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    左右不定🤖🍬 6/24更新
    「どきどきする」という意味の英語の表現のひとつに「butterflies in my stomach (お腹のなかに蝶々が居る)」というのがあると聞いて書き始めたけど、書きたいとこだけ書いて頓挫してしまった

    #寧々えむ寧々
    neneNeneNene

    きっと飽いもあそびもしない──────にゃっき!

    「………。にゃっき?」
    「うん?」
    「は?」
    「えむ?」

     ぱちくりしたえむにこれまたぱちくりした顔を向けたのは、声の順に類、司、寧々。

     きょうもわくわくきらきらが溢れるワンダーランドのセカイ。
     道すがら思いついたとっておきのショーのアイデアを、えむの大好きな仲間たちに、身ぶり手ぶり一生懸命に伝えている、そんないつもの折だった。


    「…えむ? どうしたの?」
    「えと。………。」

     寧々が不思議そうな顔をして、もういちど優しくそう尋ねる。
     けれどえむだって解らなかった。えむのハイテンションにつられてくすくす花びらをこぼすみたいに笑う寧々をみていたら、なんだかきゅうに頭──ううん、お腹? ──のほうからそんな言葉が浮かんできて、その擬音だか鳴き声だかわからない音にびっくりして思わず復唱してしまったのである。
     えむはつづきを促すような寧々の柔らかい瞳になんとか応えようとして、けれどやっぱりうまく説明できる気がしなかったので、お腹のなかのようすをそのまま言葉にしてみることにした。

    「…えっとね。にゃっき! って感じで芋虫さんがいるみたいなの」
    「い、い、芋虫!?!? どこにだ!?」

     あだめだ最初っから間違えちゃった。真っ青な顔でぷるぷるそわそわし始めた司をみて、えむはちょっと遠い目をした。
     がんばれあたし、付け足しつけたし説明だ。

    「違うの! じっさいにいるんじゃなくて。あたしのお腹のなかに芋虫さんがいて、きっとずっといたんだけど、なんだかやっと、いま気づいた気分なの」
    「腹の中に!? 大丈夫なのかえむ!?」
    「司、いい加減うるさい」
    「…ふむ。お腹の中に芋虫が」

     司と寧々はまだ戸惑った表情をしているけれど、類はさっそく、えむの言葉が何かのたとえであることに気づいてくれたらしい。えむ語翻訳に長けた彼が、その声と同じなめらかさでえむの意図を掬って編みあげてゆく。

    「芋虫だというならば、えむくんのなかの『それ』はまだ未熟なんだろう。どんな成虫が羽化するのか、しばらく観察してみるのも良いかもしれないね」
    「うか…」
    「うん。幼虫から羽化、つまり完全変態を経て成虫になる生物として挙げられるのは、昆虫綱のうち甲虫目、双翅目、網翅目……」
    「なあその話もうやめないか…?」

     暫定・芋虫の飼い主であるえむよりも目をきらきらさせた類が昆虫について語りだす隣で、司が縮こまって腕をさすっている。
     司のそばで同じように少しずつ顔色が淡くなっていく寧々のことを思えば、類の虫談義はここらで切り上げてもらうべきなのだろう。
     それなのに、えむはなぜだか、その話にじっと聞き入っていた。自分のみぞおちあたりでも、なにかが耳を澄ます気配がする。

    「……そのなかでも、芋虫というのは一般に体毛の目立たない鱗翅目の幼虫を指しているんだ。鱗翅目──つまり、ガやチョウのことさ」
    「……、ちょう、ちょ」

     口からこぼれていった声に応えるように、お腹のなかの芋虫がぴんと胸を張った気がした。
     えむの身体か、もしくは心に呼応する生きものの存在を、はっきりと自覚した瞬間だった。


     かくして、えむによる芋虫の観察が始まった。とはいえじっさいに目で見ることが叶わないので、時おりそっとみぞおちのほうに注意を向けて、「いまはじっとしてる」だとか、「いまは元気もりもりだな」だとか心のなかでひとりごちるだけである。
     それでも、生き物の観察なんて小学生ぶりだったえむは新しい日課が楽しくて、ちまちまわくわくこれに取り組むのだった。

