フレンチ・コネクション髙羽程ではないが、私もカクテルを作る事は出来る。
プライベートバーカウンターを家に作ったのだから、作らなければ損だと思って練習したのだ。
家に呼んだ髙羽をカウンター席に座らせて、私がバーカウンターに立つ。
すると髙羽は不思議そうに私を見て、逆じゃないかと言ってきた。
何時もは髙羽をバーカウンターに立たせて、私のためだけにカクテルを作らせている。
だから、何時もの様にカクテルを作らされると髙羽は思っていたらしい。
「今日は、私が君にカクテルを作ってあげるよ」
「え?羂索が俺に作ってくれんの!?」
「まぁ、齧った程度の知識と技術だからね。君には負けると思うよ」
「でも、作って貰えるの嬉しいよ?じゃ、俺イメージでカクテル作ってくれたりする?」
リクエストがあれば、私が作れる範囲のカクテルを作ろうと思っていた。
だが予想以上に難しいリクエストが来て、流石の私も少し悩んでしまった。
バーテンダーがある意味、本業な髙羽に私が作れるカクテルは何だろうか。
すると髙羽が、不安気に眉を下げて困った様に笑った。
「あー、難しかったら混ぜるだけのカクテルでいいからさ!俺、何でも飲めるしザルだから」
私が悩んでいる姿に、変に気を遣ったらしい髙羽が自己防衛の為に断りを入れてきたのだ。
髙羽らしいと言えば髙羽らしいが、流石にムッとする。
難しいのはシェイクの方で、それが無いカクテルなら作れなくはない。
手を伸ばして、髙羽の鼻を摘まむ。
「いひゃい」
「今、君のイメージにぴったりなカクテルを作ってあげるから待ってなよ。あのさぁ、君もバーテンダーなんだから分かるでしょ。客にぴったりなカクテルは何かって、考える時間は必要だと思うけど?それとも、君はバーテンダーに考えさせる暇も与えないクソ客だったの?」
「違います、ごめんなさい。羂ちゃん」
摘まんでいた鼻を離すと、赤くなった鼻を押さえている髙羽の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「……今思い付いたから、作ってあげるよ」
「え?今なの!?」
何でと言っている髙羽を無視して、私はオールドファッションド・グラスを手に取った。
そこにアイスピックで砕いた氷を入れて、ブランデーをメジャー・カップに注ぎ入れる。
グラスに計ったブランデーを入れて、アマレットを計り入れてくるりとバースプーンで混ぜた。
髙羽は既に私が何を作っているのか分かっているらしく、手元をじっと見つめていた。
現役のバーテンダーに見られるのは、板の上で芸を披露するよりも緊張感があるなと一人ごちる。
「はい。君のイメージで作ったフレンチ・コネクション。手順は間違えてないだろうから、大丈夫だと思うけど?」
「あ、うん。大丈夫だったけど、これって映画が元ネタのカクテルだよな」
「そうだよ。カクテル言葉くらい、君なら分かるでしょ」
私があそこまで言ったのだから、少しは覚えていると思ったが髙羽は難しい顔をしていた。
出てこない所を見ると、これはお疲れ様でした案件かもしれない。
にこにこと笑みを浮かべていると、髙羽が悩みながら口を開く。
「映画だとさ。薬物の密輸ルートだったじゃん?でも、芸人だろうがヤクザだろうが薬は禁止だから!!」
「……あのさぁ!私の組、ヤクは御法度なんだけど!?君、何でそんな斜め上の話をするのかなぁ!面白いから許してあげるけど!」
「面白くなかったら許されなかったの!?」
「当たり前だよ。私と今から東京湾までドライブか登山だったよ」
「笑えないね!?」
一通りのツッコミとボケをかましてから、溜め息混じりに髙羽にカクテル言葉を話した。
「映画では、薬物の密輸ルートなのは正解だけど、カクテル言葉は『妄想力豊かな不思議な世界の住人』まさに髙羽にぴったりなカクテルだったワケ。分かった?」
相変わらず察しの悪い相方だと考えていたが、髙羽の顔がみるみる赤くなっていく。
「へ、へぇ。あ、ここ暑いね!いや、まじ暑いなぁ」
嬉しい事を隠すのに必死になっている髙羽に、一瞬ビックリした。
直ぐに口角を上げて笑いながら、カウンターに上体を乗せてカオヲ近付ける。
あからさまに私から距離を取った髙羽に、カクテルを近付けて耳元で囁く。
「早く飲んで感想、聞かせてよ」
「ズルいんだって、羂索は」
「そう?私は君みたいな住人が居るから、楽しくて仕方無いけど?」
私に返す言葉が見当たらなかったらしい髙羽は、グラスを取ってフレンチ・コネクションを飲み干した。
「うん。美味しかった、です」
「他には?」
「……嬉しかったから、ありがとう」
「及第点かな?」
これ以上からかうと、ショットを提案されそうだからからかうのはやめてあげた。
「次は羂索のイメージカクテル作るから」
「楽しみにしているよ」
未だに顔が赤い髙羽の頬にキスをして、お互い視線を合わせてから唇を重ねた。
甘い酒の味と雰囲気に酔いながら、カウンターに置いた手を絡ませたのだった。