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    ぽぷろあ

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    ぽぷろあ

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    タル鍾 馴れ初め話 幻覚強め なんでも許せる人向け
    別垢からお引越し

    #タル鍾
    gongzhong

    硝子細工の宝物「やぁ先生、今日も変わらず綺麗だね。そんな先生が俺は好きだよ」
    「…開口一番がそれなのか?」

    瑠璃亭に入って席に着くなり、笑顔で愛の言葉を告げるタルタリヤ。真っ直ぐ鍾離の方を見てニコニコと笑顔を振りまくその姿に鍾離は眉をひそめて溜息ついた。

    「そもそも、綺麗などと…そういった言葉は俺に言うよりもっと相応しい相手に言ったほうがいい」
    「えぇー?先生以上に綺麗な人なんていないよ。それに、俺にとっては先生が相応しい相手だ。いい加減、付き合ってくれないかな?」
    「……断る」
    「そっか、残念。じゃあまた後日口説く事にするよ」

    テーブルに片肘をついて笑顔を崩さずめげない姿に思わず頭痛がしてくる。

    ここ最近、タルタリヤはずっとこの調子だった。最低限、配慮はしているのか公衆の面前で言われることはないが、二人っきりになるとずっと鍾離を口説いて来る。鍾離に告白を受けるつもりはなく、言われる度に断っているのだが…何度断ってもタルタリヤに諦める様子は見られなかった。

    「あ、そうそう…これ、この前仕事で遠出したときのお土産」
    「公子殿、何度も言っているが…」
    「贈り物は受け取れない、だっけ?…そっか、でもこれ足が速い食べ物だからねぇ…先生に食べてもらわないと食材が無駄になっちゃうかな?」
    「…分かった頂こう」

    そして困ることに、口説くのとセットであの手この手を使って鍾離に贈り物をしてくるのだった。

    ワザとらしく困った顔をして芝居がかったように言うタルタリヤ。だが、作られたものを粗末にできない鍾離の性分を利用して贈り物をしてくるのだ。今、タルタリヤが困っていない事など自明の理だろう。

    だが、一口も食べられずに捨てられるものを思うと、こうして毎回受け取る羽目になってしまっている。それに、鍾離にはもう一つ、タルタリヤの贈り物を強く断ることが出来ない理由があった。

    何を隠そう、鍾離もタルタリヤの事を想っているのだ。

    贈り物を鍾離に渡し、タイミングよく来た店員に機嫌よく料理を注文するタルタリヤを横目に見てから鍾離は目を瞑って考える。タルタリヤに口説かれたり贈り物をもらうのは、正直、心の底から嬉しい。が、物は受け取れても、想いを受け取る事は鍾離には出来なかった。

    凡人になったと自称しても鍾離は現存する最古の魔神。そこから考えなければならない事は多々ある。種族の差。そこからくる寿命の差。それらをクリア出来たとしても、タルタリヤとだと国と立場の事もある。

    そもそも風神からすら、じいさんと呼ばれる程に長きを生きたのだ。タルタリヤはまだ若い。この先、摩耗の事を考えなければいけない鍾離よりも、同じ種で同じくらいの年齢の人と共に人生を歩むのが一番相応しいと鍾離は思う。

    この考えを元に、鍾離はタルタリヤからの告白を断り続けていたのだった。

    「どうしたの先生?」
    「……いや、なんでもない」

    いつかタルタリヤが諦めてくれる事を鍾離は願っている。
    けれど、そう願っている筈なのに鍾離の胸中はスッキリとしなかった。

    ✦✧✦

    タルタリヤとの食事から四日後。往生堂に充てがわれた自室で鍾離は独り物思いに耽る。

    今日は気分がすこぶる落ち込んでいた。と、一日を振り返らなくとも自分で自覚していた。渡し守や堂主からも溜息が多い、どうかしたのか等と指摘されてしまう程だったのだ。

    原因は勿論分かっている。
    なんて事はない、タルタリヤが今日顔を見せに来なかった。それだけだ。

    どんなに忙しく仕事が入っていても。たとえ滞在時間が五分しかなくても。タルタリヤは三日に一回は必ず鍾離の前に現れ、そして必ず口説きに来ていた。その労力を他に注いだ方がいいと鍾離が言っても、何日も会えないなんて無理だと返し、有言実行と言わんばかりに顔を見せていたタルタリヤが四日経っても鍾離に会いに来ていない。

