【ブラネロ】刻みつけるほどに溶かして 部屋に戻ってきた男が俺を見て軽く驚いたように目を見開いた。
まぁ、無断で入ることはほぼねえからな、一応。
「どうだった」
存外、穏やかな声が出た。
ネロはベッドに寝転がる俺のすぐ傍に腰掛けながら素直に答えた。
「なんつうか、…結果的によかったよ」
「…そうかよ」
まだ消化しきれていないような、それでいてスッキリしたような表情に少しばかりまず感じるのは安堵だ。
こんなに過保護だった覚えはねえんだが。
「実はさ、問題の場所っつうのが……」
穏やかに、苦笑混じりで話すのは俺から逃げたネロが最初に開いた店の話。
行かなくてよかった、という思いと同時に、俺の知らない場所にフィガロの野郎やミスラ達が踏み込んだ、というあたりがモヤモヤと腹に凝る。
独占欲……というやつなのだろうか?
「ブラッド?」
ベッドから勢いよく起き上がり、反転させネロをベッドに押し倒す。
押し倒されたこと自体はさして驚きもせずにネロがこちらを見上げる。
「すんの?」
「乱暴にしてえ気分だ」
ふと、らしくない言葉を口にしてみる。少し前までなら、冗談じゃねえ、くらいは返ってきそうなところだ。
だが。
ぽやっとした顔がじわりと何かを堪えるようにしかめ面になり、ぎこちなく視線が逸らされる。
頰がジワリと朱に染まり、ネロが口元を隠すように腕で隠した。
「……明日は今日の教室のお礼って言って、休み、もらってる」
「……」
思わずため息が漏れた。乱暴にされると思って喜んでんじゃねえよ。
言いたかったがここでそれを言えばムキになったこの男と言い合いは不可避で、最悪胡椒が降ってくるだろう。
冗談じゃねえ。
「おい?」
「やっぱりやめた。死ぬほどとろとろにしてやる」
「は?ちょ、それは困、」
甘やかしに慣れていない男が焦るのをキスで黙らせて、俺はシャツのボタンに手をかけた。