いつわたの進捗 ピピピ……ピピピ……カチッ。
枕元で鳴り響く目覚まし時計を止め、布団の中で何かが動き出す。
「んん……眩し……」
差し込む朝日に耐え切れず、ベッドの上で一人の少女が起き上がった。大きな欠伸を一つし、鮮血のように真っ赤な左目を擦る。
細く整った指が左目にかかる眼帯をはじいてしまった。白い眼帯には緑の髪が絡まっているようで、それを直す少女は若干不機嫌そうだ。
「痛っ……ようやく取れた……ふあぁ……」
けだるげな少女はふと、左に視線を落とす。ベッドが面する壁際には、色あせたうさぎのぬいぐるみが倒れていた。
「おはよう、リータ」
穏やかな表情を浮かべた少女は、リータと呼ぶぬいぐるみを座り直させ、その頭を優しく撫でた。桃色の体はくすんでしまい、大きな耳もすっかり垂れきってしまっているが、ほつれや目立つ汚れは見当たらない。よほど大切なものなのだろう。
「んん~……ねむ……」
薄紫のパジャマワンピを押さえながら、少女はベッドから降りようとした――のだが、足元に広がっていたのは、古本の海だった。少女の顔が思わず歪む。
「そうだ、一冊だけで終わろうと思ってたのに止まらなくなって……そのまま……」
ため息をついたって仕方がない。本を踏んでしまわないよう慎重に足を下ろし、一冊一冊拾ってはページをめくって中を確認する。折れや汚れが無いと分かれば、順番通りに本棚に収めるだけ。
分厚い本たちが詰められた大きな本棚は、美しく整理されている。少女はそれを一瞥して、満足そうに頷いた。ふと視線を落とした先、ベッド横に置かれた時計は午前七時を過ぎたところ。
(まだ朝ご飯まで時間あるかも)
本棚を眺めていた少女だったが、首を動かすたびに髪がかかる。腰まで伸びる髪は先が跳ねているし、量も相当なものでかなり邪魔そうだ。
「……先に準備しよ」
兎にも角にも面倒だとばかりに、のろのろとクローゼットの前にやって来た。黒ずんだ取っ手を引くと共に、木製の扉が軋む。
(今日の服は――ん?)
クローゼットを覗き込んだ少女は数秒固まった。かと思えば、今日一番の大きなため息をつく。
「“また”だ……」
少女の顔があからさまに曇る。クローゼットの扉はそのままに、本棚にまた向かい合った少女は、一冊の本を取り出した。