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    marintotiko

    @marintotiko
    大逆転裁判2らくがき投下用。兄上右固定でいろいろ。リアクションありがとうございます!!👼🌟
    憂もりも投げます。

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    marintotiko

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    兄様とシャーリーがエンカウントしてしまう話(未完)。6巻以降10巻未満くらいの時系列。
    ウィルアル風味。

    *


     人払いしたユニバーサル貿易社の来客室で、アルバートはある人物と相対していた。

     よほど重要な案件でなければ彼ーーーマイクロフトがここに足を運ぶことはない。今回の作戦の報告自体はさほど重要性は高くなかったから、なにか別の目的があるのだろう。

    「さて、ここからは私の独り言なのだが…」

     思った通り、帰りがけにマイクロフトは芝居がかった口調で口を開く。独り言云々については、アルバートがまだ陸軍中佐であった時のそれの意趣返しに違いない。

    「ディオゲネスクラブの会員が複数名、ここ最近姿を見せなくなっている。もちろん、単純に他のクラブに興味が移ったというなら問題ないが…」

     彼はそうとは思っていないから、こうして独り言を装った情報提供をしているのだ。

    「我がクラブの特性上、会員の素性や動向を詮索することはできない。問題がクラブの中で起こっているわけではないのでな。そして、現状あくまで噂レベルの話であるが、どちらかと言うと君たち向きの問題であると思う」

    「…………。お話はよく分かりました。当然、クラブに入会するための推薦状は長官が書いてくださるのですよね」

     マイクロフトは、部外者ではあるものの《計画》について知る数少ない一人だ。その彼がこのような物言いをする以上、無視するわけにはいかない。秘密裏に調査する必要があるだろう。

    「勿論だ。ただ…当クラブに出入りするのなら、君にとってはひとつ問題が生じるかもしれないが」

    「問題……」

    「なに、君が我がクラブの《ルール》を遵守する限りは何も起こらないだろう」

    「……ご忠告、ありがとうございます」

     アルバートは優雅に一礼すると、今度こそ上司の退室を言外に促した。



    *



     ディオゲネスクラブの《ルール》というのは、思った以上に厄介だった。社交界での情報収集は慣れたものであったが、それは何気ない会話の端々から欲しい情報を誘導して聞き出す手法を用いている。一切口を効いてはならないこの状況下では、その手は使えない。ここ数日で得られたのはせいぜい、それぞれの会員たちが好む新聞記事や煙草の銘柄……その程度の情報だった。

     ウィリアムの知恵を借りれば情報収集も捗るに違いないが、彼は今他の作戦を遂行中だ。不確定な要素が大きい現段階では、あまり手を煩わせたくなかった。

     今日もたいした進展も得られないまま時間が過ぎるのだろうと半ば諦めかけたその時。必要以上の静寂が約束されたクラブのホールの入り口の方で、なにか大きな音がした。

     様子を見に行くと、興奮状態でなにか口走っている男の足元にもう一人男がうつ伏せで倒れている。状況から言って、殴り倒されたに違いない。最初は麻薬絡みのトラブルかと思ったが、殴った方と思われる男に麻薬使用者特有の症状は認めない。お前のせいで妻と別れたなどと罵っているところを見ると、所謂痴情のもつれのようだ。

     他の会員たちは我関せずという顔で遠巻きに見ており、薄情なことに誰も倒れた男に近づく者はいなかった。アルバートとて無視を決め込みたかったが、トラブルを放置したとなればあとでマイクロフトになにを言われるか分からない。
     
    「君、大丈夫か」

     アルバートはクラブの《ルール》を破りーーーこの場合は不可抗力だと思うがーーー、うつ伏せに倒れた男を助け起こそうと声をかけた。

    「この声…………」

     声を聞くなり、突然男はうつ伏せのままアルバートの手首をきつくつかんだ。驚きのあまりうっかり相手の息の根を止めそうになったが、こんなに目撃者の多いところで殺しをするわけにはいかない。

    「よお……また会えて嬉しいぜ」

     アルバートの手首を拘束したままゆっくりと顔をあげたのは、マイクロフトの弟ーーーシャーロック・ホームズであった。






     クラブの中では会話が制限されるため、アルバートは場所を移した。当然のように、シャーロックがついてくる。馬車をつかまえれば一緒に乗り込んできそうな勢いであるので、あえて徒歩での移動を続けた。

