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    RacoonFrogDX

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    街道ダンジョン(道)

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(11)街道ダンジョンは、端的に言えば道だった。
    出入口的な門や階段があるわけでもなく…雑草が好き放題生えている
    野っ原のただ中に、綺麗に舗装された石だたみの道が突然現れるのだ。
    言われなければ間違いなくダンジョンだと思わなかっただろう。

    「これ、本当にダンジョン? 街道とかじゃなくて??」

    精霊馬の背に跨りながら、オレはグラムに問いかける。
    今日は天気も良く、顔を撫でる風が実に心地よかった。

    「うむ、ここは間違いなく"街道ダンジョン"じゃ。
    こんな半端な場所を石で舗装する必要はないからのう。」
    「まあ、それは確かに。」

    グラムは器用に馬を操りながらオレの質問に答えてくれた。
    流石は『馬術』のスキル持ち、スキルを真っ当に活用しているお陰で乗り心地は大変良い。
    …いや、最初に乗せてくれた時もオレを弱らせるためにフル活用してたんだとは思うけど。

    「ダンジョンと言いつつ魔物も滅多に出現せんのじゃが…
    一応、"キラメキドロン"というモンスターが出現することがある。
    身体が貨幣で構成されていて、倒すと大量の貨幣を遺すそうじゃ。」

    ゲームでいうところの金策用レアモンスターといったところだろうか。
    ハイレム五世から与えられた手切れ金とグラムのお財布がオレ達の全財産だが
    それも今までの旅で掛かった必要経費により心許ない金額へと減りつつあった。
    件のモンスターに遭遇する機会があれば、なるべく倒しておきたいところだ。

    「残念ながらキラメキドロンはかなり固いうえ、素早いらしい。
    もし遭遇することがあっても容易に倒すことは出来んだろうよ。
    貨幣を発射して攻撃してくるという話じゃから、それを拾って
    小銭稼ぎをするくらいが現実的な落としどころじゃろうて。」

    オレの考えを察したのか、グラムは討伐は難しいと断じた。
    …まあ、この手の魔物は大概防御と素早さに特化している。
    ある意味想定内だが、普通に残念でもあった。

    「お金のことなら大丈夫じゃ、アラタルに到着したら
    冒険者ギルドに登録して依頼をこなすつもりじゃからな。」

    グラムはワシに任せなさいと自信たっぷりに言っているが、
    さすがに任せっぱなしでゴロゴロしているワケにもいかない。
    町に付いたら自分でも出来そうな依頼を探してみるとしよう。

    …そんなふうに、まだ見ぬ町での生活を想像している時だった。

    「何ッ!?」
    「わっ?!」

    突如、体が大きく跳ねた。
    精霊馬がバランスを崩し、その衝撃でオレの体は道端に向かって放り出された。

    「どうどうどう!ふんッ!こっちに体重を…!ぬあッ!」

    興奮する馬を手際よく落ち着かせると、グラムはオレの所に駆けて来た。

    「樹ちゃん!! 怪我は!? 怪我はしてないかの!?」

    グラムは不安そうな表情でオレの顔を覗き込んだ。
    その顔は、先程とはうって変わって真っ青になっていた。

    「大丈夫みたい。」
    「ほっ…心臓が止まるかと思ったわい。」

    石畳ではなく、草の上に放り出されたからか幸いにも怪我はなかった。
    オレは自力で立ち上がると、服に付いた汚れを手で払った。

    「それにしても、いきなりどうしたんだろう?」
    「何か固いものを踏んづけたみたいじゃのう。
    遠目で確認した時には何もなかったはずなんじゃが…」

    街道ダンジョンにあたる石畳の上に障害物となる様なものは存在していない。
    何か踏んだとして、踏まれた物体は道の外側に転がり出た可能性が高そうだ。
    馬がバランスを崩した辺りまで戻ると、オレ達は手分けして草むらを漁っていった。

    「…何だコレ…?」

    道脇にあった大きめの岩、その裏手に回ったオレは奇妙なものを見付けた。
    この世界の通貨であるドロン貨幣…それが寄り集まった金塊の様なモノが
    肩で息をするかの如く不安定にカタカタと揺れていた。

