博物館受付嬢🌸ちゃんと学芸員mtyみんなは博物館に行ったことはあるだろうか?誰しも一度くらいは学校の社会科見学で行ったことがあるだろう。しかし意外とプライベートで博物館に来る人は多くイベント展示ともなると毎日盛況だ。
「何度行っても鎌倉時代の展示室にたどり着いて平安時代の展示室にたどり着けないのよ。」
「あ、えっと……。」
「貴方、受け付けなのに展示場所も分からないの?そんなの受け付けに置いちゃダメよ。上司は何してるのよ。」
そんな怒らないで欲しい。今日がイベント展示一日目でまだ場所を把握しきれてないのだ。
「よくそんなので採用されたわね。」
「すみません。」
平日の博物館は余生を過ごすご老人が来館する事が多くよく理不尽なお叱りを受ける事もあるので憂鬱である。
「奥様どうかされましたか?」
優しい声に甘いマスク、ほら怒っていたご老人もメロメロ。本館のアイドル三ツ谷さんだ。三ツ谷さんはここの学芸員さんだ。
「何度行っても鎌倉時代の展示室にたどり着けないのよ!」
「あぁ、あそこは少し分かりにくいですよねご案内しますよ。」
そう言うとご老人と展示室へ消える二人。……助けられた。展示内容も展示も学芸員さんがしてるから位置を把握してるのだろうか?朝出勤して頭に叩き込んだだけの付け焼き刃のような知識じゃ展示内容を覚えられない。たしか今日から日本刀の展示だったはず……。ちょろっと今日からのパンフレットを盗み見ると日本刀イベントの様で時代毎に日本刀の移り変わりを見学できる展示になっているみたいだ。
「三ツ谷さん!さっきはありがとうございました!」
「お!さっきは災難だったな。」
「そんな……私が把握してないのが悪いので……。」
「展示今日からだろ?覚えてなくて当然だろ。」
こんなポンコツにもフォローしてくれる三ツ谷さんは優しい、他の受付嬢がハイエナのように狙う訳だ。
「今からランチか?」
「はい、すみませんお昼休憩頂きます。」
「なら一緒に食べよ。」
そう言うと博物館の裏へ引っ込み休憩室へ行く。しまった今日はお弁当だけど適当に詰め込んで来たので茶色いお弁当かも女子力皆無弁当である、恥ずかしい。
「わっ三ツ谷さんのお弁当女子力高〜!」
「そうか?みょうじさんのお弁当の方が俺の好物ばっかで羨ましい。最近妹がダイエット始めたから野菜ばっかになるんだよ。」
「えっ妹さんが作ってるんですか?」
「んー?いーや俺。」
「えっ三ツ谷さんの手作り弁当!?」
三ツ谷さんのお弁当は私に比べ彩り豊かで野菜も入っていて健康的な綺麗なお弁当だ。それに比べ私のお弁当は中年のお父さんが作ったような茶色いお弁当だというのにここでもフォローが完璧である。
「好物ばかり……。」
「そ、唐揚げも焼売も俺の好物ばっか。」
「た、食べます?」
「いいのか!?」
そんな少年のようなキラキラした目で弁当を見ないでくれ、ギャップ萌えで死んでしまうだろ。どうぞとおずおずと弁当を差し出すとパカッと口を開けて待つ三ツ谷さん。ん??ん?
「くれねぇの?」
「んん?」
「あー。」
「あ、あーん。」
唐揚げを三ツ谷さんのお口に持っていけばパクっと食べられる。こりゃ悪い男だ、博物館内の女子が惚れるわけだ。
じゃあ俺の番な?と言うと綺麗に巻かれただし巻き玉子を箸で掴むと私の口に持っていく。パニックで固まっているとだし巻き玉子が唇につんつんと当てられる。
「はい、あーん。」
「あーん???」
口に広がる出汁に少し甘めの味、三ツ谷さんらしい味が口に広がる。優しい味に泣きそうになる。
「え?なになに!?どうした?美味くなかったか?」
少し目が潤んでしまったのか慌てる三ツ谷さん。……申し訳ない。
「いや、美味しすぎて涙出ました。」
「ふはっ!ならいーわ!」
おかず交換してお昼休みはあっという間に終わる。本館のアイドルと夢のようなランチを楽しんだあとは地獄のような現実が待っている。そう先程も申したように私はポンコツなのである、もちろんまだ展示室の位置は把握してないし、実を言うと今回のイベントのパンフレットの発注を一桁間違えた。死にたい、生きてるだけで職場に迷惑をかける奴とは私の事。
「これ聞こえないんだけど!?!?」
男の怒鳴り声は心臓に悪い。こういう日はとことんツイてない。音声ガイドが故障していたようで大層ご立腹なこれまたご老人。
「す、すみませんこちらをお使いください!」
「こういうのってさー貸し出す前に動作確認とかしない訳!?」
「ご最もでございます。確認不足でした。」
「謝ればいいってもんじゃないでしょ。こっちも時間とか決めて見に来てる訳、分かる?それがこれじゃ時間通りに見れないじゃねえか!」
「大変失礼致しました。」
ダメ、ダメ、ダメ。泣くな泣くな泣くな。ここで泣いたら更に使い物にならなくなる。ただでさえポンコツで使えないのに泣いて裏に引っ込む訳にはいかない。泣くな泣くな泣くな。泣いちゃダメ。
「す、みません、っでした。」
声が上手く出ない、泣くのを我慢すると喉がキュッと締まって上手く発音できない。するとカクンッと誰かに引っ張られる腕。
「後はやっといて交代。」
あ、やってしまった強制退場じゃん。お客様から離れると緊張が緩んだのか馬鹿みたいに涙が出てくる。泣くのを我慢したせいで呼吸が浅い。
「ヒューヒュー……」
過呼吸まで見して心が弱い人間だと思われる、一緒に働く人に見られたくない。休憩室に引っ込められるとぎゅっと抱きしめられる。香水じゃないけれど柔軟剤の甘い香りがして初めてやっと私を受付場から連れ出したのは三ツ谷さんだと気付く。
「俺の呼吸に合わせて。」
すぅーーーーはぁーーーーーー
すぅーーーーはぁーーーーーー
「ん、上手いい子いい子。」
「す、すみませんすぐ泣きやみますので。」
「だーめ、泣くの我慢しすぎ。」
「いや、私が泣き虫なだけです。」
「んん?そんなことねぇよ?あんな威圧的な男に丁寧に対応して偉かったな。普通なら泣くよ。」
過呼吸の事は秘密にしてください!とお願いすると三ツ谷さんは悪い顔して二人だけの秘密なんて特別な感じしねぇ?と言った、本当に悪い男だ。
「こんな抱きしめられたり、あーんとかしたら勘違いしそうなんでやめた方がいいですよ。」
「ん?みょうじさんにしかしないから大丈夫。」
「んん??」
「早く勘違いしてくれよ。」
やはり三ツ谷さんは悪い男だ。