lost battle「おれと宝どっちが大事なんだよ」
「宝に決まってんだろ。ハデアホ」
単純明快な質問に返されたのは明確な答え。悩む時間も悩む素振りもなく秒もないほどの速さで答えられた。
少年の目は太陽を浴びてきらめく赤い宝石に向けられたまま動く気配はない。シャンクスはつまらないと邪魔するために上から覗き込む。光を遮るだけで透き通るような輝きを見せていた石は黒に近い姿に変わった。
「邪魔すんな」
ようやく振り向いた顔は歪んですぐどこかに行く。持っていた石は三つ並んだ箱の一番右へと放り込まれ、すでに入っていた他の色の石にぶつかって、コツ、と音を立てた。
「本物じゃないのか」
「質が良くねえ」
「ふーん」
退けと肩を押されてのけ反らせる。空になったはずの手には次の宝石があった。
バギーの前に並んでいるのは三つの箱。真ん中には仕分けしてみろと他の海賊から奪った宝の一部が入っている。その左には数個の宝石や装飾品が、反対の右の箱にはさっき眺めていた赤い石を含むいくつかの偽物、二束三文にしかならないらしい、バギー曰くハズレが入っている。
バギーが財宝に目がないことはこの船の乗組員であれば誰もが知っていること。そして年の割に目が利いているのも船長含めたほとんどが知っている。将来は世界中の財宝を手に入れるために海賊になるというから、大人達は目を肥やせようと奪った宝の一部を使って教えているのだ。
「つまんねえ」
「向こう行け」
ふざけた言葉を投げかければ、次第に掛け合いは大きくなりケンカが始まるのだが、財宝を目の前にするとシャンクスは眼中から外れる。どれだけバギーの視界に入ろうと、邪魔をしようと冷たくあしらわれてしまうのだ。しかも仕分けした物が正解していればいくつかくれるというから、余計に集中する。
退屈を持て余すシャンクスにとって、大変に面白くない。
「なあ、バギー」
「……」
ついに返事すらなくなってしまい、シャンクスはわざと音を立てて隣に座る。手元を覗き込むように体重をかけるも邪魔だとも言われない。いよいよ本当につまらなくなるが、これ以上は作業の邪魔はできない。前にしつこくしすぎて数日邪険に扱われてしまったのだ。そうなってしまえば嫌というほどかまい倒せばいいのだが、それについてもあまり良い記憶はなかった。
この後のことを考えれば、大人しく昼寝でもして待っていたほうがマシなのだ。そんな気分でなくとも。
「寝る」
申告したところで返事もなし。
場所を変えるために立ち上がったシャンクスは、丸まったバギーの背中にもたれて麦わら帽子を深く被る。寝転んでしまうと放置され、起きたときにバギーがいないということになってしまうからだ。こうすれば集中力が切れたバギーに起こしてもらえると何度目かのいたずらで覚えた。
(早く終われ)
気に入らない静かな背中にできる限りの体重をかけて、シャンクスは深く息を吸い込んだ。