「お願いします…いえに、帰らせて下さい」
部屋に入ってきた紅い騎士の足元に這いずり無様な土下座をし懇願する
右腕と左足が無いためかなり不格好な姿だが、今の旬に出来る行動はこれしか無かった。
「妹が、1人で待ってるんです…おねがいします…」
欠損し、まともに歩けない旬はこの紅い騎士に頼る他無い、葵の元に帰れるならプライドなんて捨てられる
どれくらいそうしていただろうか
不意に紅い手が頬に添えられる、驚き顔を上げると
騎士が旬の前にしゃがみ込み見つめていた
「あ、の…」
するすると何度も撫でる手に困惑するが、おずおずと撫でる手に擦り寄ると紅い騎士の目がわらっていた
満足したのか、纏っていた紅いマントを外すと、旬に掛け直し片腕で簡単に抱き上げられる
好意的な扱いに緊張の糸が解れ、安堵から涙がじわりとにじみ出てくる
「ありがとうございます…」
カシャリと反転し扉の前に進む騎士にバクバクと心臓が煩くなる
かえれる…帰れる、帰れる…!
葵にどう説明しようか、今後の仕事はどうするか…と一気に思考し、扉の先の景色を今か今かと待ちわびる
かちゃん
「…、え」
扉に伸ばした手は無情にも鍵をかけていた
状況が理解できず唖然と騎士を見下ろすしか出来ない旬を他所に、騎士は旬を抱え直すと扉とは真逆の方へ歩き出した
「なん、で…」
離れていく扉に比例して息が荒くなる
与えられた希望と突き付けられた現実をやっと理解した、瞬間旬は絶叫をあげていた
邪魔なマントを振り払い、騎士の腕から逃げ出そうと必死に暴れる
「イヤだ!かえるんだ!かえらせろ…!!」
耐え切れずボロボロと流れる涙も気にせず紅い騎士の顔を殴り、脚で身体を蹴り上げるが騎士は怯むことなく突き進む
軽い足取りで進む騎士とは違い、次第に傷口が開きジワシワと血が滲み痛みと疲労で動きが鈍くなる
泣き入り、ひきつけをしている旬の左手を徐ろに掴むみ、自身の兜に添え旬を見つめる騎士に旬はようやく己の失態に気が付いた
縋ってはいけない相手に縋ってしまったのだと