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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    祖父と孫と、放たれた悪意。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(13)宿に戻るとゼブラとリミカが夕食の準備をしてくれていた。

    これまで泊まった宿屋では食事は自前で調達するか併設された食堂で
    別途料金を支払って購入していたが、虎風庵では宿泊費に食事代金も含まれていた。

    客向けの食事は実際のところゼブラ達の"ついで"なのだろうが、冒険者登録を済ませた
    時点でオレ達の財布はすっからかんになっていたためありがたいことに変わりなかった。

    「本日は、野菜のスープとヌピャルタの蒸し焼きです。」

    オレ達がテーブルに着くとリミカが奥から食事を運んできた。
    食堂の奥に調理場があり、ゼブラが作業しているのが目に入った。

    「…!?」

    "ヌピャルタ"なる謎の名前を聞き流しつつ皿の方に目を向けると、
    なんだかよく分からない物体がお皿の上に一匹まるまる載せられていた。
    あまりに奇怪なそのフォルムに、オレは暗殺未遂以来の戦慄を覚えることとなった。

    「あの…リミカさん、この料理は…?」
    「はい、ヌピャルタの蒸し焼きです! とっても美味しいですよ!」

    …食事付きにも関わらず、虎風庵が繁盛していない理由が分かった気がした。
    リミカはオススメしてくるが、この見た目ではとても美味しそうには見えない。

    「ほほ~、ワシも長い事生きてきたがヌピャルタを食したことはないのう。」

    グラムはホカホカと湯気の立ち昇る奇怪な生物を興味深げに観察していた。
    その反応から見るに、ヌピャルタはゲテモノ的な立ち位置の食材なのだろう。

    これまでの宿屋では大概パンと野菜とスープ、時々獣の肉といった感じで
    変なものは出て来なかったのだが…ここは異世界、油断していた方が悪い。

    「ヌピャルタは扱いが難しく、新鮮なうちに調理しないと臭みが出て酷い味になるんですが
    ウチのお父さんはヌピャルタ料理の達人なので騙されたと思って試しに食べてみてください!」

    成程、元の世界で言えばボラやサメといった生物に近い扱われ方だろうか。
    とはいえこのビジュアルは完全に危険な生物、口に入れるのは躊躇われた。

    「樹ちゃん、この娘さんの言う通り案外おいしいぞ…食べてみなさい。」

    見ると、グラムはいつの間にかヌピャルタを頬張ってモリモリ食べていた。
    肝が据わっているのは一応元軍人だからだろうか、その勢いの良さは素直に凄いと思った。

    本当にウマいのだろうか…うーん…コレはウマい…コレはウマい、ヌピャルタはウマい…

    オレは必至に"ヌピャルタはおいしい"と自分に暗示をかけて覚悟を決めることにした。

    ―…

    「ん…?」

    いざヌピャルタに齧りつこうとした時、視界の隅に何か見えた気がした。

    「…気のせいか。」
    「んむ? どうしたんじゃ?」
    「いや、何でもない。」

    オレは気を取り直して肉を口の中に含む…
    そのまま慎重に咀嚼してみると味も食感も存外悪くなかった。

    「おいしい…!?」
    「でしょう? お父さんのヌピャルタ料理は世界で一番美味しいんですから!」

    オレの様子を見て、リミカは満足そうに胸を張った。
    味に関しては完全に自分の食わず嫌いなので、そこはちゃんと認めるべきだが
    美味いと理解出来てもあのビジュアルでは積極的に食べようとは思えなかった。
    というか、リミカの説明を聞くにまともに調理出来る料理人自体が殆どいない
    可能性の方が高いだろう。

    「頑張る樹ちゃんもカワイイのう…苦手なモノもちゃんと食べてえらいぞ!」
    「三十路でその褒められ方は、さすがに恥ずかしいので止めて欲しいかな…」

    気付けばグラムは食事を終えており、オレの様子を眺めてニコニコ笑っていた。
    …まあ、初めて出会った時みたいな恐ろしい顔をされても困るので、食事する
    姿を眺めて満足してくれているのであればそれはそれで悪くない気もするが。
    オレは気を取り直して黙々と食事を食べ進めた。

