ただ例えるならば、逃げたと言われたのが気に食わなかった。
瓦礫の上に座り、闇に落ちた空を見上げて目を細める。
「悠仁から逃げた奴」
奴の言葉を思い出すだけでも苛立って、舌打ちが止まらない。
居てもたっても居られず、仕方無く立ち上がり小僧の元へと戻ってやった。
俺が戻ったとしたら、小僧はどんな反応を見せるのだろうか。
怒りで震えるか、殺意を剥き出しに襲い掛かるか。
どれであっても俺はどうでも良いが、考えるだけで口角が上がっていく。
死んでいない事だけは確認しているが、どんな姿になっているのか考えるだけで苛立ちが治まっていった。
考えている間に、小僧の居る場所に着いていた様だった。
探さなくとも小僧の居場所は直ぐに分かり、その側へと近付く。
疲れているのか寝転けて、俺が近付いた事すら気付いていない。
「小僧、起きろ」
軽く足で小突くと小僧は眠い目を擦りながら、俺を見上げて嬉しそうに微笑んで別の男の名前を呼んだ。
「伏黒、戻ってきたん?」
ガシッと小僧の両頬を掴み、意識を覚醒させてからその目に俺の姿を映し出させる。
「誰が伏黒恵だ。俺に決まってきるだろ」