ネにちょっかいかけるジその日はネーヴェが食材調達のため街に出ていて、何せ色男なものだから沢山の女の視線を集めてた。人と関わるのが致命的なほど苦手な面子が2人ほどいるせいで、普段4人が街に出ることは無い。出ることは滅多に無いのだが、出ないと困ることは沢山ある。例えば食料だ。ダイコンやニンジン、獣肉なんてものは探せばいくらでも出てくるが、残念ながら米は出てこない。腹に入れば何でもいい者もいるにはいるのだが、食に拘る者がいるので食料の妥協は許されない。とゆうことで、週に2、3回街に出て食料を買う必要があった。その係はまだ人付き合いが得意なネーヴェか璃瑞の2人に限定される。米などの重いものを買うのはネーヴェの担当だ。とゆうわけで、この日もそろそろ米がきれるからとネーヴェが街に買い物に来ていた。訪れたことの無い地で食料調達とはなかなかに骨が折れるもので、自力で探し出すのを諦めたネーヴェはその地で働く女に話しかけた。それがいけなかったのだ。この男、自身の顔がいい事はそれなりに理解しているくせに他人からの好意に全く気づかない。気づかないというか他人に興味が無い。そのせいで話しかけた女性にしつこく迫られる羽目になる。「私の店に来ない?」だとか、「安くするわ」だとか、「大丈夫よ天井のシミを数えるだけでいいの」だとか、まあ色々なことを言われた。散々押しかけられて、女の方がネーヴェの冷たさに気づいた頃にようやく店を教えられた。真上にあった陽が5度くらい傾いていた。要らぬ骨折り損をして、その手に大量の米を抱えてネーヴェは3人のところに帰ってきた。女子2人に暖かく迎えられる中冷たく刺さる視線に違和感を覚える。はて、好かれていると感じたことは無いがこれほど冷たくされることを自分はしただろうか。
「……ジェミニ、何か言いたいことがあるなら言ってくれる方が助かるんだけど」
「君がそう言うならちょっとつきあって」
こっち、と人どころか魔物すらいなさそうな所をジェミニが指さす。大人しくついて行けば、ネーヴェはいきなり体を山肌に押し付けられた。そこそこの勢いに背骨が軋む。
「ぃっ、、なにするんだよ」
「食料買いに行ったついでにおんなと遊んだ気分はどう?」
「は?」
「あれ、バレないと思ってたの?」
意外と鈍いんだ。どこまでも冷たい視線がさっきからずっとネーヴェを貫いてくる。まさか街に出てたのか、あのジェミニが。驚いて言い返せなかったのはきっとまずかった。さっきよりも不快感を顕にした表情がネーヴェを離そうとしない。
「具体的なことなんて聞きたくないからいいんだけど、楽しかった?」
「……僕に嫉妬とかするんだね、君」
「質問にはちゃんと答えなよ。そんなつまらないこと言わないでさ」
ジェミニの手に元素力が集まっていく。それはやがて氷の矢を形作り、明確な敵意を持ってネーヴェに向けられた。それがわかった途端、ネーヴェは無意識的にジェミニの手を掴む。そのまま掴んだ手を上空に向けさせ、ジェミニの体を180度捻る。掴んだ手はそのまま背中に当てて地面に押し倒した。所謂逮捕術という体勢をとって、ネーヴェは意識を取り戻した。ああ、まずい、やってしまった。だってほら、ジェミニが凄く楽しそう。
「ふふ、あは、なんだ。おんなを抱いてきたくせにまだまだ元気じゃないか」
「……そろそろ怒るよ」
「今のこれで怒ってないって?冗談だろ」
さっきの冷たい様子とは一変して、ジェミニは楽しそうにからからと笑った。ネーヴェの温度が、まるで奪われているかのように急激に下がっていく。ジェミニからの煽りなんて慣れたものだが、こういった話題で煽られるのは楽しくないのだ。ネーヴェは不機嫌を隠そうともしない。それを見るジェミニの瞳が段々と細まっていく。ただただ愉快なのだと、暗い瞳が物語っていた。
「そもそも僕は女なんて抱いてないし興味もない。大体近くにいる彼女たちより良い娘がそこら辺にいると思ってるの?」
「それ、アリア達なら抱けるってこと?」
「バカ言うなよ」
どうしようもないな、と言いたげなため息をネーヴェは吐いて、ジェミニから手を離した。あっさりと解放していいのかと自問したが、まあいいだろうとネーヴェは結論づけた。手首を擦りながらジェミニは立ち上がる。折れてはないか……と戯言を呟いて、服の汚れを払っていた。その様子を見て大丈夫と判断したネーヴェは、璃瑞達の元に戻ろうとした。ジェミニに背を向け歩き出す。それを咎めるかのようにジェミニはわざと声を大きくした。
「……まあ、君がアリア達に手を出すことなんてないか」
「…だから、その話は」
「君、もう僕以外じゃ満足なんて出来ないだろうし」
怪訝な顔をして振り向いたネーヴェのマントを掴んで、ジェミニはネーヴェを引き寄せた。「僕以外じゃ満足なんて出来ない」いつもの妖艶さに無邪気なイタズラ心をこめた笑みでジェミニはそう言った。思わず足を後ろに下げる。急激に喉が乾いた気がしてごくりと音を鳴らした。ジェミニがネーヴェをとらえて離そうとしない。
「……もうすぐご飯の時間だよ。戻ろう」
「はぐらかすんだ。相変わらずイジワル」
予想よりも簡単にジェミニはマントから手を離した。何故か上機嫌になったジェミニのことをネーヴェはこれからもずっと理解できないだろう。どっと疲れた感覚でネーヴェは仲間と合流しようと足を進めた。ジェミニも着いてきていた。それが何処か不気味だった。