対価はお前最近何かと運が良い
例を上げるなら、ダンジョンに参加しても怪我をしなくなった、敵が向かって来ても旬自身がトドメを刺せるぐらいに弱っていたりで難なく倒せるし、低ランクのダンジョンであるのに、高品質な魔鉱石を手にできたりとここ数日良いことが続いている
怪我も消耗品の買い替えもなく、高額な換金が出来ているため、通帳の残高はここ類をみない程潤っていて、気分は右肩上がりだ
良い事が続けば揺り戻しが必ず起こる、何事も上手くは行かない
薄っすらとその考えはよぎっていたが、どうせ大怪我でもして入院が長引くぐらいだろ…と高を括っていた
「ここ最近気分良く過ごせたろ?」
だから俺に報酬をくれよ
静かにコチラを見つめる存在に、こんな揺り戻しは想定しておらずただ男を見上げるしか無かった
協会からの要請で参加したダンジョンに潜れば魔物のランクは低いのに、高い魔力を放つ鉱石が大量に壁を埋め尽くしており、参加者たちは異様な雰囲気のダンジョンに困惑し、興奮していた
旬とて例外では無かったが、うっすらと漂う不安感に素直に喜べ無かったが、目前の欲には勝てず共に最奥に向かった
掘り出した魔鉱石を詰めるだけ押し込み、中には持参していた替えの武器や食料、医療キットを投げ捨て魔鉱石を詰めるハンターも居た
捨てて再度購入し直してもお釣りがでる…それほど良質な鉱石が大量だった
ボス部屋にはもっと良質な鉱石や宝があるかもしれない
そう考え入る時よりも増えた荷物を片手に最奥の扉を開いたら、人が居た
最初はぐれた参加者が一足先に来ていたのかと思っていたが、入る前の顔合わせにも居なかったのと、そこに佇んでいるだけなのに漂う禍々しさに皆圧倒され身動き出来ずにいた
緊張が走る中不意になにかが軽い音と共に地面を転がった
「…え?」
下を確認すれば、転がる度に赤い跡を撒き散らすヒーラーだった男の頭がそこにあった
そこからは阿鼻叫喚だった
各々扉に走るが、腕や足が吹き飛び地面から生えてきた黒い槍で体を貫かれたりと気が付いたら旬以外皆こと切れていた
「ゔっ、げぇ…」
鉄の匂いと視界に入る残骸に胃液がこみ上げ嘔吐する
なぁ…
ッ…え…?
血溜まりに佇む男に声をかけられ、意思疎通が出来ることに驚く
「お前が必要なモノは全て叶えてやった」
「か、かなえるって…」
粘度の高い水音を立たせ近寄る男からジリジリと距離を取る
「そこにある鉱石を全部売れば死ぬまで暮らせる金が手に入るぞ」
「っ…」
「あぁ…でもそれだけだと、葵が独りになるからだめだな…」
「!?な、なんで葵をっ…」
「母さんも治してやる」
「…!?」
一方的に話す男から家族の名前が上がり恐怖する、なぜ知っているのか
「そうすれば葵も母さんと暮らせるし、2人が苦労しないで暮らせる金も残せる」
男の提案が衝撃過ぎて足が止まり、向かい合っていた
「な、悪い話じゃないだろ?」
だから最大限お前の望みを叶えてやったんだから、お前も俺の望みを叶えてくれよ
微笑み手を差し伸べる男の顔と父親がダブって見えてどう答えるのが正解なのか旬には分からなかった
先の見えない地獄の扉が待っていたなんて誰も想像は出来ない