☆☆☆(語り手・かりん)
クリームソーダが来たところで、師匠が店に入ってきた。メジロさんは師匠を見て、フルーツあんみつをもうひとつ注文した。
「やぁ鏑矢の石目君、ケガの具合はどうですか。すみませんねお宅の弟子を寄り道させちゃって。こんな暑さです、お嬢さんが熱中症になってしまっては大変でしょう」
ウソがうまい人だ。
師匠は「あの時はどうも」とお礼を言って、私を見た。
「あ、あの、師匠…」
「気持ち悪いとかないか? 頭ふらふらするとか」
「え? あ、う、ない…です」
「そうか、よかった。具合悪い時は我慢しないで言えよ。水脈さん、ありがとうございました」
そう言って師匠は私の横の席に座った。メジロさんの言うこと信じちゃった。
本当のこと、言いたいな。でももうクリームソーダを半分くらい飲んでしまった。すごくおいしい。
「メジロでいいですよ。ミオさんだと女の人と間違われますし。メジロっても鳥じゃないですよ、出世魚の方です」
メジロさんは、さっきと同じような自己紹介をした。
「わかりました、ではメジロさん。俺のこと調べにきたと聞きました。必要ならここで話しますけど」
えっ? 師匠を? なんで?
メジロさんは笑って首を横に振った。
「イヤですねぇ、もうすぐフルーツあんみつが来るって時に、そんなヤボな話ばしたかないですよ。まずは美味しくいただきましょ。大丈夫、あなたの分も頼みましたから」
この人、ギリギリまでサボる気だ…。
師匠は怒らなかったけど、喋りは雑になった。
「いやまぁ…こっちは探られても痛くねぇ腹だからいいけどさ、あんたは水脈なんだから、もう少しマジメに仕事した方がいんじゃねぇか?」
師匠、もっと言って欲しい。
「マジメな熱中症対策ですよこれ」
「そこはホントどうも。けど、普通は水脈、汽車で来るよな? なら駅からこっち来た奴が、坂の上から帰ってくるかりんと支部より高いとこにある坂の上茶房にいるっての、マジメな奴のルートじゃねぇよな。挨拶前にこの辺散策でもしてたのか?」
師匠すごい! 違うけどそう! そうなの!
メジロさんは困った顔をした。
「いやあ……これだから石目はイヤなんですよ、まるでサボれやしない」
「いい度胸してんな。俺あんたが来てるって言ってきたから、支部長も待ってんだぜ」
「え! そうですか、すみません。だから挨拶前に遊びたかったのですが……いやぁ……けど坂の上茶房のフルーツあんみつ……いえ、仕方ありませんね。行きますか」
師匠は私を見て「あんみつ食ってからでいい」と言った。