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    biommsour

    @biommsour

    過去に書いたものの置き場です

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    昔書いた短編のまとめです
    ゆやゆず/遊矢と零児 ※リンクスネタ

     柚子はときおり遊矢を傍目で見ることがある。それは日々のふとした瞬間に向けられる、ほとんど無意識の眼差しであった。例えば、こうしてデッキの調整でカードを見つめている遊矢に、柚子の視線はそっと注がれる。
     たぶん誰よりもそばにいる自信はあるのに、そのたびに柚子は遊矢を新鮮な気持ちで見つめてしまう。それはやはり遊矢が、何かと人目を引く存在感を放っているからかもしれなかった。
     などと、柚子が考えていると、ふいにカードから視線を上げた遊矢の瞳とかち合ってしまった。
    「何だよ、人の顔ジロジロ見て」
    「べ、別に……」
    「別に、ってことはないだろ」
     穴のあくほど見といて、遊矢がむっと言い返したので、少し間をあけてから、顔を、と柚子は白状するように言った。
    「遊矢は自分が気付いてないだけで……結構、見惚れてる人、いるんだから」
    「そう? そんなの気付かなかったな」
     遊矢はあまり興味がないようで、柚子に重ねられていた視線を再びカードへと戻してしまう。
    「だって、わざわざ言わないよ。遊矢、すぐ調子に乗るし」
    「なんだよそれ」
    「……華があるのよ」
     エンターテイナーにそれは必要だと柚子は思うのだ。そういう意味で、遊矢の顔立ちはすごく適しているし、それでなくても、柚子は気に入っているのだ。遊矢の顔立ちはなんというか、かわいい。
    「でもそれを言うなら、オレは柚子の方がよっぽどカワイイと思うけどな」
    「えっ」
    「あっ」
     いまのナシ! 間髪をいれずに遊矢が言い、慌てて背けた顔は、けれど、頬がほんのり赤く染まっている。柚子は少し笑ってしまった。


    ────────────────────


     だって、オレはみんなと一緒に戦ったはずなのに、オレをオレに戻してくれたのはみんなだったはずなのに、よく似た別人がいて、その人はオレを知らないなんて、まるでなかったことになっているみたいだなんて、ちょっと、よくわからない。それならオレは、いったい、誰に助けられたんだろう、誰を笑顔にしてきたんだろう?
     ここに来るときもどうしてか柚子とはぐれちゃったしさ、と遊矢は唇を尖らせて言い、柚子はそうね、と申し訳なそうに返事をしたので、実はこれっぽっちも柚子を責める意図などない遊矢は内心ではちょっと焦るのだった。だってこれはさ、もう仕方がないだろ、と取り繕うように言ったところで、いったい何が仕方がないのかは実際のところ、遊矢もよくわかっていないのだった。それは宿命とか、そういう類いのものなのだろうか。
     ここは現実によく似た、けれど、ゲームの中の電脳空間で、だからここで出逢うのは、遊矢が今までに関わってきた人々とは関係などないはずなのだったが、しかし、同じ顔の別人だなんてその不可思議さだけは、遊矢が誰よりもよくわかっているのだ。


    ────────────────────


     自分のことを知らないという同じ顔の別人たちは、ゲートを潜った先の、何処かによく似た別の場所に居るのだったが、零児に言い付けられて(という方が正しいと遊矢は思う)なるべく多く決闘をするというのも、骨が折れるというか、お前など知らない、と言われるのは、やはり、心も折れるのだけれど、それを訴えたところで零児が取り合ってくれるわけもないだろうから、遊矢は、とりあえず、脅威だとか不穏なことを口にする零児に、闘いは嫌だと素直に言うことにした。今までがそうだったように、厳しいことを言われるかと思っていたのに、多くの人間をまとめ上げる経営者でもある彼はもっと効果的に言葉をかけてみせる。
     キミらしくやれだなんて、なんだか上手く丸め込まれている気がするけれど、まあそれでもいいか、と思えるほどには、自分も気負わず行けるのは、いつかの決闘で笑ってくれた彼のことを、遊矢がそれなりに信頼しているからなのだった。