     シャーロックとは機密文書と一人の女性の命を巡り、礼拝堂の懺悔室で仕切り越しに対面していた。顔は見られていないが、当然《声》は聞かれている。マイクロフトの忠告はこのことだったのだろうーーーもちろん、懺悔室での彼の弟とのやりとりの詳細を話していたわけではないが、ウィリアムほどでなくとも、彼もまた政府そのものと言われるだけの頭脳の持ち主である。状況を推測されていた可能性は高い。

    「……だから、何度言ったら分かるのかね。私と君とは初対面だ」

     まるで親鳥の後を追う雛のように追いかけられるのは、はっきり言って鬱陶しい。うんざりした心地でアルバートは振り返った。

     この邂逅は想定外である。ウィリアムの計略通りに、アドラーの生存を察したシャーロックは、《モリアーティ》の名が書かれた彼女のメモを中身を見ずに破棄しているはずだ。だから、こちらが不用意な発言をしない限りは正体の特定に至る証拠はないが、そのせいで付きまとわれる羽目になるとは。こんなことなら事前にウィリアムと探偵を追い払う方法を打ち合わせておくのだった。

    「あんたと会話した記憶がある」
     
    「君の記憶など何の証拠にもならないと思うが。死んだ人間のついての記憶の中でも、もっとも早く忘れるのはその者の《声》だというよ」

    「たしかに、声だけならそうかもな」

    「なっ……」

     不意に襟をつかまれると、首筋に鼻を埋められる。うっかりいつも隠し持っているナイフに再び手が伸びそうになるが、ぐっとこらえた。彼は、ウィリアム必要としている人間なのだ。こんなところで無闇に殺してはならない。
     
    「うーん、さすがに香水は変えたか」

    「…………」

     あの対面の日の後すぐに、ウィリアムに新しい香水を贈られたのでそちらに変えている。てっきり作戦の成功祝いの品だと思っていたが、どうやらそれだけではなかったようだ。

     いまだ首筋で大きく息を吸い込んでいる様子に、すれ違う人々が奇異の目を向ける。自分までも頭がおかしい人間と思われてしまうではないか。こんな屈辱を受けたのはいつ以来だろう。

    「いい加減にしたまえ、犬じゃあるまいし」

    「犬か……うん、その手もあったな」

     何とか引き剥がしたシャーロックには、ちっとも悪びれた様子はない。ウィリアムが選んだ人間でなければ、今すぐその首を掻き斬ってテムズ川の底に沈めているところだ。

    「……そもそも、何か用事があってクラブに行ったのだろう。私に構っている暇があるのかな」

     あえて幼子に言い聞かせるように諭してみるが、シャーロックは気にする様子もなく答える。

    「最近様子がおかしい旦那の調査してほしいっていう依頼でな。そいつが兄貴のクラブの会員で、同じクラブに出入りする人間が怪しいってとこまでは調べがついた。だが、今日は俺のお目当ての人間はいないと断言できる。試しに騒ぎを起こしてみたが、不審な動きをする奴はいなかった」

    「…それでも、医者に行くなり、被害届を出すなり…」

    「あれは、前に来た時に浮気してるのを指摘してやった男だ。せっかく忠告してやったのに浮気がバレて、逆恨みしやがったんだろ。俺が何かしなくても、三度目の違反のあいつはどの道もう出禁。さらに逮捕となっちゃカワイソウだからな。それに、医者の方は間に合ってるからご心配なく」

     シャーロックを引き離す理由をすべて潰され、次の一手を考える。しかしアルバートがなにか思い付くよりも早く、シャーロックが再び口を開いた。

    「それより、あんたの方は何であんなところにいたんだ」

     どうやらこの探偵の興味は、ここで押し問答しても意味がない《犯罪卿》の正体よりも、アルバートの現在の行動そのものに移ったようである。いや、始めからそれが目的なのだろう。

