キスの日「アイスがない!?」
任務が終わって冷凍庫を覗くと何故か何もない空虚が俺を見つめ返した。俺の分がまだ残っていたはずなのに。しかし今日ヒカルがそれを食べているところを俺は見ていない。
ということは、だ。
俺がいない隙に食べたに違いなかった。
...俺が!任務で!写真の中汗水垂らしていた最中に!!
「おい...俺の分までアイス食べやがったな!?」
ヒカルに向かって問いただすと、
「......」
あいつは質問に答えないどころか、視線をふいっと逸らしやがった。
「こっちを見て答えろよ」
俺は思わず頭を掴み無理やりこちらを向かせるが、強情なヒカルはそれでも黙ったままだった。
「......答えないとちゅーするぞ」
こうすりゃ流石に答えるだろ、と嫌がらせのつもりでゆっくり顔を近づけていく。
ヒカルの顔に俺の影がかかる。じっと俺の目を見つめて微動だにしないのは何故なんだろう。
こいつは今、何を考えているんだろう。
その突き刺さりそうな力強い目線が、俺を射抜く。
鼻腔をヒカルの匂いがくすぐった。同じシャンプーを使って同じ洗剤で服も洗っているはずなのに、どうしてこうも俺と違うのだろう。
匂いは記憶に一番残るという。それならば、俺は死ぬまでこいつの匂いを忘れられないんだろうな。
ヒカルの薄墨色の瞳に俺が映っていた。俺の瞳にもヒカルが映っているのかもしれない。
そのくらいそばにいるのだ、と気づいて内心動揺が止まらないがそれを悟られるわけにもいかなかった。これはもうチキンレースだ。
どちらが耐えてみせるか、の。
くそ、絶対負けたくない...!!
とうとうお互いの鼻が触れて、吐息がかかるところまでにきてしまっていた。
...こいつほんと何考えてんの?
なんで早く言わねえんだよ!?
亀の歩く速度より遅いスピードでじりじり顔を近づけていくが、もうほんの数ミリで触れてしまいそうで、これ以上は流石にやばいと自覚はしていた。心臓が破裂しそうに早い。
この一線を越えてしまったら、もう後には引けなくなる気がする。
俺は、こいつとどうなりたいんだろう。
理性が俺を引き留めて、なんとか顔を引き離した。危なかった、俺のファーストキスをヒカルに捧げてしまうところだった。たかがアイスのために。
「本当にしちゃうところだっただろうが!せめて避けろよ!!」
「どうせする度胸もないんだろ」
ヒカルが、そんなふうに余裕そうに笑うから。
「......はあ?」
後頭部を掴むと、全く躊躇せず唇を重ねた。
ほんのり甘いのはアイスだろうか。
その残り香を求めて唇を舌でこじ開けて、中も味わっていく。
外見からは体温を感じない涼しげな顔をしてるくせに、予想に反してヒカルの中はとてもとても熱かった。