同棲本作りたい〜🌵俺が大学三年生に進級し、響が大学を卒業しプロのグレーダーとして活動するようになって、もう一月が経った。響と同棲をすると決めてから暫くは何かと多忙だからと一旦は響のマンションで生活を共にし、落ち着いたら一緒に住む場所を探そう、と提案されこの春から同じマンションに住み始めた俺たちだったけど、想像以上に忙しなく挨拶すら交わすことのないすれ違いの日々が続いていた。
ゴールデンウィークの長期休みくらいはゆっくりできるだろうと高を括っていたけど、商業向けの仕事を生業とするパーセプションアーティストにとってイベントごとの多い長期休みは小さな子どもや学生対象の催し等で予定が詰まっていて、やっと響と休みが被ったのは初夏に突入する直前の、五月も後半に差し掛かった日だった。
「おかえり、響!」
久しぶりに夕飯も一緒に食べられる上に明日はお互い休日で。俺は腕によりをかけて食事を用意し、響のお気に入りのワインも準備していた。
ガチャリ、と玄関の扉が開く音を聞いて、響が帰ってきた!とはやる心を抑えられずに俺はエプロンをつけたまま、玄関先へと小走りで駆けて行き、響を出迎えた。
「ただいま」
こうやってちゃんと「おかえり」「ただいま」と言葉を交わすとやっと響が俺と住む家に帰ってきた、という実感が湧き、俺が胸がいっぱいで堪らない気持ちを抑えながら響の鞄に手を伸ばすと、その手を捉えた響にぎゅっと抱き締められた。
「きょ、きょう…!」
抱きつきたいのは俺の方だったのに…まさか響からこんな熱い抱擁をされるとは思っていなくて。響の腕の中でしどろもどろとする俺には構わずに響は俺を抱き締める力を強くする。
「わるい…最近あまり、こういうこともしてなかったから」
「うん…」
響の胸に埋めていた顔を上げると、目が合った。じっと俺を見つめる響の目が、なんとなくキスをする直前の瞳を彷彿とさせて俺は久しぶりで緊張する…!と心の準備をしながらエプロンの裾をぎゅっと握りしめ、そっと目を閉じた。
数秒後、左頬に柔らかい唇の感触を感じて「え、そこ!?」と思わず声をあげてしまった。どこに口付けられたって、響からのキスは嬉しいことに変わりはないんだけど。
恐らくうがいを済ませずに口付けをするのを躊躇ったんだろうな、と少し残念な気持ちを抱えつつ、響を洗面所へと押しやると、俺は響が戻ってきたらすぐ食事ができるように先に台所に行き夕飯の準備をする。
「和哉」
「何?手洗った?早くご飯食べようぜ。冷めちまうから。あ、そうだ…明日休みだからお酒も用意した!響の好きな銘柄の…んっ」
ワイングラスを棚から取り出し、響にテーブルへ置いてもらおうと振り向こうとした矢先に背中からぎゅっと抱き締められた。両手にグラスを持ったまま、突然の出来事にたじろいでいる俺には構わず、響は俺の顔を覗き込み触れるだけのキスをした。今度はちゃんと、唇へと。
「さっきはごめん。久しぶりに休みが被ったんだから今日はゆっくり…いろいろ、したい」
「い、いろいろ…」
色々、と濁してはいるものの久しぶりに、もっと恋人らしいことができるかもしれない…と思わず想像をしてしまい、頬を火照らせ俯く俺のうなじへと響の唇がそっと触れる。一旦手に持っていたグラスを置き、視線を落とした先にある俺のお腹に回っている響の両腕におずおずと両手を添えると、また一段と強い力で抱き締められた。