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    yushio_gnsn

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    https://poipiku.com/6664279/8316747.html のつづきです。

    #アルカヴェ
    haikaveh
    #女体化
    feminization

    好きの一つも口にできない唐変木に対するレンジャー長の有難いお説教アムリタ学院にはかつてこのような言い伝えがあった。ティナリを本気で怒らせたら生きたまま標本にされるのだ、と。勿論本当に磔にされるのではなく、言葉の針で串刺しにされることの比喩である。ちなみにその言い伝えは、アビディアの森のレンジャーの間に定着しているのだとか。

    アルハイゼンは、膝を畳んだ状態で床に座らされていた。正座、という稲妻の伝統的な反省の姿勢だそうだ。アルハイゼンの目の前で両腕を組み、仁王立ちしているのはティナリ、その後ろにセノ。更に後方にはカーヴェがクッションを抱きしめソファに座っていた。

    「アルハイゼン、まさか君にお説教をする日が来るとは思わなかったな」
    「奇遇だな、俺もだ」
    「繰り返すけど僕の話が終わって納得するまでこの書類は渡せないからね?」
    「……」

    ティナリが目の前でちらつかせている書類は婚姻届であった。署名欄にはアルハイゼンとカーヴェの名前が書かれている。一刻も早く提出しに行きたいのだが、書類を奪ったり逃走する姿勢を見せた瞬間ティナリは弓を構えるだろう。一対一ならまだしも、後方に大マハマトラが控えているのだから分が悪過ぎる。何より、今回に限っては自身の落ち度をある程度自覚していた。

    「今回の件は、君の致命的な言葉不足が招いた結果だよ。何か言いたいことは?」
    「非があったことは認める」
    「じゃあその非とやらを具体的に説明して、今後の改善策を提示してもらえる?」
    「それは……」

    今回の件、というのは、カーヴェがとある富豪と結婚して勝手に家から出ていこうとしたことだ。

    旅人から騒々しい同居人について聞かれた時「家に居ない方がいい」と表現したことは認める。しかし「存在が邪魔」という意味ではなく、もう少し静かにしてくれたら、程度のものだった。旅人伝いに発言のみを聞いてしまったカーヴェは、自分のことを不要な者だと勘違いし、本気で出ていこうとしたのである。しかも借金返済のため、どこの馬の骨とも知れない男と結婚まで考えていた。

    漸く囲った想い人が他所の男と結婚して家を出るなど誰が想像しようか。もし彼女が知らない男との婚姻届にサインをしていたら、今頃相手の首は地面に落ちていただろう。

    「泣いている彼女にハンカチ一枚差し出せないクソ野郎が結婚生活を成立させられると思ってる? 本気で? 僕は生論派ではあるけれど頭の治療は専門外なんだ。お母さんのお腹の中から人生やり直したほうが良いよ?」

    アルハイゼンが今まで生きてきて言われた全ての悪口を濃縮してもここまで酷くはならない。ティナリの後ろに居るセノが若干引いているが、同時に「お前が悪い」の視線をこちらに向けている。

    「……そもそも、発言の意図が正しく伝わっていなかった。まずそこを訂正したい」
    「相手がどう受け取るかがコミュニケーションの基本だよ。君の意図なんか関係ない。居ない方がいい、って言葉を受け取った彼女がどうなったかはもう分かったね? この期に及んで言い訳をするなら脳天に二、三発入れておく? 脳への直接的な衝撃が新しい治療法として確立できるか試してみようか!」
    「分かった、発言を撤回する」

    この瞬間、周囲の気温が氷点下まで下がった。

    「家族や恋人との会話は討論じゃない。口から出た言葉は戻らないし、一言一句に責任が伴う。後出しで無しにするなんて、都合の良い真似は許されないよ」

    氷の針でちくちくと全身を刺されている。床についた両脚が凍りつきそうだ。旅人と共に訪れたドラゴンスパインという氷山を思い出しながら、アルハイゼンはティナリを見上げる。今の彼は、無双の氷か何かだと思う。

    「失言をしたと思ったとき言うべき言葉は“ごめんなさい”だ。この歳になるまで、誰にも教えて貰えなかったのかな……?」

    無双の氷が笑顔を浮かべたとき、アルハイゼンは命の危機を感じた。言われた通り「ごめんなさい」を口にすると、ようやくティナリの顔が人間の顔に戻った。それでも、掃き溜めを見るような目ではあるのだが。

