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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    山道を越えねばならぬ。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(8)山道の付近までは精霊馬で…と、グラムは考えていたそうだが
    マリアンの同行が決まったことで急遽計画を変更、徒歩で向かうことになった。
    結果多少時間は掛かったが、とくに滞りもなく無事山道の入口まで到達することが出来た。

    「ワシら以外に人の姿はなしか…やはりモンスターの影響かのう?」
    「いや、それにしても少なすぎでは…?」
    山道の出入口にあたる大きな門…警備と思しき兵士が二人その傍に
    立っていたものの、それ以外には文字通り他の旅人の姿はなかった。

    「関所を抜ける方が圧倒的に安全で、距離的にも近いですから。
    私もローレムからコチラ側に来た際は関所を通ってきましたし。」
    「なるほど…ガランゴン山道は旧道、という感じなんですね。」
    「はい…一応、道の両端に警備兵は置かれてますが
    魔物以外にも盗賊とか、自然災害とかそういった危険に
    遭遇する場合も少なからずあるので、関所が出来てからは
    この道を好んで通過する人間は基本いないと思います。」

    オレとマリアンはそんな風に話をしながら通過したのだが、
    グラムは門の手前辺りでほっかむりして、顔を隠しながら
    オレ達の後を追うように門を通り抜けていた。

    「ふう…短時間とはいえ、この時期にほっかむりは暑苦しかったわい。」

    後方に門が見えなくなった辺りでグラムは怪しげな変装を解いた。

    「あの、グランパさん…どうして変装を…??」

    訝し気な表情で、マリアンが思って当然の疑問を口にした。

    「門番がワシの知人でな、話好きなヤツらで一度捕まると長いんじゃ。」

    商人の質問に対し、老騎士はサラッとウソをついた。
    …とはいえ、彼は騎士として長年ハイレム王国に仕えてきた人物である。
    グラム本人が知らなくても兵士の方が一方的に顔を知っている可能性はあるだろう。
    無用なトラブルを避ける意味でも、グラムの変装は避けられないイベントであった。
    マリアンには悪いが、コチラも命が掛かっているので多少のウソは許してもらおう。

    「人の目もありますし、仕事中はさすがに長話なんてしないと思いますが…」
    「まあ、一応じゃ一応。
    それにお嬢さんとしても、ゴカドへの到着は早い方が良いのではないですかな?」
    「それはまあ…」

    二人がそんなやりとりをしている間、オレは周辺に広がる山の景色を眺めていた。
    手入れが全くされていない獣道…といったレベルではないが街道のように丁寧に
    舗装された道でもない…絶妙に歩きにくいデコボコな道が奥の方へと続いていた。

    「そういえば、ここにはどんなモンスターが出るんですか?」
    「この辺はボアの生息地じゃからな、時折ボアが出てくる。」
    「ボア?」
    「四足で筋肉質な獣型の魔物じゃよ、口の脇から短いキバが生えていて
    獲物を捕捉すると体当たりを仕掛けてくる地味に面倒なモンスターじゃ。」

    オレが声を掛けると、グラムは歩きながら質問に答えてくれた。
    なるほど、元の世界で言うイノシシっぽい感じのモンスターか。
    …しかしイノシシは結構凶暴なハズ…遭遇時いなせるだろうか。

    「あの…イツキさん、ボアを知らないんですか?」
    「え、ええ…実は、そうなんですよ。」

    マリアンの反応を見るに、ボアはこの世界で割とありふれた存在なのだろう。
    いい年のおっさんがそんなことも知らないのは…まあ、明らかに不自然な話だ。

    どう誤魔化そうか考えていると、グラムが助け船を出してくれた。

    「すまんのうマリアンさん…実はイツキは今、記憶喪失でな。」
    「えっ!?そうなんですか…?!」
    「そうなんじゃよ。
    ハイレムには診察のために滞在していてな…祖父であるワシのことも忘れて
    実に他人行儀な話し方をするものだから、お爺ちゃんはとっても悲しいわい。」

    さりげなく"自分は祖父"アピールをしつつ、グラムは
    オレ達の経歴を古典的ながら定番の方法で誤魔化してくれた。

    「す、すいません…私、事情を知らずに。」
    「構いませんよ…あーっと、まあそういうことなので
    もしオレが変なことを聞いても驚かないでくださいね。」

    さすがに苦しいかと思ったがマリアンは信じてくれたようなので
    オレもグラムのついたウソに便乗して話を丸く収めることにした。

    知らないことを気兼ねなく聞けるようになったので、オレは
    その後も歩きながらモンスターについて色々教えてもらった。

    曰く、モンスターと一般的な動植物は完全に別の存在なのだそうだ。
    件のボアも、生物としてのボアと魔物としてのボアが存在しているらしい。

    通常の動植物とは異なり、モンスターは目が赤く発光しており、凶暴かつ
    意思の疎通も出来ない…倒すと体が崩壊し始め、時折何がしかのアイテムを残すそうだ。
    この辺、実にゲーム的だがこの世界の神話を知っていればさほど不思議でもないらしい。
    なお、その神話も覚えていないと伝えると再びマリアンに驚かれたが、知らないものは
    知らないのでご勘弁頂きたい。