    めげずに何度でも口説きにくるタルタリヤの来訪が、鍾離にとっても半ば習慣になっていたし、三日経っても来ないなんて口説かれ始めてから初だった。

    「体調でも悪いのだろうか。それとも怪我でもしているのか…」

    心配する考えが浮かんだが、自分の冷静な部分は仕事だろうと判断している。けど、心配する気持ち以上の得体のしれない何かが、もやもやと鍾離の胸に渦巻いていて妙に気が落ちた。

    かぶりを振って気分転換をしようと、本棚に近づくと、棚の隣に置いてあった収納箱が目に入って思わずそれを手に取る。そのまま近くのテーブルに箱を置き、そっと蓋を開けた。

    何を入れてあるのか。なんて記憶力のいい鍾離には問うまでもない。ここに入っている物は、全てタルタリヤから貰ったものだった。

    硝子細工。置物。結紐。文鎮といった小物から。玉の飾り。霓裳花で織った手巾。夜泊石の付いた耳飾り等の高級品まで、多種多様な物が丁寧に整頓して仕舞ってある。

    その中の一つ、硝子細工を鍾離は手に取って眺めた。水色の色硝子で作られたそれは、鍾離の片手に乗る位の大きさをしていて鯨の形を模していた。水飛沫を上げながら宙を舞う姿が、どこかタルタリヤを思わせて鍾離は薄く笑む。

    それだけを取り出してテーブルに置き、箱の蓋を締めて元の場所に戻す。テーブルの方に戻って鯨の表面を鍾離はなんとなく撫でた。つるりとした感触とガラスの冷たい温度が鍾離の手に伝わり、幾分か気分が浮上する。

    「…きっと仕事が入ったのだろう。明日にでもなればまた来ようになる。そうに違いない」

    タルタリヤが鍾離の元へ来ない。諦めさせることは鍾離の願いの筈。
    なのにその日は終日、来ない理由を一人で何度も頭に浮かべた。

    ✦✧✦

    鍾離がタルタリヤと会わなくなって十四日目の夜。

    寝衣を纏い、寝台近くの椅子に腰掛けて鍾離は本を読んでいた。しかし読み始めて一時間、何度読んでも一向に文字が頭に入らなくて、とうとう本を閉じてそっと溜息をつく。

    これ程まで、タルタリヤが来ないことがこれまであっただろうか。

    など、気がつけばタルタリヤの事ばかり考えてしまう。好きという感情がこうにもままならないものなのだと、六千年生きて初めて知ったかもしれない。神の心を持っていた頃はこんな風になった事なんて一度もなかった。凡人とは大変なんだなと、どこか他人事のように鍾離は思う。

    今日はもう寝た方がいい。ぼんやりと考えながら立ち上がり、持っていた本をテーブルにおざなりに置くとガチャンッと大きな物音がした。ハッと目が冴えて音がした方に顔を向けると、床の上に割れた水色が見えてヒュッと息を呑んで鍾離の時が一瞬止まった。

    ヨロッとふら付きながら、割れた物の前まで歩き膝を付く。無残に割れたそれは、十日前から出しっ放しにしていた鯨の硝子細工だった。水飛沫の部分は粉々に砕け、胴体から真っ二つに割れたそれが、タルタリヤが来なくなった証のように見えて鍾離の胸に突き刺さる。

    割れた片割れをなんとなく右手に取る。割れて鋭く尖った表面が鍾離の掌の皮膚を裂き、血の赤と水色の硝子が重なって濁って見えた。痛む胸を抱えながらぼんやりとその光景を眺めていると、急にバタンッと部屋の窓が勢い良く開き、夜風が鍾離の頬を撫でた。

    「こんばんは先生!ちょっと仕事で遠くまで行かなきゃいけなくてさ、会いに来れなくてごめんね!だけどその代わり沢山お土産持ってき…は?」
    「……あ」

    窓を開けたのは大量の荷物を持ったタルタリヤだった。お互い思ってもみない姿をしていたのだろう呆然として見つめ合う。が、先にタルタリヤが我に帰り、表情が徐々に険しくなっていった。