    ***

    「寧々ちゃーーんっ! いっしょにおやつ食べよ!」

     えむがお気に入りのたい焼きをもってセカイを訪れると、寧々はちょうど花畑で歌の練習をしているところらしかった。
     すらりと背筋をのばした寧々が朗々とメロディを奏でると、それに共鳴するように花たちのコーラスが加わる。青空と花に埋めつくされたのステージも相まって、高貴な花の女王さまみたいだ。

    「えむ。…うん、練習も一段落したし、ちょっと休憩しよっか」

     終わりまでしっかり歌いあげて振りかえった寧々は、めいっぱい歌をうたったあと特有の、血がたっぷり通って上ずった声でえむの名前を呼んだ。いつもは涼しげな色の頬っぺたもしっとりと上気していて、えむのお腹のなかで芋虫がさざめきだす。
     まだ条件ははっきりしないけれど、花々が近いからなのか、こんな折は芋虫が活発になりやすいらしい。
    これも、まいにちの観察で得た気づきのひとつ。

    (お花とお歌があると、ふわふわざわざわする)

     寧々と並んで腰を下ろした花畑のなか、ふたりでたい焼きにかぶりつく。
    ぱりぱりむしゃむしゃ、音がして、お腹の底まで満たされるころには、芋虫のざわざわはすっかり収まっていた。

    ***








    ちょうちょう ちょうちょう
    菜の葉にとまれ
    菜の葉に飽いたら 桜にとまれ
    桜の花の 花から花へ
    とまれよ あそべ
    あそべよ とまれ


     ぱきり、ちいさな殻をやぶる音を聞いた。

    「───あっ、」
    「えむ?!」

     寧々が驚いた声をあげたのと、ぶわ、と目の前いっぱいにたくさんの翅があらわれたのは、ほとんど同時だった。

     翅。そう、翅だ。
     やっぱり、それはちょうちょだった。
     それも、寧々へのあまい気持ちが結んだちょうちょ。なんの芋虫だろう、なんてとぼけたふりをして、その実ずっとお腹のなかで解っていた正体だった。

    「…なにこれ、ぜんぶ蝶々?」

     えむのお腹のなかから羽化した、手のひら半分の大きさをしたちょうちょたちが、一斉に寧々に向かって羽ばたいていく。ガラスの入れものに火照った血液を注いだピンクの翅が、若草や薄藤の光を鱗粉みたいに振りまくさまは、えむの目にははしたないくらい綺麗な景色にみえた。
     つまるところ、ちょうちょたちは、えむのお腹のなかで生まれた想いのカケラなのだ。その映す色が、あそびとまる先が、なにを意味しているかなんて明白だ。

    「~~~ッ、 やぁ、だめっ!!」

     それを自覚したとたん、今度は頭をめちゃくちゃにされるような恥ずかしさが決壊した。
     えむはてんででたらめに腕をふり回してちょうちょを追い払おうとしたけれど、ちょうちょはひらり、ひらり、えむの邪魔をものともせずに寧々へ群がっている。
     あるちょうちょはふわふわの髪に、またあるちょうちょはまっ白い指先に、ブラウスの胸もとのレースに、薄いまつ毛の先に、頬っぺたに。針より軽い脚でちょんと止まっては、安心してほうっと息をつくみたいに、ゆるやかに翅を開き閉じしている。

    「やだ、だめ、みちゃだめ、ああぁ…」

     熱くふるえる腕で自分をぎゅっとだきしめたら、身体全体が心臓になったみたいに速く脈うっていることに気づく。脈動はそのままちょうちょの羽ばたきになって、えむが抑える間もなくあばら骨のすき間からどんどん抜けだしていってしまうのだった。

    えむが見て見ぬふりでお腹の奥にしまい込んでいた、無邪気で、無遠慮で、あけすけな欲望は、みんなちょうちょの形になって正しく寧々に知られてしまった。
    なんて恥ずかしい、なんてはしたないんだろう!えむはいよいよ苦しくて、顔を上げられなくなっていた。

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