結局三日ですっぱ抜かれた〜♪〜♬〜
バトルタワーの執務室から、楽しげな鼻歌が聞こえてくる。
「今日は随分とご機嫌なんですね。」
「…そんなに分かりやすいだろうか。」
「ええ、恐らく本日会った全員からはそう思われるくらいには。」
「えっ。」
そこまで分かりやすかったか!なんて顔を赤くしたり青くしたりと忙しいオーナーに秘書は苦笑しながら、最初に比べて随分と表情豊かになったものだと心の中で密かに安心する。
「まあ、営業に来た方々への対応はきちんとしていましたし、不機嫌を表に出すよりは良いのでは?それと、仕事が楽しいのは分かりますが休憩するのも仕事の一つですよ。」
「…あぁ、分かっているさ。午後は昇級戦もあるしな。しっかりランチを食べて午後に備えるよ。君もそろそろ休憩に入ると良い。」
そう言って最近持ってくるようになったランチボックスをいそいそとデスクへと準備しながらまた表情を緩めるダンデに、秘書は仕方ないと笑いつつ自分の仕事部屋に戻るので、何かあれば内線をと伝えてくる。ついでに「午後までにはそのウキウキ顔をもう少しキリッとなさってくださいね」と釘を刺すのも忘れなかった。
パタン。と執務室から秘書が居なくなると、ダンデは自分の両手で顔をペタペタと触り、自分がどんな顔をしているのか想像したが、まあきっとだらしない顔なのであろう。それについては自覚が重々あるのでダンデは何も言い訳はできない。
「ふふっ…。」
チャリっと軽やかな金属音と共に首元から出てきたのは白銅色の指輪のついたチェーンだ。机に片肘をつきながら、それを自分の目の前に掲げて軽く揺らす。揺らされたそれは、光の当たるところによって青とも赤とも言えないような、不思議な鈍い輝きを放つ。
『オレさまと、ずっと一緒にいて欲しい。』
チャリっと金属が擦れる音と共に、昨日この指輪を渡してきた男の表情が何度もダンデの頭の中でリフレインしては消えていく。
婚約発表は二人で相談してもう少し先にした。それまでは公にしてはいけないと分かってはいるが、少しくらい浮かれたとしても正直仕方ないと思う。だって昨日のことだし。なんて気の緩んだ自分に言い訳をしつつ、ダンデは浮かれついでに少しだけ欲が出た。滑らかな光沢を放つチェーンから、スルリと指輪を抜き取り、左手の薬指へと着けてみる。
「…ふふっ。サイズ、ピッタリだ。」
溢れる気持ちのまま、その指に光る白銅色へ軽くキスをする。誰かに見られたらまずいので、すぐに外さなきゃならないのは分かっているが、もう少しだけこの指輪の感覚を楽しみたいと思い、左手を顔の前から少し上に掲げて窓から差し込む日の光にかざしてみようと顔を上げる。
「……よ、よう。」
気不味そうに、でも笑いを堪えた表情でドア前に立っていたのは正に今思い描いていた男だった。
「…どこから?」
「…指輪見て…笑ってるとこ…。」
大体最初から見られている!!
あまりの恥ずかしさに「かえんほうしゃ」が出せそうなくらい顔を真っ赤にして頭を抱えたダンデに、キバナはくつくつと楽しそうに笑い声と足音が近づいてくる。
ちゅっ
頭の上にあった左の薬指に、柔らかな感触とリップ音。「間接チューしちゃったな」なんて意地の悪い声がつむじの上から降り注ぐ。見ていない分指に感じた熱がとても温かくてくすぐったい。
揶揄う様な事をするキバナに今すぐ顔を上げて抗議をしてやりたいと思うダンデであったが、オクタンみたいな赤い顔と、早鐘の様に打ち鳴らされる鼓動が元に戻るまではもう少し時間がかかりそうだったので、そのまま静かに冷たいデスクの上へと額をくっつけたのだった。