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    なつだ

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    なつだ

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    クリスマス前の短いひふ幻。またも夢野せんせーが乙女になった。

    まるでサンタクロース『元気?ちゃんとご飯食べてる?』

     年末進行の最中、集中力が切れた時ふと彼を思い出し、彼から来たメッセージを見返してみた。

     そのメッセージに適当に返答してやりとりが途切れたのが三日前。聞いてはいたがあのマメな彼がここまで連絡をして来ないということは相当忙しいのだろう。
     まあ、なんといってもクリスマス前の時期、接客業である向こうはまさにかき入れ時で休む暇もなさそうだ。
    このまま年末までバタバタと忙しいのだろう。そしてそれは締切が年末手前にあるこちらも一緒なのだが。

     それにしても、たかが三日ではあるがなんの連絡もないことは付き合ってから初めてのことだ。今までは会えないことはあっても、電話やテキストでのやり取りはしていたので、なんだか不思議な気分になる。

     幸いとでも言うべきか、クリスマス当日は夜から乱数の事務所で帝統と三人でパーティーをする予定も入っている。それまでには自分の仕事も目処が立っている予定なので、そこまでなんとか凌いで頑張るだけだ。

     年始はあっちも休みとのことなので何日かは一緒にいる予定もある。
    だから、何かを思う必要はない。
    寂しいとか、会いたいとか、せめて声だけでも聞きたいとか。
    ……今声を聞いたら逆に何かが決壊するかもしれないのでそれはそれでまずい。
    とにかく、あと半月ほど駆け抜ければいいのだ。

     こんな感傷に浸っているヒマはない、さっさと仕事に取り掛かろうとスマホを置いて机に向き合った瞬間、着信音が鳴った。
    再度画面を覗けば、そこには今まさに思い出していた人物の名前が。

    「……っ、」

     自分でも信じられなかったが、着信が来て名前が表示されただけなのに込み上げるものがあり、今電話に出たら色々とバレる気がして、通話ボタンをタップすることが出来なかった。
    しばらくすると一度着信は切れたが、すぐに着信音が鳴った。
    取るに取れず迷っていると、自宅のチャイムも鳴った。
    これ幸い、チャイムの方が優先順位が高いと踏んで返事をしながら鍵を開けるとそこには。

    「お、やーっぱいんじゃん」
    「あ、あなた…….なぜここに、」

     姿を見て絶句した。目の前には今もなお鳴っているコール音の発信源である、一二三が立っていた。

    「今から行くよーって電話したのに出ないんだもん」
    「直前過ぎますよ……!というか、あなた仕事は?」
    「今から。マジで時間なくてあと5分くらいしたら行かなきゃないんだけどさ」
    「そんな時になんで……」
    「決まってるじゃん!幻太郎に会いたかったんだよ!」

     一二三はそう言って幻太郎を抱きしめた。いつも笑顔の印象があるが、直前に見た一二三の表情は必死な顔付きだった。

    「うあ〜〜〜〜〜」
    「どうしたんですか」
    「久々の幻太郎堪能してる。会いたかったよ、声も聞きたかったし顔も見たかった」
    「顔見えてないじゃないですか」
    「抱きしめながら顔見る方法ないかな……」
    「……あなた相当疲れてますね」

     チャージさせて〜、とさらに力を込めて自分を抱きしめる一二三に、ふ、と笑みが溢れて自分も抱きしめ返す。
    確かに、自分もこの体温を感じたかったし声も聞きたかった、顔も見たい。
    一二三が言った、抱きしめながら顔を見る方法があればいいのに、なんて柄にもなく思ってしまった。

    「……うう、離れたくない」
    「子猫ちゃんがお待ちなのでは?」
    「それはそう!だけどさあ!」

     ほんとに時間ない、と悲しそうに言ってから一二三は体を離すと、軽くキスをしてから名残惜しそうにドアに手をかけた。

    「年明けはゆっくりしよーね!」
    「はいはい。いってらっしゃい」

     まるで嵐が来たようだ、と閉まったドアを見る。鍵をかけようと手をかけるが、一瞬でも一二三に会えたことでなんだが胸がいっぱいになりしばらくその場に立ち尽くす。

     忙しい時間を割いて自分に会いに来てくれた。それだけで最高のプレゼントをもらえた気がして、まるでサンタクロースだな、なんて笑みが溢れる。忙しそうにたくさんの子どもにプレゼントを配る姿なんて、それこそたくさんの子猫さんに愛を与える一二三とどこか似通っている。
    なんて考えながら鍵をかけようと再度手を伸ばした瞬間、勢いよくドアが開いた。

    「え、」
    「あぶねー!これ渡すの忘れてた!!」

     そこには少し息が上がった一二三がいて、これこれ!と目の前に紙袋を渡された。

    「作ったから食べて!冷蔵庫入れれば長持ちするから!」
    「はあ、」
    「ちょい顔色悪い、ちゃんと食べないとダメだかんね!」
    「わ、わかりました」
    「……ごめんね、寂しいよね」
    「え?なんのこと、」
    「そんな顔させてごめんね。また来るよ」

     じゃあ、また!と本当に時間がないのだろう。言いながらあっという間に立ち去ってしまった。

    「…………」

     またもや嵐のようで息つく暇もなかった。なんだか最後にはよく分からないことを言われた気がして、反芻しつつ手にある紙袋の中身を見てみる。
    そこには最近日本でも知られるようになってきた、確かシュトーレンといったか、が入っていた。作ったというから本当に器用なものだ。とりあえずそれを冷蔵庫にそのまま入れて、作業机の前に戻る。

    「そんな顔って、どんな顔だ」

     一二三が言っていた言葉を独りごちる。自分では隠したつもりだったが、まさか表情に出てしまっていたのだろうか。

     確かにあの時、皆のサンタクロースであることは分かっているけど、自分の元に早く帰ってこないかななんて考えてしまっていた。

     だとしたらものすごく恥ずかしいし、一二三に余計な負担をかけていないか心配になる。互いに大人で仕事もあるので負担にはなりたくないから、今日みたいに会えるのは嬉しいが無理はしてほしくないのに。

    だから会うのは避けたかったのだ。結局色々バレてしまった気がして羞恥心が募る。

     こういうときには仕事に集中してしまおう、と気を取り直してパソコンに向き直る。早く会いたいので、こちらも早く仕事を終わらせて会いに行ってやるくらいしてやろう。


     そんな幻太郎が後々一二三のシュトーレンを食べようと冷蔵庫から出した時に、キンキンに冷えたネックレスも一緒に出てきて、ますます仕事を早く終わらせようと躍起になるのはまた後の話。





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