    異世界特有の衝撃的な夕飯を済ませると、オレ達は二階の寝室へと向かった。
    泊まるのは二人だけにも関わらず四人部屋に案内されたため、部屋が間違ってないか
    ゼブラに確認しに行ったところ、お客が来ないから問題ないという返事が返ってきた。
    大部屋が使えるのは実際ありがたいが、そんな状態で生活は大丈夫なのだろうか。

    「そういえば、さっき視界の隅に何か見えた気がするんだけど。」

    部屋に戻ると、オレは気になったことをグラムに尋ねてみた。

    「ふむ…もしかしたら『通知』が発動したのやもしれんな。」
    「『通知』?」
    「能力に何か変化があった時、自動で教えてくれるスキルじゃよ。」
    「そんなのもあるんだ…スキルって本当に便利な能力なんだなあ。」

    やはり、分からないことは現地民に聞くに限る。
    グラムの場合、年の功で知識も豊富なため本当にありがたい。

    グラム曰く『通知』はかなりポピュラーなスキルだそうだ。
    スキルを獲得した際同時に入手することも多く、大抵の人が保有しているらしい。
    とはいえ必ず取得出来るスキルではないため、会得出来ない人も稀にいるそうだが。

    ベッドに腰かけたオレは、ステータス画面を開いてみた。
     
     【 氏 名 】 枕木樹

     【 種 族 】 ヒト

     【 年 齢 】 29

     【 適 性 】 孫■

     【 職 業 】 期待の孫■

     【 能 力 】 体力:☆☆
             知力:☆
             防御:☆
             俊敏:☆☆
             耐性:★☆☆☆☆
     
     【 孫 ■ 】 適応 鑑定 通知 格納 出庫 返却 時効取得 換骨奪胎
                          
             爺たらし 改竄 

    …相変わらず耐性以外は貧弱な能力値だが、今はスキルの確認である。
    とりあえず、先程グラムが目星をつけた『通知』スキルが増えていた。
    そしてそのまま確認を続けると『改竄』『爺たらし』なるスキルも
    新たに取得していることが分かった。

    改竄:対象の記憶を少しだけ書き変える。

    爺たらし:スキル保有者の、高齢の男性に与える印象が非常に良くなる。

    『改竄』は名前通りのスキルだが、相変わらず悪役が持ってそうな能力だ。
    もしかして、先刻"ヌピャルタは美味しい…"と、なんとか自分を騙そうと
    していたことが『通知』スキル獲得の要因だったりするのだろうか。
    そんな馬鹿な。

    孫■の詳細は未だによく分からないが、もしかしたら
    こういった精神感応系統の力に秀でた適正なのかもしれない。

    そして『爺たらし』の方だが…コレ、もう少しマシなスキル名はなかったのだろうか。
    "祖父"を露骨に狙い撃ちしている汎用性の低さに加えて、このネーミングは割と酷いと思う。
    まあ、グラムに溺愛され続けた結果としての『爺たらし』な気がするので納得出来なくもないが。

    「お爺ちゃんの言う通り『通知』と…あと『改竄』のスキルが増えてた。」
    「ほほう、樹ちゃんは日々成長しておるのう…これは将来大物になるぞ!」

    グラムはそういうと、オレの頭を嬉しそうに撫でた。
    …三十路にもなって頭を撫でられるのは、やはり羞恥心が勝るかもしれない。

    「樹ちゃん、新しいものだけじゃなく既存のスキルの詳細も確認したかの?」
    「いや、してないけど…?」
    「『通知』の使い込みが甘いうちはスキルがパワーアップしていても通知されない。
    ステータスはこまめに確認しておいた方が良いぞ。」
    「そうなんだ…確認してみる。」