    オレの所にやって来たグラムは、ソレを見るなり目を見開いた。

    「樹ちゃん! コイツがキラメキドロンじゃ!」
    「えっ、マジで!?」

    オレは突如出現したキラメキドロンに驚き、その姿を二度、三度と見返した。
    レアモンスターらしく見付からないように忍んでいたのか、襲撃のために飛び出してきたのか。
    この魔物にどんな思惑があったのか知る由もないが、丁度姿を現したその絶妙なタイミングで
    精霊馬に踏み潰されてしまったのだろう。

    「千載一遇のチャンス、これはモノにせねばなるまい!」

    鞘から剣を抜き、グラムは大きく振りかぶった。
    キラメキドロンは馬の一撃で既に虫の息、これなら確実に討伐出来そうだが…

    「ちょっと待って!」
    「…ッ!?」

    オレの制止により、ギリギリのところで剣の軌道が逸れた。
    グラムは明らかに困惑した様子でオレのほうに顔を向けた。

    「ど、どうしたんじゃ樹ちゃん…早くトドメを刺さねば逃げられてしまう!」
    「ごめん、ちょっと試したいことが……『格納』!」

    試してみたいことがあり、キラメキドロンにスキルを発動してみた
    ところキラメキドロンはぐったりと脱力し、動かなくなってしまった。
    グラムはポカンと口をあけて、目を何度も瞬きながらオレを見つめた。

    「これは…」
    「モンスターにも魂があるのか、確認したかったんだ。」

    オレはステータス画面を開きスキル欄を確認した。


    格納-格納中:繧ュ繝ゥ繝。繧ュ繝峨Ο繝ウの魂(0%)


    何故か文字化けしているが、コレは恐らくキラメキドロンの魂だろう。
    『時効取得』も発動しており、時間経過で魂が漂白されるはずである。

    「爺ちゃん、言ってたでしょ? キラメキドロンは貨幣を射ち出してくるって。」
    「あ、ああ…そうじゃな。」

    生活費の捻出は、目下非常に重大な問題であった。
    キラメキドロンの討伐難易度の高さは理解したが、その存在は魅力的だ。
    なんとかならないものかと頭を捻った結果、一つの可能性に気が付いたのだ。

    「モンスターにも魂があるのなら、キラメキドロンを使役出来ないかと思ってさ。
    『時効取得』で魂の所有権を取得した後、『換骨奪胎』で言うことを聞くように性質を書き換えられないかなって。」

    神話において混沌から分離された人間に魂があるなら、
    同じく混沌から誕生した魔物にも魂があるのではないかと考えたのだ。
    そこまで言って横を向くと、グラムは目を輝かせて耳を赤らめていた。
    …実にイヤな予感がした。

    「樹ちゃんッ! なんて賢い子なんじゃあ~ッ!!」

    グラムはそう叫ぶと、オレを全力でハグしてきた。
    数日ぶりの締め落としの危機、通算二回目である。

    「偉いぞ、樹ちゃん! 樹ちゃんは世界一賢い!」
    「ちょ、ま、苦し…」

    オレは体をよじり、なんとか二本の剛腕から逃げ出した。
    ハイレム王都の出入口で出会ったあの威厳のある老騎士はオレの幻だったのだろうか。
    山道の出入口では念のため変装して門を通過したが、仮にあの時顔バレしたとしても
    この様子では別人と判断されても不思議ではなかった。

    「…けほっ、ええと…そういうことだからコイツは鞄に入れて連れて行こうと思う。」

    気を取り直してキラメキドロンを持ち上げようとするも、その体は思いのほか重かった。
    端的に言わずともこのモンスターの身体は貨幣の塊なので、重くて当然ではあるのだが。
    オレが手間取っていると、グラムが横からひょいと持ち上げ自分の鞄に納めてしまった。

    「モンスターの使役自体は存在しているが、まさかキラメキドロンを使役しようとは。
    もしかしたら樹ちゃんがこの世界史上初めてのキラメキドロン使いになるかもしれんのう。」
    「『孫■』なんて謎の適性持ちが他にいたとも思えないから、そこは本当に初めてかもね。」

    再び精霊馬にまたがると、オレ達は改めてアラタルの町に向かって出発した。
    幸いにもこの一件以外に移動が阻害されるような事件はなく、馬は実に軽快にダンジョンを駆け抜けていった。
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