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    marintotiko

    @marintotiko
    大逆転裁判2らくがき投下用。兄上右固定でいろいろ。リアクションありがとうございます!!👼🌟
    憂もりも投げます。

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    marintotiko

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    第二話の冒頭ダラム屋敷での、ルイスと兄様の捏造話です。ウィル←アル要素がある。

    *


    「さて。ウィリアムが帰って来るまでに、あらかた片付けてしまおうか」

    「はい、兄様」

     返事をしつつも、なんとなく漂う気まずさからルイスは目を逸らした。

     実兄・ウィリアムが数学教授を勤めるダラム大学。その近くに家具つきの屋敷を安価で手にいれたアルバートの手腕はたしかに見事なものであった。ウィリアムの通勤時間を大幅に短縮できることは、ルイスとっても喜ばしいことだ。

     そのウィリアムはまだ、この新しく購入した屋敷に来ていない。大学の事務で転居の手続きとーーーついでに先日抹殺した貴族院議員の件の後始末も済ませてくるつもりなのだろう。共に行動できないのは残念であるが、実兄が帰るまでにこの屋敷を完璧に仕上げるのが今日の自分の仕事だと割りきっている。

     けれど、ここでひとつ、ルイスにとって大きな誤算が生じた。普段はロンドンに住むアルバートが、わざわざ軍の仕事を休んでまで、屋敷の掃除の手伝いに名乗り出たことである。兄弟三人で行動するか、あるいはアルバートが単独行動することが多いため、アルバートとルイスが長時間完全に二人きりというのは、ほとんど初めてのことであった。

    「兄様は軍のお仕事でお疲れでしょう。掃除は私がやりますから、どうか休んでいてください」

    「そういうわけにもいかないよ。お前だけに押し付けたと知れたら、ウィルに怒られてしまうからね」

     ウィルーーーいつからか、アルバートは実兄を愛称で呼ぶようになった。まるで、生まれた時からずっと仲のよい兄弟であったかのように。

    「私はホールからとりかかろう。ルイスは、書庫の方をお願いできるかな」

    「書庫、ですか…」

     今夜にもすぐに使用するであろうキッチンや寝室でなく、真っ先に書庫を指定するとは。意図が読めず、ルイスは首を傾げた。

    「ウィルが帰ってきたら、真っ先に書庫を見たがるのではないかと思ってね」

     そう言って微笑むアルバートに、ルイスはなぜか複雑な気持ちになる。

    「分かりました、兄様」

     短く返事をすると、ルイスは書庫に向かった。




    *



     本棚の埃をはらい、本を整理するという作業は、ルイスの明晰な頭脳にとっては単純すぎるものだった。だからこそ、こうして手を動かしながらも余計なことを考えてしまう。

     ーーー同じ魂をもつ人。

     いつだったか、実兄がアルバートのことをそう表現したことがある。それを聞いたルイスは、実兄とアルバートの二人と、自分との間にまるで見えない壁が出来たように感じた。実際に、実兄とアルバートが何か《計画》について話し込んでいる時には、雰囲気に圧倒されて話しかけるのも躊躇してしまうことがある。彼と出会う前は、誰よりも実兄を理解していたのは自分だけであったのに。

     そもそも、アルバートにとって必要だったのはウィリアムの頭脳であり、彼にしてみれば自分はおまけのようなものなのだ。無理をしてまで二人の間に入っていく必要はない。ならば、実兄と慕うのと同じ熱量で新しく出来た兄を慕う必要もないだろう。本を整理すると同時に、ルイスは自分の思考にもあらかた整理をつける。

    「ルイス…、ルイス」

    「……に、兄様……」

     書庫のドアのところに、いつの間にかアルバートが心配顔で立っていた。己の思考に沈むあまり気づくことが出来なかったようだ。

    「何度か声をかけたのだが…どうかしたのかい」

    「いえ、少しぼんやりとしていました。兄様こそ、どうされましたか」

    「ホールの掃除が終わったから、それを伝えに」

    「さすがは兄様です。こちらもそろそろ終わり…」

    「ルイス」

     ルイスの言葉を遮るように、アルバートが名を呼んだ。いつもの余裕に満ちた微笑みは鳴りを潜め、悲しそうに目を伏せている。

    「まだ、私を《兄》と呼ぶのは慣れないかな」

    「……」

     先程までの思考を読まれたかのような発言に、ルイスは驚いた。

    「お前にとって《兄》とは、唯一無二の存在であるウィリアムのことだけを意味することは分かっている。その上で、今の私を兄と呼んでくれること、感謝しているよ」

    「それは…当然のことです」

     モリアーティ三兄弟の末弟として振る舞うことは、実兄の意向でもあるのだから。

    「それに…お前がもし、私がお前を必要としていないと思っているなら…それは間違いだ」

     アルバートは再び微笑む。

    「私には、お前が必要だよ」

     それは、優しい声音だった。かつて少年だったアルバートが、孤児院の子どもたちに絵本を読み聞かせてあげていた時のような。

    「なぜ…」

     ルイスが発したのは、かろうじてその一言だけだった。

    「お前は、誰よりもウィリアムのためだけに行動できる人間だから。私よりも…、ウィル自身よりも」

    「兄さん自身よりも…」

    「そうだよ。だから、もしも私が、私の個人的な感情により、ウィルにとって害となることがあったら」

     アルバートの緑の瞳はじっとルイスを見ている。色彩は正反対であるのに、なぜか実兄の強い意思を秘めた瞳を思い起こさせた。

    「その時は、私を殺して欲しい。あの時のように」

    「あの時……」

     この人を殺そうとしたことがあっただろうかと、ルイスは一瞬考え込んだ。まだ、モリアーティ家に招き入れられる前の孤児院で、アルバート曰く《素晴らしい授業》を彼に目撃されたーーー正確には、目撃させたーーー時のことを思い出す。もし兄に危害を加えようとしたら、背後からナイフで襲う算段であった。もっとも、兄自身はアルバートのことを最初からまったく警戒していなかったのだけど。

