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    biommsour

    @biommsour

    過去に書いたものの置き場です

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    遊我とルーク

     大抵の道具は難なく使いこなせそうに思える遊我が、それを手にして、一体何に使うものなのかと思案している顔を、龍久は新鮮な気持ちで見つめた。手こずっている遊我というのはめずらしく、それで龍久はちょっと得意になって、遊我の足元に屈んでから、自分の手のひらを遊我に差し出すようにして、一体何に使うかわからないらしいそれを貸すように促した。
    「ふふん、これはこうして使うモノなのだッ」
     椅子に腰掛けさせた遊我の膝に触れ、龍久は慣れた手つきで膝の下に靴下留めを着ける。遊我の脚を黒い革が装飾している。あまり筋肉のついていないほっそりとした少年の脚に、それはどこか拘束具めいているようにも見える。
    「……なるほどね」
     龍久が仕上がりを確認しながら満足げに顔を上げると、妙に納得した様子の遊我と目が合った。ルークはこれが何か知っていたんだね、と言う遊我に、龍久は、たまにそれを使うことがあったのだ、と答えて立ち上がり着慣れた様子でジャケットに袖を通した。
     龍久の育ちの良さというか上等さを、遊我は前々からなんとなく感じていたけれど、こうして目の当たりにするとそれは身についたものとして無意識に表れるものなのだと思い、龍久にはわりと面倒見のいいところがあることも、そういうものの表れなのだろうと思うのだった。


    ────────────────────


     以前坑道でアサナと話したとき、彼女が自分と遊我の関係性について、その程度のもの、と断言したことや、決闘を通して知ったらしい遊我の人間性に納得したふうなのにも、なぜか龍久はむっとして、とっさに言い返した言葉は、思い返してみると自分でもちょっとどうかと思うようなもので、だからすぐに、本当は知らないのだと、思うより先に口走ってしまったのが、まるで真実のようで、龍久はそれからたまに、そのときの気持ちを考えてみる。
     窮屈だからというその理由だけで、新しいものを創りだしてしまう遊我の才能や、ふとしたときにみせる度量はとても魅力的で、だから皆、彼に叶わないものを見たり見せられたりしているのかもしれない。周囲の勝手な期待や願望を、遊我は事もなげに、行く手をはばむ壁よろしく突破してしまう。そこには共感も謙遜も譲渡もなく、彼は大胆不敵な笑みを浮かべて、ただ突き進むだけなのだ。
     遊我のそういうところがまばゆくて、見えているのに見えない気がして、目がくらんでしまって、ときどき龍久は言わなくてもいいことを言ってしまう。そのたびに遊我は龍久を糾すのだが、それももしかしたら都合のいい幻かもしれない。だから、何も知らないのかもしれない。ただ龍久は、そういうときに見る遊我のあの不敵な笑みをすごく好きだと思うのだ。

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    biommsour

    PASTあいゆオンリーの無配でした。ありがとうございました!
    愛の生活「久しぶりだな、この部屋もさ」
     久しぶり、というAiの言葉に、いったいどれほどの感慨が込められているのだろうか、と遊作は思い、けれど、いちいち感傷じみた気持ちを浮かべてAiを見つめるのは、なんというか、それは違う、と自分に言い聞かせて、ただ、そうだな、と彼は返事をした。
     心が壊れるかのような別離からしばらくして、Aiはひっそりと、遊作のもとへ帰ってきた。帰ってきたというのが正しいのか、遊作はこれから考え続けなければならない、と思っている。あのとき、Aiは遊作の目の前で、遊作の選択で、消滅したからだった。繋がりの途切れる瞬間を見た。あれは、確かに死だった。
     Aiは、体重を掛けると金属のフレームが軋んで耳障りな音をたてる質素なベッドに座って、壁の方へ視線を向けていた。ところどころ塗装が剥げた壁は内部のブロックが露出している。Aiの過ごしてきたシミュレーションという那由多の時間に比べたなら、まだ新しいと言えるかもしれないこの部屋の壁にも、遊作やAiやロボッピや、その前の住人たちの時間が、埃やシミとなり、キズや塗装の剥がれとなって、確かに堆積しているのだ、と遊作は考え、やはり、自分は幾らか感傷的になっているのだと自覚した。
    1969

    biommsour

    PAST以前ラキカで公開したロアロミの再録です
    「わたし、けっこう料理が上手くなったと思うんだけど……」
    「この惨状を見てもそう言えるワケ?」
     一般的に料理とは、鍋から噴水のようにあふれ出し、部屋を汚したりするものではないとロアは思うのだが、ロミンにとってはそうでもないらしい。
     彼女はその壊滅的な料理のセンスでロアの部屋をカレーの海に沈め(るだけならまだしもマンションごとカレー浸しにして管理組合にひどく怒られた)たのだが、そんなことではめげないらしく、初めて作ったカレーが案外好評だったのが相当な自信になったようで、それから今にいたるまで、彼女はときおり彼の部屋に、ただ、カレーを作りにくる。
     ロミンがカレーと呼ぶ極彩色は、刺激を与えなければ鍋の中にとどまっているところまで来たが(?)ほとんど爆発物だと思って取り扱わないと危険なそれを料理と呼ぶのが適当なのか、ロアは途中から考えるのをやめ、そのくせ、口に入れてしまえばわりといける味で、だから彼は、もう少しバンド活動を広げて、まだ一応は賃貸だったこの部屋くらいはせめて買い取らなければと、ふたたび鍋から噴き上がりはじめたカレーを見て、思ったりする。
    3748

    biommsour

    PAST大華と龍久
     両親は姉弟に対して、特にその役割や立場を押し付けるような教育方針ではなかったから、龍久ははじめ、大華のことを名前で呼んでいたし、そういう姉弟の関係性について、何も考えたことがなかった。確かに大華は姉であり自分は弟なのだが、この名前の通りに、大きな華の咲くように何事も派手なところのある姉を、そういう姉を持った弟にはよくありがちに、畏れ、圧倒されつつ、一番近くで一番遠巻きに眺めて育ったのだった。他人から見ればよく似ているまごうことなき姉弟は、しかし、本人たちにしてみれば、かなり違うところがあり、姉は常に強く、弟は常に弱かった。
     姉はいつしか龍久が名前で呼んでも反応してくれなくなり、大華をタイガーと読んで呼べと大仰に言い、龍久はちょっと困って、しばらくは姉の変化に戸惑うことになった。名前が変わることはそのまま、ふたりの関係性が変わることだった。別の名前で呼べという癖に、自分は頑なに、なんとか太郎だとか姉の印象丸出しで弟を呼び、正しく名前を呼ぼうとはしなくなっていた。もっとふたりが幼い頃は、姉は龍久と名前で呼んでくれたこともあるはずなのに、それはもう遠くなりはじめた幼少期の、思い出の中だけの出来事で、姉も自分もそこへ戻ることは二度とないのだと、弟はいつも不意に、姉との関係を思い知らされる。
    2060

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