    「……紳士の嗜みとして、クラブに通っている。理由はそれだけで十分だと思うが」

    「好んであんなクラブに所属する事なかれ主義の人間なら、倒れた俺のこと助け起こそうとなんてしないだろ。何か目的があって、わざわざ嗜好に合わないクラブに通ってたはずだ」

    「……私が、事件の犯人だとでも言いたいのかな」

    「まさか。もしそうなら、こんな風に和気藹々と話してないって」

     今のこの状況に和気藹々という表現が当てはまるかは甚だ疑問だが、アルバートはその疑問は飲み込んだ。いずれにしても、彼がこの事件を調べているというのなら任せてしまってもいいかもしれない。アルバートとはどうにも反りが合わないとはいえ、ウィリアムが認める推理能力は間違いなく、事件解決に導いてくれることだろう。後で、結果だけを吟味すればよい。
     
    「君の言う通り、私もある筋から事件の可能性について耳にし、個人的にクラブのことを調べていた。だが、君が調べるつもりなら手を引こう」

    「なんでだよ。ここは協力しようぜ」

    「君は先程まで私の素性を疑っていたのではないかそんな人間と、手を取り合って調査などできるものかな」

    「俺はあんたの素性を疑ってるなんて一言もいってないけどただ、会話したことがあると言っただけで」

    「…………」

     たしかにそうだった。今のは失言である。モランを思わせるような粗野な口調だが、その言葉のひとつひとつにはこちらの粗を暴こうとする罠が仕掛けられているのだ。肝に命じなければ。

    「じゃあそういうわけで。明日また同じ時間にクラブの前に集合な」

     アルバートが自省している間に、ちゃっかり再会の約束を取り付けられていた。



    *



    「兄さん、何だか随分お疲れですね」

     ロンドンの屋敷に帰って早々、ウィリアムに労いの言葉をかけられる。ダラムと行き来しながら、モランやフレッドたちを総動員した大がかりな案件を遂行している彼の方が、ずっと疲れているはずだ。今回の調査は《計画》とは関係ないので、ある程度形が見えるまでは弟の耳にいれないというアルバートのスタンスにかわりない。

    「野良犬になつかれてしまってね」

    「犬……ですか」

    「出来の悪い弟をもつ兄というのは、こんな気分なのかな…」

     かつて、屋敷ごと炎に包まれた実弟のことは弟としてカウントしていない。

    「それは妬けてしまいますね。兄さんにとって弟は、僕とルイスだけでしょう」

    「もちろんだとも」

     アルバートが相槌を打つやいなや、ウィリアムが急接近する。それを疑問に思う間もなく、首筋を吸われた。

    「ウィル……」

    「兄さんに悪い虫がつかないように。ああ、虫でなくて犬でしたか。あまり、無防備にならないでくださいね」

    「…………」

     してやったりというような笑顔を前に、今日の探偵とのやりとりなどすべてお見通しなのかもしれないと、ぼんやり思った。



    *
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    marintotiko

    MAIKING兄様が子ども化する話の子ども化する前の序章。つづきは思い付いたら書きたい。*



    「ふう……」

     アルバートがロンドンの屋敷に戻った時には、夜中の二時を回っていた。思わず、らしくないため息がこぼれる。弟たちがこの場にいれば心配させてしまったかもしれないが、幸い彼らは週末まではダラムに滞在している。

     ここ最近はMI6や社交界がらみのことで連日忙しく、ほとんど睡眠もとれていない。疲労の蓄積を強く感じる。まだしばらくこの忙しさは続くだろうから、油断すれば文字通り倒れてしまいそうだ。ウィリアムの知恵を借りれば、もう少し負担は減るのかもしれないが。

    ーーーいや、このようなことでウィルに頼るなど。

     だいぶ弱気になっていると、アルバートは自嘲した。神のごとき知能をもつ弟に頼るのは、あくまで《計画》やそれに準じる事のみと決めている。たとえどんなに時間がかかろうと、人間ができることは神にすがることなく人の手で解決するべきなのだ。そもそも、自分の頭脳などウィリアムの半分程度の働きしかできない。それならば、彼の半分程度の睡眠時間で十分であるはずだ。

     ベッドの中に入ってもなお現状の打開策を考え続けるアルバートの心身は、その日も完全に休まることはなかった。




    2019

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