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    biommsour

    PASTあいゆオンリーの無配でした。ありがとうございました!
    愛の生活「久しぶりだな、この部屋もさ」
     久しぶり、というAiの言葉に、いったいどれほどの感慨が込められているのだろうか、と遊作は思い、けれど、いちいち感傷じみた気持ちを浮かべてAiを見つめるのは、なんというか、それは違う、と自分に言い聞かせて、ただ、そうだな、と彼は返事をした。
     心が壊れるかのような別離からしばらくして、Aiはひっそりと、遊作のもとへ帰ってきた。帰ってきたというのが正しいのか、遊作はこれから考え続けなければならない、と思っている。あのとき、Aiは遊作の目の前で、遊作の選択で、消滅したからだった。繋がりの途切れる瞬間を見た。あれは、確かに死だった。
     Aiは、体重を掛けると金属のフレームが軋んで耳障りな音をたてる質素なベッドに座って、壁の方へ視線を向けていた。ところどころ塗装が剥げた壁は内部のブロックが露出している。Aiの過ごしてきたシミュレーションという那由多の時間に比べたなら、まだ新しいと言えるかもしれないこの部屋の壁にも、遊作やAiやロボッピや、その前の住人たちの時間が、埃やシミとなり、キズや塗装の剥がれとなって、確かに堆積しているのだ、と遊作は考え、やはり、自分は幾らか感傷的になっているのだと自覚した。
    1969

    biommsour

    PAST以前ラキカで公開したロアロミの再録です
    「わたし、けっこう料理が上手くなったと思うんだけど……」
    「この惨状を見てもそう言えるワケ?」
     一般的に料理とは、鍋から噴水のようにあふれ出し、部屋を汚したりするものではないとロアは思うのだが、ロミンにとってはそうでもないらしい。
     彼女はその壊滅的な料理のセンスでロアの部屋をカレーの海に沈め(るだけならまだしもマンションごとカレー浸しにして管理組合にひどく怒られた)たのだが、そんなことではめげないらしく、初めて作ったカレーが案外好評だったのが相当な自信になったようで、それから今にいたるまで、彼女はときおり彼の部屋に、ただ、カレーを作りにくる。
     ロミンがカレーと呼ぶ極彩色は、刺激を与えなければ鍋の中にとどまっているところまで来たが(?)ほとんど爆発物だと思って取り扱わないと危険なそれを料理と呼ぶのが適当なのか、ロアは途中から考えるのをやめ、そのくせ、口に入れてしまえばわりといける味で、だから彼は、もう少しバンド活動を広げて、まだ一応は賃貸だったこの部屋くらいはせめて買い取らなければと、ふたたび鍋から噴き上がりはじめたカレーを見て、思ったりする。
    3748

    biommsour

    PAST大華と龍久
     両親は姉弟に対して、特にその役割や立場を押し付けるような教育方針ではなかったから、龍久ははじめ、大華のことを名前で呼んでいたし、そういう姉弟の関係性について、何も考えたことがなかった。確かに大華は姉であり自分は弟なのだが、この名前の通りに、大きな華の咲くように何事も派手なところのある姉を、そういう姉を持った弟にはよくありがちに、畏れ、圧倒されつつ、一番近くで一番遠巻きに眺めて育ったのだった。他人から見ればよく似ているまごうことなき姉弟は、しかし、本人たちにしてみれば、かなり違うところがあり、姉は常に強く、弟は常に弱かった。
     姉はいつしか龍久が名前で呼んでも反応してくれなくなり、大華をタイガーと読んで呼べと大仰に言い、龍久はちょっと困って、しばらくは姉の変化に戸惑うことになった。名前が変わることはそのまま、ふたりの関係性が変わることだった。別の名前で呼べという癖に、自分は頑なに、なんとか太郎だとか姉の印象丸出しで弟を呼び、正しく名前を呼ぼうとはしなくなっていた。もっとふたりが幼い頃は、姉は龍久と名前で呼んでくれたこともあるはずなのに、それはもう遠くなりはじめた幼少期の、思い出の中だけの出来事で、姉も自分もそこへ戻ることは二度とないのだと、弟はいつも不意に、姉との関係を思い知らされる。
    2060