毎日SS8/30「今日、満月だって」
SNSを見ていたのだろう。ケイゴが、スマートフォンから目を離し、モリヒトの方を向いた。
モリヒトは、読んでいた新聞をたたみ、ケイゴを見る。
「……それで?」
ケイゴは狼人間の末裔だ。三日月型のものを見ると、もう一人の人格ウルフに変身する。
「それでと言われると困る」
たまたま見かけた情報を、なんとなくそこにいたモリヒトに報告しただけで意味はない。
「満月か……」
ふむ、とモリヒトが考え込む。最近、気になっていることがあるそうだ。
「月の満ち欠けで、何処から三日月にカウントされるのかは気になるな」
「あー……そういえば考えたことないかも」
気付いたらウルフになってるから。例えば、企業のロゴマークは完全に三日月だから、変身する。
「食べかけのアンパンでも変身するだろ」
「うん」
「……やってみるか」
「何を?」
「どの程度の月でウルフに変身するか」
モリヒトは何を言っているのだろう。何故、わざわざ好き好んでウルフに変身しなければいけないのか。
そもそも、ケイゴはウルフに変身することを余り良しとしていない。三日月チキンレースをされては、確実に変身してしまう。
「でもそれだと変身しちゃうじゃん」
「変身したらオレと手合わせすればいいだろう」
モリヒトの考えがわかった。ケイゴを体よくウルフに変身させて、手合わせをしたいのだ。今日はカンシがバイトでいない。ミハルは手合わせをするタイプではないし、体力を持て余しているのだろう。
「な?」
「な、って言われても」
じっと見つめてくるモリヒトの目に吸い込まれそうだ。そうやって見つめられると弱い。そもそも、ケイゴは押しに弱い。
「今日は満月だからさ、毎日月を見て変身する月齢?を調べるとかどう」
「うむ……」
モリヒトはあまり納得していないようだが、どうしても今日は変身したくなかった。何故なら、今日は楽しみにしていた生配信がある。アーカイブで見るよりも、リアルタイムで見たい。
「全部声に出てるぞ」
「えっ、嘘」
「全く……じゃあ明日からな」
思っていたことはモリヒトに全て筒抜けだ。呆れながら溜め息を吐き、新聞をテーブルに置く。ケイゴはテレビ欄くらいしか読まないが、モリヒトは全てに目を通しているらしい。もちろん、広告チェックは欠かさない。
「なんかこれさ、え?これ三日月なの?ってタイミングで変身したら恥ずかしくない?」
「食べかけのベーグルでも大判焼きでも変身するのも大概だぞ」
「オレの意識の問題なのかなぁ」
「そうかもな」