    「そもそもカーヴェに君の好意がまったく伝わっていない時点で論外なんだよ?」
    「今後は言葉に出して伝える」
    「やっとまともな改善策が出てきたね。ここで反論しようものなら本気で脳天に一発入れていたよ」
    「だが、やはり前提として俺以外に嫁ぎ先は何処にも無いと思う」
    「セノ、やれ」

    容赦なく降り降ろされた赤砂の杖をすんでのところで受け止めた。座っていたカーヴェがあわあわと立ち上がって二人を制止している。

    「暴力はやめてくれ!」
    「止めるなカーヴェ、こいつは一度痛い目を見ないと駄目だ」
    「君の心の痛みに比べたら掠り傷だよ」

    こうしてカーヴェが身を案じでくれるのだから、アルハイゼンの思いもある程度伝わっているのではないか。しかし、セノとティナリの意見は未だ「論外」らしく、武器を降ろす気配はない。

    「ティナリ、こいつは歴史書の前に恋愛小説を読むべきだ」
    「どうかな。恋愛小説を一通り読んだ経験から、一般人の考える恋愛は俺とカーヴェに適合しないと判断した……とか言いそう」
    「その通りだ。彼女に対する評価、感情は単純な好き嫌いで語れるものではない。他所の言語も学んだが、彼女への想いを的確に表現できる形容詞は未だ見つかっていない。故に言語化は不可能だ。不適切な言葉を使うくらいなら何も言わない方がいい」

    脳天にレンジャー長の手刀が降り降ろされる。両手はセノの杖を受け止めるので塞がっており、当然ノーガードだ。アルハイゼンは、衝撃で床に落ちたヘッドホンが壊れていないことを祈った。

    「君、本当に知論派?」
    「言語学とは人間の言語の特性や構造の研究であってコミュニケーションは専門外だ」
    「じゃあ猶更、彼女との結婚は諦めた方がいい。君は人間の才能が無い。言葉が駄目でも態度で示せるものがあるだろう。それをしなかったのは君の怠慢だ。事実、彼女は酷く傷ついたんだからね」

    今度は針でなく槍が刺さった。

    アルハイゼンはカーヴェを傷つけた。これは否定しようのない事実だ。彼女の生活態度や発言に嫌悪を覚えることもあるが、腹いせに傷つけたり危害を加えたいと思ったことは一度もない。むしろ、身の程をわきまえない慈善活動で度々危害を加えられそうになる彼女を守るために家に置いている。

    「結婚したら生涯を共にするんだよ。自分を傷つけてくる相手の傍で一生を過ごすなんて拷問だ。今の君じゃあ、カーヴェが穏やかに笑っていられる環境なんか作れやしないだろうね」
    「俺は彼女の怒った顔も好ましいと思っている」
    「分かった、アルハイゼン、君が恋愛小説を読んだことは信じる。でもその口説き文句のタイミングはどう考えても今じゃない。まさか君、泣き顔で興奮する異常性癖者だったりする?」
    「断じて違う」

    後方でカーヴェが顔を赤くしているのが見える。口説き文句などではなく、ただの事実なのだが。

    「自発的な発言は無理そうだからこっちから質問しようか。どうしてカーヴェと結婚したいの?」
    「彼女は俺が生涯かけても辿り着くことの出来ない独特な感受性、視点を持っている。欠けたパーツと言ってもいい。彼女が居なければ俺の世界は永遠に完成しない。だから生涯共に在りたい」

    ティナリとセノはお互い顔を見合わせ、黙った。二人同時に深いため息をつき、何度かやり取りし合ってから、再び視線をアルハイゼンの方へ向けた。

    「いきなり売れっ子の脚本家になるのやめてもらっていい? どうして好きの一言も言えなかった唐変木が、教令院の最上階から最下層までブチ抜けそうな重さのプロポーズ台詞をすらすら吐けるの?」
    「大型船も余裕で沈められそうな重量だった。俺の知っている稲妻の作家に紹介してやろうか」
    「出版はやめてほしい」

    先程の発言もまた、ただの事実である。思ったこと飾らず、口にしただけのこと。違いが分からない。首を傾げていると、ティナリはもう一度ため息をつき、口を開いた。

    「さっきの台詞、一言一句違えずカーヴェに直接言ってあげて」

    アルハイゼンは、ようやく立ち上がることを許された。ソファに沈むカーヴェは、既にザイトゥン桃のように赤くなり、目を回していたのだが。

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