    「すいません、記憶喪失でしたね…なら仕方ありません。
    ついでなので、創世神話についてもお話しましょうか?」
    「じゃあ、折角なのでお願いします。」
    「コホン、それでは…『この世界は"混沌"から生まれた…』」

    マリアンは世界の誕生について端的に話してくれたのだが、それでもそれなりに長かった。
    簡単に言えば、この世界を創った神様が世界を安定させるために色々試行錯誤した結果が
    モンスターやスキル、ステータス表示に魔法といった仕組みとして残っているのだそうだ。
    正直全ては覚えていられなかったので、また時間がある時にグラムに教えてもらおう。

    「…おっと、ご両人? そろそろ山道も終わりの様じゃ。」

    不意にグラムが会話に割って入った。
    ハッとして顔を上げると、遠方に入口と同じような門が設置してあるのが見えた。

    「あれっ、本当だ…話しながらだと時間が経つのも早いんですね。」

    …実際のところ、創世神話に関する話が長かったのもあるだろうが
    体感時間的に山道を早く抜けることが出来たのはありがたいことだった。

    「モンスターも出て来ませんでしたね、運が良かったみたいです。」

    マリアンは上機嫌でそんなことを言っていたが、
    それはいわゆるフラグ発言というやつではないだろうか。

    「そういうこと言ってると、モンスターが出てきますよ?」
    「ええっ、止めて下さいよ~。」

    マリアンがオレの返事に苦笑した直後、山道の脇か何かが勢いよく飛び出してきた。
    それは四足歩行で筋肉質な、口の脇から短いキバが生えている目の赤い凶暴そうな獣だった。

    「…もしかして、コレがボアですか?」
    「ボアじゃ。」

    「うわアーッ!?本当に出たァ―――――ッ!?」

    やっぱり最後まで気を抜いてはいけない、山道は抜け切るまでが山道なのだ。
    道端に飛び出してきたボアはコチラを視認するなり猛スピードで駆けだしてきた。

    「すいません、お願いします。」

    オレが声を掛けるまでもなく、グラムは既に剣を構え迎撃態勢に入っていた。

    「二人とも、ワシの後ろに。」

    ボアは一歩前に踏み出したグラムめがけて、猛烈な速度で飛びかかった。
    …次の瞬間、真っ二つに割れたボアの体がオレの横をすっ飛んでいった。

    「ボアは、猛烈な速度でまっすぐ向かってくる。
    タイミングさえ間違えなければ御覧の通りじゃ。」

    グラムは剣を小さく振るった後、素早く鞘に収めた。

    オレが後ろを振り返ると、ボアの体は既に崩壊し始めていた。
    一瞬で戦闘が終了したが、ボアはそんなに弱い魔物なのだろうか。

    見ると、マリアンは呆然とした表情で崩壊するボアを眺めていた。
    …これはアレだ、ボアが弱いんじゃなくて、グラムが強いやつだ。
    動きが直線的とはいえあの速さで突っ込まれたら大怪我しそうだし
    マリアンが同行を願い出たのも納得の凶暴さだった。

    「…ん、何だろうコレ。」

    崩れ去るボアの中に何かを見付け、オレは思わず拾い上げた。
    それは、半透明の液体の中に赤い球体が浮かぶ小さな小ビンだった。

    「ボアが何か遺したみたいですね…見ても良いですか?」

    マリアンが近づいてきたので小ビンを手渡した。
    なるほど、これがアイテムドロップというやつか。

    「コレは"フラムシード"ですね。」
    「フラムシード?」
    「はい、フラムという果物の種で…実が熟れる前の種は
    果肉と同じ成分で包まれていないと激しく燃え上がるという性質があります。」
    「それは…なかなか物騒な果物ですね。」
    「そうでもないですよ、火種や火炎魔法の代わりとしても使えますから。
    これは熟成前の種を果肉と同じ成分の液体で包んだアイテムの様ですね。」
    「そっか、物は使いよう…というやつですね。」

    オレはマリアンから小ビン受け取ると、丁寧にカバンへ収納した。
    何かの拍子でビンの蓋が開いたりしないよう気を付けないといけない。

    「おおい、さっさと山道を抜けてしまおうぞ!
    またボアに足止めされてももかなわんからな!」

    グラムはそう声をあげると、出口の方に歩き出した。
    オレとマリアンはその様子を見て、慌てて後を追いかけたのだった。

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