どれくらい時間が経ったのかは分からない。
分かるのはずっとコウくんに抱き締められていること。卒業式の後の教会でコウくんが想いを伝えてくれて、それに答えてからずっと抱き締めてくれている。
顔は見えないけど胸元にいる私にはコウくんの心臓の音がよく聞こえてる。私と同じぐらいずっとドキドキしていた。
「ねぇ…コウくん…」
「悪りぃ…、痛かったか?」
「ううん。平気もっとギュッ、てして」
「お、おう…」
私も背中に腕を回すと少し遠慮がちに抱き締めてくれる。
コウくんの大きくて暖かい体からは、愛用のヘアワックスとバイクの油の匂いが混ざってて…少しだけ土とサクラソウの香りがした。
「…コウくん、私そんなに柔じゃないよ…?もっと強く抱き締めてくれても大丈夫」
「そう、かよ…」
「うん。強いよ私…コウくんの女だしね」
顔を上げると驚いてるコウくんと目が合った。数回瞬きした後、言った言葉を理解したのか少しだけ顔を赤くしながら「お、オマエなぁ…」と呆れ口調で目を逸らされた。
「だって嬉しいんだもん。これからもコウくんといっぱいお話しをして、いっぱいお出掛けも出来る。今まで以上に我が儘も言っちゃうかも知れないけど…それでもコウくんの側にいていいんだよね?」
「あぁ、勿論だ」
大きい手が私の頭を優しく撫でてくれる。
何時までも妹扱いで、私もついついお兄ちゃんみたいに頼ってきてたけど、今日でもうお互い卒業しないといけない。
「コウくんもだよ?もっと私を頼って?で、甘えて、我が儘も言って」
「それは…が、柄じゃねぇだろ…」
「柄なんて関係ないよ。嫌だと言っても勝手に甘やかすからね?覚悟して?」
「覚悟ってオマエ…、な──」
制服の襟を掴んで引き寄せながら、ぐっと背伸びをした。不意を突かれて前のめりなったコウくんの口にギリギリだけど届いた。
少しだけ合った唇にコウくんがまた目を見開いて驚いてる。
「そこは譲らないよ?だってコウくんは大切で大好きな私の男だから」
私からの早速の我が儘にまた、呆れた口調で「バーカ」と呟いたコウくんがもう一度キスをしてくれた。