そうして「同じ」が増えていく キバナとダンデが結婚してから、季節が二巡した頃。キバナは最初こそ緊張はしていたものの持ち前の人当たりの良さを発揮し、今ではダンデの家族とも打ち解け、纏まった休みの日に一緒に団欒することも増えていった。 この日も、キバナ達2人揃っての休みというタイミングで、ダンデの母親から夕飯のお誘いがあった。現在は、キバナとダンデの母親が、持ち込んだ手土産の軽いお菓子を摘みながらキッチンの一角でゆるゆると夕飯の支度をしているところであった。
「シチューの味付け、こんなもんで良い?」
「ん。…良いわね!キバナ君凄いわぁ。どんどんレシピ覚えていくわね!」
完成間近のシチュー鍋を前にしながら、最近流行りのレシピやちょっとした失敗談。なんて事ないような内容だが、2人は次々と賑やかに会話を広げていく。因みにダンデも手伝おうとしてくれていたが、シチューに入れるきのみを手で握り潰して入れようとしたので速攻で戦力外通知を受け、拗ねたままダンデの祖母に首根っこ掴まれてベッドメイクの手伝いに勤しんでいる。
シチューの最後の味付けが終わり、さて後は夕飯の時間までにウールー達の様子でも見に行こうかなんて話していた時、2階から軽やかな足音が降りてきた。
「なんか良い匂いがするぞ!」
「おー。やっぱり嗅ぎつけたか。今日はシチューだぜ。」
「やった!」
「ただ、まだ夕飯には早いからお預けだ。」
「えー!そりゃないぞ!もうオレ空腹のゴンベくらい腹減ってるのに。」
「そりゃ、相当だな。」
ガックリと肩を落とすホップを見て、ケラケラと笑いながらキバナは洗い物を進める。
「ちぇー…あっ!じゃあオヤツ食べたい!キバナさんも食べるか!これ、めっちゃ美味いんだぞ!」
「夕飯前に大袋開けようとすんなよな。どれどれ。」
どうしても空腹に勝てなかったホップがパントリーから持ってきたスナック菓子の袋を、ひょいっと裏返して原材料を見る。その行動を見た瞬間、ダンデの母親が目を見開く。
「あら。」
「「?」」
揃って首を傾げていると、彼女はその2人の行動を見て今度は笑みをこぼす。
「かーちゃん、急に驚いたり笑ったりどうしたんだ?」
「いや、ごめんなさいね2人とも。あまりにもそっくりだったから…。」
「「そっくり。」」
何となく、キバナ達の動作に対してだろうが、いまいち内容が掴めずに疑問符を頭に浮かべたまま続きを待つと、笑い終わった彼女はとても穏やかな顔で話し始めた。
「この間あの子が泊まった時にね。ホップが今みたいにパントリーからお菓子を持ってきたら、貴方と全く同じように原材料を確認したのよ。あの子、今まで食べ物に何が入ってるかなんて1ミリも気にした事なかったのに。」
何でかしらって思っていたのだけれど今のキバナさんを見て納得したわ。やっぱり家族ってどんどん似るのねぇ。
なんてしみじみと言われ、キバナは何だか嬉しいやら恥ずかしいやらで珍しく顔を赤くする。
「そっか!確かにアニキとキバナさん、すっごい仲良しだもんな!」
そう、ホップに無邪気な言葉でトドメを刺されて今度こそキバナは片手で自分の顔を覆いタイムを要求するが、その後「そっか!もしかしてさっきオレとキバナさんが振り返った顔も似てたのか?オレ達も仲良しになってきてるもんな!」なんて追撃が来て、キバナは今度こそパントリーへと籠城した。
「困ると近くの狭い所に隠れるの。それも小さい頃のダンデにそっくりよ。」
息子さん、今もその癖は健在です。そう掠れた声で返しながら、キバナはそのまま座り込んだ。途端弾けたように響く笑い声を、扉一枚越しに聞きながらキバナも笑った。笑いながら、オクタンのように赤くなった顔をダンデが戻って来るまでに冷まそうと躍起になったのだった。