱だった。
    『KK、聞こえるかい?』
     エドの声だ。物語が語り終わりまで進んだことで通信がとれるようになったようだ。
    「おう、聞こえてるぜ。暁人も無事だ。今回もまた最後は徒競走か?」
     できれば前回のような危機一髪は勘弁してほしいが、もしそうなら心の準備くらいはしておきたい。今回は暁人の命運もオレにかかってるなら尚更だ。
    『それは何よりだ。今回は外部からの協力のおかげで帰りのルートは安定している』
     『外部』がどこだかわかっているから諸手を上げて歓迎はできないが、安全なのに越したことは無い。
    『近くに家が見えるかい?家と言っても大したものじゃない、小屋程度の簡素な造りだ』
     エドの言葉に辺りを見回してみれば、砂浜の外れの方に掘っ立て小屋のようなものが見える。おそらくはあれの事だろう。
    「あのボロ屋か」
    『それは浦島太郎の家だそうだ。日本でよく耳にするフレーズに【家に帰るまでが遠足です】というのがあるよね。きちんと家に帰るまで気を抜いてはいけない、大事な教訓だ。2人の無事の帰還を待っているよ』
     そう言って一方的に通信は途切れて、玉手箱はうんともすんとも言わなくなった。若干バカにされているような言い回しだが、エドに悪意というか含意は無いだろうし、それを連想させるような帰り道を仕組んだ祟り屋に文句の一つも言ってやりたい気もするが、そもそも関わる方が厄介だからやめてさっさと帰ろう。
    「腹も減ったし、さっさと帰ろうぜ」
    『…っ、あ、何?』
     暁人からワンテンポ遅れて返事が返ってくる。
    「どうした、考え事か?」
    『いや、何となくあの夜のKKってこんな感じだったのかなって、思って』
     その言葉であの夜の事を思い出す。
    最初は最悪だった。言う事を聞かない上にオレの思うようには動かない体、暁人からの強い拒絶の為か居心地は最悪だった。それがお互いを知り、認め合ううちにだんだんと受け入れられているという安心感や支え合っている心地よさを感じられるようになっていた。あの感覚は、それぞれの体を持つようになった今では二度と感じる事のできないものだろう。
    「オマエが今どう感じてるのかはわからんが、まぁ、悪くなかった」
    『そっか』
     性格なんてもんは早々変わる訳も無く、ついそんな言葉を選んじまうわけだが暁人には伝わっているだろう。そもそも、あの時のオレが感じていたのと同じ感覚なのだとしたら何となくとは感情の機微は伝わってしまうから、コイツなら察するだろう。短い言葉にどことなく嬉しそうな響きがあるのがその証拠だ。
    「今回はオレがオマエを助け出してやったわけだからこれでお相子だな」
    『元はと言えば、またKKが攫われるからいけないんだろ』
     相棒の非難の言葉なんぞ知った事か。体の主導権を持っているオレはとっとと家に帰るべく歩き出す。オレはいい加減腹が減ったんだ。
    「オマエがピンチならオレが助ける、オレがピンチならオマエが助ける。それでいいだろ?」
     オレたちは相棒で、対等だ。それでいいじゃねえか。

    とっぴんぱらりのぷう
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