    「気付いていたのですね」

    「後ろからあれだけ殺気を向けられていたら、ね」

    「それは…、修行不足でした。まだ、先生に師事するよりも前でしたからね」

    「殺気を気取られるなど、今なら先生に修行のやり直しを言い渡されそうだね」

    「大丈夫です、今なら兄様にも気づかれないように殺れますから。先生も太鼓判を押してくださるでしょう」

    「フフッ…それは頼もしい。その時がきたら任せたよ」

     話しているのは物騒な内容なのになんだかおかしくなり、どちらともなくくすくすと笑いだした。実兄のいないところでもこのように笑える自分がいたことなど、今まで知ろうともしなかった。

    「個人的な感情、ですか……。兄様は、ウィリアム兄さんのことが好きなのですね」

     ひとしきり笑ったあとのルイスのつぶやきに、アルバートは虚をつかれたように目を見開いた。感情表現が豊かだった子どもの頃ならともかく、今では滅多に見られないような表情である。

    「参ったな…隠している、つもりなのだが」

    「分かりますよ。兄様のことも、《弟》としてずっと見てきましたからね」

    「……ありがとう、ルイス」

     アルバートのこぼした笑みはいつもの綺麗で冷たい微笑とはどこか違う、きっと心からの笑顔なのだろうと思う。そんな長兄の姿を見て、ルイスの口元もわずかに緩んだ。

    「さて。急いで残りの部屋に取りかからないと、兄さんが帰ってきてしまいますね。私はキッチンを見てきますから、兄様は寝室をお願いします」

    「ああ、分かった」

     最初の時とは逆に、ルイスがアルバートに指示を出す。自分でも驚くくらい、違和感はなかった。

     それぞれの持ち場に向けて歩き出すと、ふとアルバートが足を止める。つられてルイスも立ち止まった。

    「そうだ、ルイス。後でも良いのだが、書庫から何冊か見繕っておいてくれないか」

    「良いですけど…兄様が読まれるのですか」

    「いや、ウィルの分だよ。あの子のことだから、休むのも忘れて初めて見る書庫を夜通し探索しかねない。だが、ルイスがわざわざ選んでくれたものを差し置いてまで、書庫にこもることなど出来ないだろうからね」

    「たしかにそうですね。分かりました、兄さん好みの本を選んでおきましょう。目移りなどさせませんよ」

     ルイスは力強く頷いた。



    *



     予定よりもかなり遅れて、ウィリアムは帰ってきた。実兄がこっそり教えてくれたことには、アルバートの地図があまりにも詳細すぎたのが迷った原因でもあるという。アルバートのウィリアムへの想いが詰め込まれ過ぎてしまった結果なのだと気付けば、なんだか微笑ましい気持ちになる。

    「ところでルイス。兄さんと何か話したの」

     ルイスが選んだ本を受け取りながら、ウィリアムは興味深そうに聞いてくる。

    「何か、というと…」

    「うん。何だか、いつもの二人と違うなって」

     分かっていることだが、実兄は鋭い。しかしさすがに、書庫で繰り広げられた話の詳細までは言わない限り分からないだろう。いつもはアルバートと二人で立ち入りにくい話をしているのだから、少しくらいルイスだけが知るアルバートがいても罰は当たらないはずだ。

    「秘密です」

     アルバートが時折する仕草を真似て、唇に人差し指に当てて言い放てば、ウィリアムはぱちくりと瞬きをする。実兄のそんな無防備な表情は滅多に見られない。今日は珍しいものばかり見る日のようだと、ルイスは思った。
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    Replies from the creator

    marintotiko

    MAIKING兄様が子ども化する話の子ども化する前の序章。つづきは思い付いたら書きたい。*



    「ふう……」

     アルバートがロンドンの屋敷に戻った時には、夜中の二時を回っていた。思わず、らしくないため息がこぼれる。弟たちがこの場にいれば心配させてしまったかもしれないが、幸い彼らは週末まではダラムに滞在している。

     ここ最近はMI6や社交界がらみのことで連日忙しく、ほとんど睡眠もとれていない。疲労の蓄積を強く感じる。まだしばらくこの忙しさは続くだろうから、油断すれば文字通り倒れてしまいそうだ。ウィリアムの知恵を借りれば、もう少し負担は減るのかもしれないが。

    ーーーいや、このようなことでウィルに頼るなど。

     だいぶ弱気になっていると、アルバートは自嘲した。神のごとき知能をもつ弟に頼るのは、あくまで《計画》やそれに準じる事のみと決めている。たとえどんなに時間がかかろうと、人間ができることは神にすがることなく人の手で解決するべきなのだ。そもそも、自分の頭脳などウィリアムの半分程度の働きしかできない。それならば、彼の半分程度の睡眠時間で十分であるはずだ。

     ベッドの中に入ってもなお現状の打開策を考え続けるアルバートの心身は、その日も完全に休まることはなかった。




    2019