〈羂索視点〉
額の縫い目は縛りだから、反転術式でも消す事は出来ない。
あまり悩んだ事も無ければ、対して気にした事もない。
たまに脳ミソを出して、遊べる事も気に入っていた。
頭を開けられるのは前世で、今世の私は頭蓋骨を開ける事は出来ない。
「けんちゃん、いたくないの?」
これは、漸く私が見付けた髙羽の生まれ変わりの子供。
前世であれでだけ悪い事をしたのに、生まれ変わりだけは早くて笑ってしまった。
だから、私は髙羽を探す事にしたのだ。
私がこれだけ早いのだから、髙羽はきっともう成人しているかもしれない。
そう思って幼い私は幼いなりに髙羽を探したが、髙羽が見付かる事はなかった。
これが俗に言う天罰とやらで、髙羽に出会えない事で罪の清算を行うと言うモノだと察した。
髙羽を探して焦がれて、惨めに死ねと言うのかと四歳にして悟った私は人生がその時点でつまらなくなった。
どうやってこの人生を早急に終わらせるかばかりを考えていたせいで、今世の両親は気をもんでいた様だった。
下手にこの両親に心労を掛けて、早死にさせようモノなら私は来世まで続く罰を受けそうだとすら思えて来た。
これが罰なら速やかに受け入れて、さっさと清算してしまえとある意味で自棄になっていた。
そう自棄になって、気付けば日本屈指の国立大学まで進んだ。
この頃には両親は、私に対して心配が無くなったのか晴れやかな顔をしていた。
この人生は特に何も事を起こさずに、平和的に生を終わらせればいいと思っていた私の元に髙羽が現れたのだ。
一目見ただけで髙羽だと分かる風貌に、私は大学に行く足が止まった。
体より大きなランドセルを背負って、必死に歩いている髙羽。
声を掛けるよりも先に、体が動いてしまっていた。
「だ、だれ!?」
ランドセルの重さでよろめいた髙羽の腕を、思わず掴んでしまったがこれではただの不審者だろう。
私を見て警戒心を露わにする所を見れば、髙羽には記憶が無いらしい。
叫ばれたり、防犯ブザーを鳴らされるのは流石に避けたかった。
有名大学に通う学生が、ショタコンで捕まるなんてワイドショーが黙っていないネタでしかない。
「あぁ、ごめん。君が倒れそうで危なかったから。つい、ね?」
こんな事で誤魔化されるのかと思ったが、髙羽はポカンと口を開いて固まっていた。
当たり前すぎる反応に困ってしまい、もうこの場を立ち去ろうとした時だった。
「ありがとうございました!」
ぺこっと頭を私に下げたと同時に、髙羽はやってくれたのだ。
お決まりの様に、ちゃんと閉じていなかったランドセルがお辞儀をする背中に沿って蓋が開き、中に入っていた教科書やノートがぶちまけられた。
「ぶふっ」
「あっ!閉めてなかった!」
「そうだと思ったけど、ふふ、手伝ってあげるから」