私は貴方だけ俺を助けてくれ
まだ君主になるまえの彼の本音
それを聞いた時からずっと奥底の…見せられない部分であぁ、彼には私しかいないのだと勝手に歓喜し君主の為にと仕えていた
1番最初に仕えた幹部級の為か、共に戦場を駆け背中を守り、常に側にいるのが当たり前だった
それなのに10.20と影の数が増え幹部級が私だけでなく1人また1人と増えていくと君主が私に頼る頻度が減った
君主から別の部隊を任され指揮し動く事が増えたからだ
君主と共に駆ける元人が…背に乗せ滑空する竜が…誰よりも先陣をきって駆ける蟻が…同じ兵士だとしても憎くて仕方なかった
物理的な距離があり、活躍も忠誠を示そうにも、首を差し出すのも禁止されており、君主に近寄る機会が全くない
離れた場所で君主を観察すれば何か功績を挙げたのだろう、よくやったと蟻の肩を叩く姿が目に入り、ない筈の心臓が止まる
なぜ…
衝撃で身動かできずにいたら兵士の合間を抜けてきたウルフにバツンと胴体を噛みちぎられ身体の維持が出来なくなり影に戻る
何たる失態…
影に戻り嘆く、そして先程の光景を思い出し更に嫌悪と憎悪が膨れる
引っ張られる感覚に逆らう事なく君主からの召喚に応じる
「お前らしくないな、大丈夫か…?」
「貴様っ!君主様の命令を遂行できないと…」
「ベルだまれ」
「キェ…」
実体化し現れた時には既に事態は収束しており、各兵士達が其々の役割を分担していた
君主の隣を当たり前に占領する熊と、気軽なやり取りをしている蟻の姿を見たらもうとまらなかった
なぜお前たちがそこにいる…?
そこ(君主)は私の場所だろう
気が付いた時には長剣を蟻の首目掛け槍のように突き出すが硬い甲殻で防がれガチガチと不快な音が響く
瞬時に腰から短剣を引抜き、左目目掛け突き立てる
「ギッッ!」
「はっ?おい!?」
予想外の攻撃に怯み自由になった長剣を再度振り下ろせば蟻の首は放物線をえがき、地面に落ちる前に飛散した
君主の驚愕した声が聞こえるが、今は無視をする
貴方と話する為にも、少しだけお待ち下さい
振り下ろした勢いのまま熊の頭をかち割れば飛散する姿に笑みがとまらない
事態を把握し止めようと寄ってくる兵士も、暴挙に困惑している兵士も皆一様に潰し飛散させる
あと少しで終わるというときに、君主が懐に飛んできた
暴挙に困惑しているのか、普段より威力の落ちている突きを左手を開き受け止める
「な…」
防がれると思っていたのだろう、ずぶりと手の甲を貫通した短剣に驚きが隠せないのか目を開く姿に歓喜する
短剣を持つ手ごと握り抵抗する君主を引きずり残りの兵士を始末する
「おまえ…何がしたいんだよ…」
2人っきりの空間で唖然とする君主の手を離す
今だにこの現実と暴挙に混乱しているのだろう、見上げて来る瞳は最初に会った頃の様に不安に揺れている
そんな君主の前に跪き君主の手を取り指先にキスをする
どうか私だけをみてください