    「ちょっ…先生何してるの!?割れたガラスを素手で触るなんて今時子供でもしないよ!?」
    「…これは、その」
    「何でもいいからそれ置いて!それから手当するから!」
    「これくらい、放っておけばそのうち治る」
    「そういう問題じゃない!!包帯は?薬とかどこ?」
    「…そこの棚の右端の小箱に両方入っている」

    タルタリヤは言われた小箱を早足で取り出し、すぐさま鍾離の元へ近付いた。血の付いた硝子を鍾離の手から取って他の破片の近くに置く。ベッタリと血の付いた鍾離の右手を水元素を使って一瞬包み込み、中の水を流動させて血と破片を洗い流す。ある程度綺麗になったと判断したのか、すぐに元素を散らして手際良く取り出した手巾で水気を拭った。

    「…器用なものだな」
    「水のない場所で手当する事もあるからこれ位はね」
    「すぐに治るから薬が無くてもこれで大丈…」
    「ダメだよ、万が一先生の綺麗な手に傷が残ったらどうするのさ」

    ピシャリ鍾離の言葉を跳ね除けながら、タルタリヤは包帯と薬を取り出すとテキパキと軟膏を塗って手当を進め、鍾離が気付いた時には包帯を巻き終えていた所だった。

    「先生は座ってて、俺はあれを片付けてくるよ」
    「それくらい自分で片付けられるが」
    「利き手を怪我したんだからさ、ほら座って座って」

    そう言って、ほんの少し強引に左手を引かれた。されるがままにしていると寝台まで連れて行かれて座るようにタルタリヤが目線で促してくる。素直に座るとタルタリヤは満足そうに笑いながら、ホウキとあと古紙とかあるかな?と独り言を呟きながら目当てのものを探し出す。そんなタルタリヤと床に散らばった硝子を交互に見て途轍もない罪悪感が鍾離を襲った。

    「すまない」
    「いいよ、これくらい」
    「すまない公子殿。わざと割った訳ではないんだ…」
    「先生?」
    「不注意で割ってしまったとはいえ、贈り物を無下にしてしまってすまない」
    「………。」
    「その上、公子殿に後始末まで任せるなど…謝罪してもしきれないな…」

    タルタリヤの顔を見るのが怖くて、割れた硝子の方を見ながら謝罪を重ねる。けれど目を合わさないのは流石に不誠実かと思い直し、鍾離は意を決してそっと顔を上げた。

    「………?」

    怒った顔や、悲しんだ顔、もしくは無表情になった顔を想像していたのに、そこには満面の笑みを浮かべたタルタリヤがこちらを見ていた。思っても見なかった反応に鍾離の脳内に疑問符が大量に浮かんで思考が止まる。あまりにも混乱して、物を壊すと喜ばれる風習がスネージナヤにはあるのだろうか。など、在りもしなさそうな風習を思い浮かべてしまった。

    「…贈り物を壊したのに喜ぶのか?」
    「あははっ、ごめんごめん。壊れたことが嬉しいわけじゃないよ」
    「ならば何故」
    「んー?…だってこれ、俺が一番最初に贈った物だよね?今まで大事に持っててくれたのが嬉しくてさ」

    心の底から嬉しそうに、そして少し照れくさいのか口元に手を当ててタルタリヤは笑っていた。けれど、瞳の奥に安堵が見え隠れしていてその事実が鍾離の胸を締め付ける。
    タルタリヤから贈られた物を粗末になんてしない。そもそも鍾離には出来ないのだ。しかし、そんな事は素直に言える筈もなく、沈黙を貫いた。

    「………。」
    「先生、また今度似たようなの見つけたら贈るし、今日はお土産沢山持ってきたから元気出してほしいな?」

    黙っているのを落ち込んでいると勘違いしたタルタリヤが慰めの言葉を放つ。部屋に持ち込んだ荷物をいつの間にか手に持ち、鍾離の許可を取ること無く勝手にテーブルの上に広げていく。止めるでもなくそれを黙って見続けていると、物を出し終わったのかタルタリヤはくるりとこちらを向いた。