    やっぱり、使い続けることでスキルも効果が増したりするのだろう。
    ものは使いようとはいえど『孫■』のスキル自体には攻撃力がない。
    応用して攻撃的な使い方をするにしても元々のスキルの性能自体が
    良い方が応用の幅も拡がるというものだろう。

    オレは再度ステータスを呼び出すと、他のスキルもチェックしてみた。
    その結果、『格納』の説明に変化がみられた。

    格納:1cm×1cm×1cm以内の大きさのモノを異空間に格納出来る。

    1立方ミリメートルが1立方センチメートルに、格納容量が増えていた。
    増えたところで大したサイズではないのだが、1立方センチメートルと
    なると小さな虫や木の実くらいなら収納出来るかもしれない。

    「ねえ、明日の予定はもう決めてあるの?」
    「まずは依頼をこなして路銀を稼がねばならんな。
    依頼はワシがこなすから、樹ちゃんは付いて来るだけでOKじゃ。」
    「気持ちとしては手伝いたいんだけど『格納』の容量が増えた
    みたいだから、明日はスキルの練習と実験に取り組んでみるよ。」
    「うむ、それならばそうしなさい。」

    今後の生存率を上げるべく、明日はスキルの研究をすることにした。
    正直これまではせわしない日しかなかったので、ようやく
    異世界転移ものらしい修行パートを体験出来るのかもしれない。


    。。。。。

    日もすっかり落ち、暗くなった室内でハイレム五世は所在なく歩き回っていた。

    「…どしたんすか? 発情期の犬みたいにだらしなく動き回って。」

    不意に浴びせられた声にハイレム五世はハッとして足を止めた。
    待ち人来たれり…と同時に、投げかけられた暴言を理解し王は顔をしかめた。

    「来るのが遅い! セブ! 何をしていた!!」
    「仕事に決まってんじゃないスか、自分が命じたんでしょ?」

    暗闇から姿を現した若い男はだるそうに背伸びをした。

    「ぐぬぬ…このドブ鼠め、腕が悪ければ
    今頃キサマなぞ打ち首にしておるところだ! それで、どうだったのだ?!」
    「国境付近までは確実に向かってますけどそっから先はよく分かんねーッス。
    ミルズ付近の森に残ってた痕跡から、何がしか戦闘はあったみたいですケド。」
    「死んだかどうかは分からぬ、ということか。」
    「ガランゴン山道から先は、他国の領地になりますからね。
    山道を抜けたとして、行き先はローレムかマルカジアか…他国の領土内で
    派手に動くのはオレとしてもリスクあるんで、とりま切り上げてきました。
    更に調査するなら~…追加料金貰わないと♪」

    若い男はそう言うと、両手を器の様に合わせて雇用主の方へ差し出した。

    「ぐぬぬ…これだから最近の若い奴は!」
    「オレらみたいなのはグラムの爺さんみたいに正規雇用じゃないッスからね。
    非正規は生きるの大変なんスよ、活躍しても讃えられるワケじゃねえですし。」

    ハイレム五世はしばし肩を震わせていたが、深く溜息をつくとかぶりを振った。

    「何としても居場所を突き止めろ! 死んでいれば良し、生きていれば始末しろ!」
    「へえ、自分の護衛を殺しちゃうんですか?」
    「あの老害は我が覇道に不要な存在、いずれ適当な理由をつけて始末するつもりだったわ!」

    ハイレム五世は胸元から麻袋を取り出し床に放り投げた。
    麻袋は音を立てて床に落下し、その内からは金属が擦れる様な音がした。

    「まいどあり~っ! 達成報酬はまた別途頂きますんで!」
    「黙れ! さっさと行け!」
    「はいはーい」

    怒鳴り声を背に、暗殺者は暗闇にその姿を消した。
    王はイライラした様子でアゴひげを二度、三度と撫でた。

    「あのクソジジイめ…散々ワシの計画を引っ掻き回しおって…確実に始末してくれる!」

    再び静かになった室内で、当のグラムから暗愚と罵られた王は怒りをはらんだ声でつぶやいた。
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