クリスマスなんて、子供の時くらいしか楽しいと思った事も必要性を感じた事もない。
「あのさ、クリスマスって」
街が色付き始めて、世間ではクリスマスと言われる時期が訪れようとしていた。
毎年毎年飽きないものだなと思っていた時、髙羽にクリスマスの予定について声を掛けられたのだ。
急いで頭の中で自分のスケジュールを思い出したが、最悪な事にクリスマスには断れない会合があった。
しかも家業の方で揉め事があって、絶対に私が出なければならないのだ。
申し訳無い気持ちになりつつも、平然を装いながら髙羽にクリスマスは予定がある事を伝えた。
あからさまにシュンとする髙羽に、普段ならからかって遊ぶが今はそれ処ではない。
必死に取り繕うとしている髙羽に、夜には会えるとだけ伝える事にした。
正直な事を言えば、夜と言っても良くて深夜。
下手をすれば、明け方になる可能性もある。
それでも、私はクリスマスを一緒に過ごしたかった髙羽の願いを叶える為にも家業の仕事を片付ける事にした。
「今日が何の日か知ってる?クリスマス、イエスキリストの生誕日とも言うのかな」
最初はにこやかに行われていた会合だったが、相手方はこのご時世にドンパチやるつもりで居たらしい。
居たらしいと言うのは、控えていた連中は既に伸ばしてあるからだ。
襲撃が失敗に終わり、頼みの綱の半グレ連中は五条の方に引き渡してある。
暴対法があるのに良くやると思いながら、出されている懐石料理を口へと運ぶ。
店の意地なのかプライドなのか分からないが、料理には毒は入れていないらしくとても美味しい。
「あ、日本だとこっちの方が正しいのかな。性の二十四時間。どう思いますか?」
冷や汗を流している相手の組の長に、下ネタを振ってみたが特に返答はなかった。
口があるなら話して欲しいけど、今の私は機嫌が悪いからつまらない事を言われたら殺してしまうかもしれない。
命拾いして良かったねと言いながら、私はどう落とし前を付けても貰うか考える。
短絡的に言えば、殺して組をでかくするのも一つの手だ。
だが先程も言った通り、土産を渡しても暴対法までは目を瞑ってはくれないだろう。
指詰めと言っても、私は指を保管する趣味はない。
こんな時に、短絡的に殺しのコマンドを押せる傑が羨ましいとは思う。
「部下の不始末は、長が付ける事になってると思うけど。違ったかな?」
「……それは、その通りで」
口を開いた相手方の組長は、冷や汗を流しながらも私に視線を向けていた。
元々、相手方の組が私の組に手を出す事自体がおかしい事なのだ。
半グレ連中まで使うと言う事は、つまりそれ程追い詰められていると言う事に近い。
「私は寛大なんだ。この襲撃について、知っている事を話してくれれば穏便に済ますよ」
「っ、それはっ!」
私が言った事は、契りの杯を交わした相手を裏切って情報を洗いざらい吐けと言う事だ。
ヤクザ家業は、何よりも人情を重視している。
私もそれを知った上で言っているから、相手からしてみれば怒りしかないだろう。
「貴様は!人情ってモンがないのか!?」
前世で渋谷事変を起こした黒幕な私に、人情を解くのはどうかと思う。
今はあんな大それた事をする気もないが、どうしたのもかとは考える。
「人情はあるけど、今の君には人情ではどうにもならないレベルの事をしてるの分からない?まぁ、私として君がここでどうなろうとどうでもいいんだよ。君を犬に差し出すには丁度いい土産しか無い。どうせ、チャカも用意してるんだろ。それだけで、犬が君をしょっ引くのは簡単だ。私はまぁ、ほら。色々とあって、お目溢しだけは受けるし」
ここまで言っても口を割ろうとしない相手に、近くに居た部下が私に目配せをする。
どの道、簡単に口を割る様な男ではないだろう。
昔気質のヤクザなら尚更、人情とやらで仲間を売ろうとはしない。
それなら手っ取り早く殺してしまった方が、このクソみたいな会合も直ぐに終わる。
『俺、暴力は肯定派だけど、赤はダメだからな!』
部下に命令を下そうとして、過ったのは相方の一言。
私を呪いから解放して人間に戻した髙羽の言葉に、命令に躊躇いが生まれる。