    「それにしても、贈った物を壊して落ち込むなんて、少なくとも嫌われてはいないみたいで安心したよ……そこから更に、先生が俺を好きになってくれたら嬉しいんだけどね?」

    おどけたように笑って誤魔化しながら、切なそうにそう話すタルタリヤにとうとう鍾離は白旗を揚げた。

    今までタルタリヤの為なんだと断っていたのは、鍾離が恐れて言い訳して逃げる為に思いやる振りをしていただけに過ぎない。贈り物一つ壊れただけでここまで堪えたのだ。自分以外の誰かがタルタリヤの横に立っているなど、恐らく耐えられるとは思えない。

    もうこれ以上、タルタリヤの告白を断る事は鍾離には出来そうになかった。
    だが、今まで逃げていた為か返事をしようにも口がうまく動かなくて黙り込んでしまう。

    そうしている内に、割れた硝子はいつの間にかタルタリヤが手早く片付けたようで、床に散らばっていた硝子は綺麗になくなっていた。いつの間にか取り出して使っていたホウキを元の場所に戻し、タルタリヤは入り口として使った窓の方へ向かってからこちらを振り返る。

    「時間も遅いし、そろそろ帰るよ。今度会ったときは食事にでも行こうね」
    「…ああ、楽しみにしている」
    「ふふっ、なるべく早く連絡するよ。じゃあ、今日も好きだよ。またね先生」
    「……ああ」

    なんとか話せた事にホッとしていたら、タルタリヤは軽やかに窓枠を越えた後、足音を立てずに静かに去っていった後だった。言われた告白にどうしても返したくて、でも直接言うのは気恥ずかしくて、少し間を開けてから鍾離は口を開いた。

    「……俺も好きだ、公子殿」

    いつもよりも控えめな声が静まり返った部屋にポソリと響く。想いを言葉にするのは、たとえ一人でも恥ずかしいものだな。と一人で感慨に耽っていると、少し遠くの方でガターンと大きな音がして鍾離は首を傾げた。その後、ドタドタと派手な音が徐々に近付いてきているような気がして、何事かと窓の外を覗き込む。すると、先程静かに去ったはずのタルタリヤが、物音を立てて飛び込んできて驚いて思わず一歩後ずさった。

    「先生、今なんて言ったの!!?」

    どうやら、先程の鍾離の言葉が聞こえてしまったようで、珍しくも顔を真っ赤にしたタルタリヤが声量を制御出来ず大声で聞き返してきた。

    まだ返事をする勇気が無く、今は伝えるつもりがなかった想いが、思わず相手に伝わってしまった事に今更気付いて鼓動が跳ね上がる。タルタリヤの赤面が伝わったのか顔が無性に熱い。緊張で目を合わせられなくてちょっとだけ横に逸らすと、その間に距離を詰められてギュッと抱きしめられてしまった。不覚。

    「その顔は反則だよ先生!?」
    「公子殿、近い…それに夜半にその声量は近所迷惑になる。窓が開いてるなら尚更だ」
    「いや、そうだけどさ!」

    口は冷静に指摘するが頭は全く冷静じゃなかった。鼓動が早鐘のように打っているのが相手に伝わるのがどこか恥ずかしい。けど、タルタリヤも同じくらい鼓動が早くてそれにどこか安心した。ただ、タルタリヤが喋る度にギュウギュウと抱きしめられるのがほんの少し苦しい。けど、自分から離れようとはせずにそのままじっと甘んじて抱きしめられていた。

    「…ねぇ先生?」
    「…何だ?」
    「このままだと俺の都合の良いように捉えちゃうよ?いいの?」
    「…………ああ」
    「嫌なら振り払ってもいいんだよ?」
    「振り払って欲しいのか?」

    不安気に鍾離がそう呟くと、タルタリヤはほんの少し体を離して顔を覗き込んできた。瑠璃色の瞳に優しい色が浮かべて困ったように笑った。

    「俺は出来れば、このままがいいかな」
    「…………俺もだ」

    小さな声でそう返すと、タルタリヤの顔がゆっくり破顔していった。その顔がとても眩しく見えて、目を細めて鍾離も笑った。
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