追いかけて追いかけて(仮)美しい水上都市で行方不明になっていたガイアをやっと発見したはいいものの、そこにいたガイアは子供を抱えていた。そこから何度も共にモンドへ帰ろう、シングルマザー(?)など辛いだけだろうと説得していたのだが、
『ここには教会もあって曲がりなりにも観光都市だ。一応仕事もある。厄介になっている身ではあるが親父さんやマリアも良くしてくれているしな。俺はここでやっていくつもりだ。お前の世話にならなくてもやっていける』
と明らかに拒絶されてしまったのだ。ディルックとしてはガイアに子供など明らかに身に覚えありすぎるが故に責任をと言いたかったのだが、ガイアはものともせず、今まで一人で育ててこれたから一切の援助はいらないときっぱりとプロポーズまで断り今に至るのである。
「おお、ここにいたのか」
「ジェロニモさん」
この水上都市では数多くの船頭がゴンドラを操ることで生計を立てている。ガイアがお世話になっている家も例に漏れず、ゴンドラの修理を主にしているジェロニモと姪のマリア、居候をしているガイアと子供という構成で現在は生活を送っているというわけであった。
「またカエアに振られたのかい?」
「僕は諦めるつもりはありません。ガイアを追ってここまで来たのですから」
「ふむ、あの子はガイアと言うのか。良い名前だ」
よっこいせと石造りの階段に腰掛け2人で運河の流れを見ながら暫く無言で過ごす。職人になんと声をかけて良いのか分からず、ディルックは小さくため息をつく。するとジェロニモは顎にたっぷりと蓄えた髭をさすりながら徐に話を始めた。
「あの子が初め妊婦だなんてぱっと見わからなかったものだったよ。シスターに言われるまではね。訳ありの子だと言うのはわかっていたんだが。腹もそこまで大きくなかった」
「やはりそうだったんですね……」
ジェロニモが言うには、シスターとジェロニモが教会で話していた時にガイアが助けを求めて駆け込んできたらしい。その時は青年が怪我でもしたのかと思ったのだが、介抱したシスターから後々事情を聞いて初めて特殊な身体とその身体故に人に言えることではなく、暫く何処か秘密が守れる場所で本人の身体と子どもを守りながら出産するしかないと判断され、姪もいるジェロニモの家に世話になることが決まったと言うことであった。
「幸い部屋はいくらでも空いていたから構わなかったがね。マリアも可愛い子どもが見られるとよくカエヤについて回っていたくらいだから」
「……本当にガイアが世話になりまして……」
「いやいや、わしらは当然のことをしたまでだよ。それよりも異国の地であの子が出産することの方が大変だっただろうに」
ふわりふわりと修理を待つゴンドラがジェロニモのアトリエの横で数珠繋ぎになっている横でジェロニモがゴンドラを撫でながら喋るのを見てそれがここでは日常なのだと思う度にディルックは自分が全く違う国に来たのだということを思い知らされる。
蒲公英が舞い、風車がまわり、常にカラッとした過ごしやすい気候のモンドと違って水と共にある生活というのはまた勝手が違うのだろう。フォンテーヌは常に水と相対せねばならないし、ディルックが入国しようとした時も水害で中々入れず、おまけに情勢が不安定な為滞在ビザも暫く降りなかった。ようやく観光で入っているので長くは留まれないのが実情であり、どうやってガイアを説得したものかと頭を悩ませていたところなのである。男2人が話していれば、向かいのアトリエの裏手からその話題の中心であるガイアと姪のマリアがちょうど出てきたところであった。