大抵の道具は難なく使いこなせそうに思える遊我が、それを手にして、一体何に使うものなのかと思案している顔を、龍久は新鮮な気持ちで見つめた。手こずっている遊我というのはめずらしく、それで龍久はちょっと得意になって、遊我の足元に屈んでから、自分の手のひらを遊我に差し出すようにして、一体何に使うかわからないらしいそれを貸すように促した。
「ふふん、これはこうして使うモノなのだッ」
椅子に腰掛けさせた遊我の膝に触れ、龍久は慣れた手つきで膝の下に靴下留めを着ける。遊我の脚を黒い革が装飾している。あまり筋肉のついていないほっそりとした少年の脚に、それはどこか拘束具めいているようにも見える。
「……なるほどね」
龍久が仕上がりを確認しながら満足げに顔を上げると、妙に納得した様子の遊我と目が合った。ルークはこれが何か知っていたんだね、と言う遊我に、龍久は、たまにそれを使うことがあったのだ、と答えて立ち上がり着慣れた様子でジャケットに袖を通した。
龍久の育ちの良さというか上等さを、遊我は前々からなんとなく感じていたけれど、こうして目の当たりにするとそれは身についたものとして無意識に表れるものなのだと思い、龍久にはわりと面倒見のいいところがあることも、そういうものの表れなのだろうと思うのだった。
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以前坑道でアサナと話したとき、彼女が自分と遊我の関係性について、その程度のもの、と断言したことや、決闘を通して知ったらしい遊我の人間性に納得したふうなのにも、なぜか龍久はむっとして、とっさに言い返した言葉は、思い返してみると自分でもちょっとどうかと思うようなもので、だからすぐに、本当は知らないのだと、思うより先に口走ってしまったのが、まるで真実のようで、龍久はそれからたまに、そのときの気持ちを考えてみる。
窮屈だからというその理由だけで、新しいものを創りだしてしまう遊我の才能や、ふとしたときにみせる度量はとても魅力的で、だから皆、彼に叶わないものを見たり見せられたりしているのかもしれない。周囲の勝手な期待や願望を、遊我は事もなげに、行く手をはばむ壁よろしく突破してしまう。そこには共感も謙遜も譲渡もなく、彼は大胆不敵な笑みを浮かべて、ただ突き進むだけなのだ。
遊我のそういうところがまばゆくて、見えているのに見えない気がして、目がくらんでしまって、ときどき龍久は言わなくてもいいことを言ってしまう。そのたびに遊我は龍久を糾すのだが、それももしかしたら都合のいい幻かもしれない。だから、何も知らないのかもしれない。ただ龍久は、そういうときに見る遊我のあの不敵な笑みをすごく好きだと思うのだ。