「そういえばなんでキズが残ったんだ?」
無事にダンジョンを攻略し影の抽出中にふと、口に出していた
タンクの様に生前に出来た傷がそのまま反映されて抽出される場合もあるが、両腕をもがれ首を両断された傷跡は残っていなかった
腹を貫かれた上原…アイアンも傷跡もなく抽出された
死に際のキズは残らないのか?なんて思っていたが例外がいた、イグリットだ
転職ダンジョンで対峙した時の紅い甲冑をまとっていたイグリットの面には多少ヒビが入っており角?も片方欠けていたが左目に傷は無かった
その傷をつけたのは俺だ
まだ影の兵士が少なかった頃は気にしていなかったが、抽出する回数が増えていくにつれ疑問は膨らんでいたが如何せんイグリットと会話が出来ず、聞きそびれていたのだ
抽出も終わり、採掘部隊を待ってる間の時間潰しにと背後に佇んでいるイグリットに向き合った
「貴方が望み、私もそれを望んでいた…このキズが残ったのはそうゆう事です」
「俺が望んだ?」
全く記憶に無い…なんてイグリットに返せるはずも無く続きを促すが、顔に出ていたのか覚えていませんねと笑われてしまった
「あの時貴方との勝負に私は傲り負けました」
「おい」
「ですが負けて良かったと思っています、勝っていたら貴方と共に歩めませんでしたから」
失礼と声をかけられ、おもむろにイグリットの顎下に手を運ばれ不思議そうに見やる
「ちゃんとここも残っていますよ」
スゥと目を細められ静かに説いてくるイグリットにざわりと何かが這い回り居心地が悪く視線をずらしてしまう
話せるようになって分かったがイグリットは少し意地が悪い
「どうして私がキズを残したいと望んたか分かりますか?」
「え…いや、なんでだ?」
「初めて頂いたモノはちゃんと残しておきたいじゃないですか」
例え私を殺すための一撃であっても…
「なぜ、貴方は私にキズが残るのを望んだのでしょうね
」
気が付いたら密着する位距離が近いイグリットにバクバクと心臓が荒ぶる
「貴方がその感情と気持ちに名を付け理解したら私にお教え下さい。私は貴方がここに来て下さる事をお待ちしておりますから」
そう言い残しイグリットは勝手に影に戻っていった
いつの間にか採掘していた、影も居なくなっており
耳まで真っ赤にしたS級ハンターが1人立ち尽くしていた