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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    思わぬ申し出。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(7)ベッドの威力は凄まじく、オレは死んだように眠っていた。
    目が覚めると"知らない場所にいる"とかなり焦ったのだが、
    すぐにこれまでの経緯を思い出しため息をついた。

    「樹ちゃん、おはよう。」

    声のした方を見ると、
    グラムがベッドに腰かけて何やら大きな紙とにらめっこしていた。

    「ええと…おはようございます。」

    オレはベッドを抜け出すと、グラムに近づいた。

    「もしかして、地図ですか?」
    「あった方が便利じゃろうからな…昨日、装備を揃える際に買っておいた。」

    …さすが現地民、準備に抜かりがなくて頼りになる。

    簡素な地図にはサウズの町周辺の情報が記載されていた。
    国境が近いせいか、隣国であるローレム王国領内の地名も載っていた。

    「今日はサウズから…ここ、ガランゴン山道を経由してローレム王国に入る。
    山道を抜けた先にはゴカドという町があるから、そこで宿をとるつもりじゃ。」

    グラムは諸々の準備に加えて、今後の予定までしっかり立ててくれていた。
    移動続きになるのはもう仕方がない、ひとまずこの国からは逃げさねばだ。

    「ゴカドの後はよりローレム王都に近いアラタルの町を目指そうと思っておる。
    そこまで行けば、仮に追手が放たれたとしてもすぐに見つかることはないじゃろう。
    国内であればまだしも、さすがに他国で大きな動きをする程アレも阿呆ではなかろう。」

    異世界に飛ばされて今日で三日目になる。
    当初の予定だと初日の段階で、ここ"サウズの町"まで来ているはずだった。
    オレの殺害が二日目に行われたとしても、三日目にはグラムが王都に戻っているのが自然な流れだろう。

    昨日グラムが話したとおり、ハイレム五世が多少の日程超過を気にしないとしても
    看過出来ないほど時間が経ったとなればさすがに何らかの行動を起こしてきそうだ。

    それまでにある程度安全な拠点を確保しておいて…最悪追手に見つかったとしても
    やり過ごせる様な備えが出来ていれば、それが最良だろう。

    「じゃあ、とりあえず服を着替えてから朝ごはんにしましょうか。」

    オレはグラムが買い揃えてくれた旅装束に身を包むと、一階の食堂へと向かった。
    昨日は時間の都合上夕食は外の屋台で済ませたが、大概の宿屋には簡易の食堂が
    併設されており、そこで食事を頼む客も多いそうだ。

    従業員に小銭を払い、渡されたパンとスープを持ってテーブルに向かう。

    「山道ってことは当然、山なんでしょうけど…やっぱり険しいですか?」
    「ある程度は整備されておるぞ。通常であれば国境の関所を抜けるのが
    安全じゃが今は状況の状況…人の少ないルートを通る方が良かろうよ。
    なあに、安心せよ…何かあってもワシが護ってやるからな!」

    グラムはスープをすすりながらオレに笑いかけた。
    ハイレム王の護衛として前線を退いていたとはいえそこは軍人、腕も確かだろう。
    しかし、今後のことを考えると自分で自分の身を守るための力もつけておきたい。
    アラタルの町まで辿りつければ、そうした訓練をする余裕も生まれるだろうか。
    オレはスープに浸したパンをかじると、ゆっくりと咀嚼して飲みこんだ。



    食事を終えると、オレ達は宿の外へと繰り出した。
    穏やかな町の通りを早足で通り抜け、出口へと向かう。

    「…あの、すいません!」

    誰かから急に呼び止められ、驚いて振り返った。
    声を掛けて来たのはまったく見覚えのない少女だった。

    …まさか、ハイレム王がもう何か行動を起こしたのだろうか?
    グラムも同じことを考えたのか、オレをかばうように前に出た。

    「お嬢さん、私共に何かご用ですかな?」

    グラムは笑顔で、しかし敢えて警戒心を露わにしたような声で応対した。

    「あの…さっき、宿屋で山道を抜けると聞こえて…。
    もしガランゴン山道を抜けるのであれば、私も同行させてもらえませんか?」
    なんと少女は、山越えへの同行を申し出てきた。

    「胸元の印章を見るに商人のようじゃが…手持ちがあるのなら
    冒険者ギルドで護衛を頼み、関所を通過すれば宜しいでしょう。」
    その要請に、グラムは突き放したような返答をした。

    「そ、それがその…荷物を盗まれてしまって…私、素寒貧なんです…」
    「…荷物を盗まれた?」

    「道を教えて欲しいと言われ、足元に荷物を置いてお話していたのですが…
    気付いたら荷物が無くなってたんです。しかも、荷物が消えて動揺してる
    スキを突かれてしょっていた鞄まで肩紐を切られて盗まれてしまいました。
    警備に助けを求めたのですが、泥棒たちはもうどこかに逃げ去った後で…。」

    一人が道を尋ねて気を逸らしている間に相方が荷物を盗む…典型的なやり口だが
    どんな世界にも存在するんだな…と、オレは夢の無い異世界事情にげんなりした。
    しかし、そういう事情であれば見捨てていくのも忍びない気がする。

    「ゴカドまで戻れば知人がいるのですが、関所を通るお金も無いし…
    一人で戻ろうにもガランドン山道は以前より魔物の出現率が上がった
    と聞いて途方に暮れていたんです。」
    「む…魔物が増えた、とな…?」

    …モンスター、やっぱりいるのか。

    この世界に来てから一度もそういった類の存在と遭遇したことが
    無かったから、そういった魔性のいない世界なのかと勝手に思っていた。
    となると、森で一晩気絶していたのは普通にヤバかったのかもしれない。
    襲われなくて良かった。

    「…ふむ、事情は分かりました。」

    グラムは顎に手を当てて、小さく唸った。

    「タツ…イツキは、どうしたい?」

    グラムはオレの名前を言いかけて、咄嗟に違う名前で呼びかけてきた。
    そういえば、宿屋の台帳にもデタラメな名前が書いてあった気がする。
    たしかに、国を出るまでは偽名を使った方が色々と安全かもしれない。
    オレもグラムの偽名を考えた方がいいだろうか。

    「私は構いません、無一文の徒手空拳で隣国に向かうのは大変でしょうし。
    この方が加わることで旅程に支障が出そうなのであれば、少し考えますが。」

    「それはない、夜までにゴカドへたどり着くつもりじゃからな。
    モンスターについても、ヤバそうなのは恐らくいないハズじゃ。」

    「なら、個人的には問題ありません。
    むしろ戦力的に私は役に立たないので、魔物が出現した際には恐らく
    矢面に立つことになる…ええと、グランパさんがどう思うかですが…」

    偽名を考える間もなく名前を呼ぶ機会がやってきたため思わず
    グランパと言ってしまったが…英語でお爺ちゃんだな、コレ…。
    まあいいか、一時的な呼び名だし。

    「ふむ…イツキが良いのであれば、ワシも問題ない。」

    グラムが"同行しても良い"との旨の返答を行うと、少女の表情が明るくなった。

    「ありがとうございます!
    あの…私はマリアンと申します、どうぞよろしくお願いします!」

    こうしてオレの異世界滞在三日目は、三人旅へと急遽予定が変更された。

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