「ありがとー!ございましたー!!」
一台見送ってまた一台。やっとピークも過ぎて一息吐ける。だからと言って休憩する時間はまだなくて次に入って来た白いワゴン車を誘導する。
『花屋 アンネリー』の見慣れたロゴ。
窓を開けた時に車内から少しだけ香る花が癒してくれて、常連の店長さんはいつも労いの言葉を掛けてくれる。
「えっと、レギュラー満タンで…後、領収書ください」
「花屋アンネリー、で…」と着けたしながら差し出された会員カードを受け取り損ねた。
運転手がいつもの店長さんじゃくて、
光が反射したピアスが眩しくて、
「あ。」「あ。」
と思わず声も重なって、お互いに驚いた顔した。
「海野さん?大丈夫?」
「あ、はい!だ、大丈夫です。レギュラー満タン、入ります!
カードお預かりしますね!」
背後から店長に声を掛けられて慌てて行動に移す。
会員カードも受けとり直して一人バタバタした。
「代わる?」と聞いてくれた店長に慌てて首を振って呼吸を整える。
まだ熱い。
カードを受けとる時に思わず触れてしまった手が、顔が。なにより唇にあたった柔かい感触を思い出して全身が熱くなった。