Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    くさもち

    @yom___0g12

    なんか色々混ざる予定
    編集人間
    ぴ…しぶに移動しました

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌸
    POIPOI 15

    くさもち

    ☆quiet follow

    コウバン

    バンビをずっと見てきたコウくん。

    頼まれごとはなにかと引き受ける方だ。
    貸しを作っておいて方が後々都合がいい。喧嘩の仲裁、運動部と同好会の賭け……助っ人。勿論断ることもあるが、はば学に入学してからずっと断り続けてる事がある。
    入学してからと言っても、その頼み事の対象の小波ミナコに再会したのが入学式なんだから当たり前のことだ。

    幼馴染の妹分…小波を紹介してくれ、ていう頼み事はずっと断り続けてきた。
    学校の同級だか、バイト先の奴だったかは忘れたが、テキトーに流したのを覚えてる。

    新しいことを始めたい!とかなんとか、気紛れで一緒に帰った時の宣言通りに、部活にバイト、しなくていいお節介をして毎日忙しそうに動き回っている。
    手芸部はともかく、俺と同じバイト先、スタリオン石油に新人として現れた時はなんの間違いかと思ったが、今ではすっかり戦力になってる。
    (初めの頃、気にかけすぎて凡ミスを続けたのは苦い記憶だ)
    端から見れば忙しそうだが、本人は苦にならないのかずっと楽しそうにしていて、学校じゃいつの間にかみんなのお姉ちゃんだとか、嫁さん候補だとか言われるようになっていた。おまけに次のローズなんちゃら候補だとか話題も増えるもんだから近付く奴も増えるばかりだ。

    誘われるまま出掛けた時も、遅れたり目を離した隙にもナンパされていて、お人好しの性格のせいか断りきれてない様子に、最悪、俺の名前やルカの名前を出して追っ払えとか言っても、大丈夫だよ、と笑うだけで、ちっとも危機感がない。
    注意したことろで聞きやしねぇのは分かってるから、こっちが折れて待ち合わせの一時間も前から待つようになった。


    「あ、あのね琥一くん…、頼みたいことが、あるんだけど…」
    「あ…?…頼みたいこと?」
    「頼みたいというか、お願い、というか…」

    散歩にちょうどいい煉瓦道。静かで人の集まりも少ない此処は周りを警戒する必要もない。
    置いていかないよう歩幅を合わせて、次から次へと出てくる話題に相槌を打つ。なのに一歩、また一歩と遅れて、終いには立ち止まっていた。
    疲れたのかと振り返れば、そうでもないらしく、頼み事と言いながら口を開こうとしない。

    「おい、言わなきゃ分かんねぇぞ…」
    「う、うん。だ、だよね。うん。言うから、言うから………」

    決心がついたのか、握り締めていた拳をほどいて俺の服の裾を掴んできた。
    皺になるからヤメロ、と言う前に離れていた数歩が一気に縮まって、デカく丸い目とかち合う。

    「あ、あのね…琥一くん、琥一くんのこと、っ、コウちゃん!て呼んでもいいかな!わ、私も…私のことも、!な、なな名前で呼んでいいから!!」


    遊覧船の汽笛の音か突然の大声に驚いたのか鳥が数羽飛び去った。同時に生暖かい風を全身に浴びて汗が吹き出る。

    「……コウちゃ…あ、いや、コウちゃんってのがダメならコウ…、くんとかでも良くて…つまり、その………て、大丈夫?!顔真っ赤だよ!!」

    捲し立てながら掴まれたままの服の裾が突っ張って体が重くなる。
    俺がどんな面になってるか分からないが、熱の心配をされるぐらいには赤いらしい。背一杯伸びをして目の前に近付いてきた手を掴まえた。

    「コ、ウちゃ……」
    「ッ・・、だ…大丈夫だから、待て……待ってくれ…」
    「う、うん……」

    なんとか絞り出した声は我ながら情けなくて、目も顔も反らしてしまった。
    深呼吸しても落ち着かねぇ。熱くて、うるさい。

    「コウちゃ、ん…ごめん、ちょっとっ、痛……い」
    「…わ、悪い…」

    背伸びをしたままの体勢にさすがに限界がきたのか慌てて手を離す。掴んでた手首の細さや感触が手の平に残る。

    「悪い……どっかで、冷やす、か」
    「ううん、大丈夫…それより」
    「あ?」
    「コウちゃ、んの…返事、聞きたいな…?」

    水場を探す前に引き留めらた。服の裾から腕へ、反対の手も掴まれて、デカい黒目も離してくれない。
    照れ気味だった顔が、少し違うように見えた。


    とりあえず他の奴らに紹介しなかったことは正解、のはずだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works