惚れた腫れたなんて、どうでも良かった。
ただ隣に居る親友が、ぽっと出の奴に取られた感じがして面白くなかった。
だから相手を調べて、あら探しして見たけど何も出て来ない善人でちょっとだけ悔しかった。
「私はね、悟。髙羽さんに救われたんだ」
「信仰みてぇじゃん、それ」
お前はもうあんな袈裟着て、教祖なんてやらなくていい。
もっと言えば、歯止めが利かない男なんだからヤクザ家業も継がなくていいって思っていた。
俺が救いたかったなんて、大それたことは言わない。
代わりに、お前を救った男の事を悪く言うのは許して欲しいとは思う。
「え、今日は五条君だけなんだ?」
「悪いかよ」
「悪くないけど、珍しいなって」
今日は傑が年に一度の家族での会食で、俺はフリーだった。
だからと言う訳でもないが、暇だったから町を歩いていたら自然とこの場所に足が向いていたのだ。
ドアベルを鳴らしながら、扉を開けるとまだ客は居ないようだった。
髙羽はいらっしゃいませと言いつつも、目を見開いて驚いていた。
下戸な俺は一人で居酒屋には入らなかったし、このバーも傑が居なければ来る事はなかった。
当たり前かと思いつつも、髙羽に視線を向ける。
パッとした顔付きでもない、何処にでも居そうな顔。
ギャグはつまらないし、ピン芸人の時は滑りまくっていた。
これの何がいいんだと不貞腐れながら、ふいっと横を向くとホットタオルを渡された。
「いや、暑いだろ」
「あー、何か俺の顔みたくないぽいから」
困ったように笑う髙羽に、初めて自分の視界が歪んでいるのに気付いた。
更に負けた気がして、サングラスを外して温かいタオルで顔を覆う。
「……何にします?」
「恋って今更気付いた俺に合うやつ。ノンアルで」
「畏まりました」
ガラスに当たる氷が奏でる音と一緒に甘い匂いがして、炭酸のペットボトルを開ける音が響く。
傑の事は好きだったが、恋ではない事は分かっている。
これは単純に、親友が誰かに取られた寂しさだと自分で分かっていた。
コトっとグラスを置かれる音に、タオルをずらしてカウンターを見る。
そこに置かれたのは、薄ピンクのノンアルであろうカクテル。
「こちらは、ノンアルの奏<桜>フィズです。カクテル言葉は、あぁ、恋だったんだ」
「……ばっかみてぇ」
ははっと笑いながら、グラスを掴んで飲んだその味は確かに恋の終わりの味がした。
「髙羽ー、ノンアルで俺の為に作れよ」
後日、髙羽に懐いた俺に傑が凄い顔をして居たから舌を出してやった。