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    AYAPersonifica

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    AYAPersonifica

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    鏡映しの桃と鬼 桃太郎のお話ぼくは昔、二人の人間の元で育った。
    まだ生まれたばかりで幼かったぼくに『心が強い、よく笑う子になるように』という願いを込めて“モモワロウ”という名前をくれた。
    二人はいつだって自分達よりもぼくの事を優先してくれた。
    ぼくが眠れない時は子守唄を歌ってくれたし、寂しい時は家事をやめてあやしてくれた。
    村で悪さを働くポケモンがいたらしく、食べ物を簡単に手に入れられなくなった時も……ぼくに多めに食べ物をくれた。
    後から知った事だけど、二人には子がいなかったらしい。
    この子は神様が私達に授けてくださったのだと、ぼくを実の子どものように可愛がってくれたんだ。
    ぼくはそんな二人が大好きだった。
    だからぼくは恩返しがしたくて、美味しいお餅を振る舞った。
    大切な誰かに泣いて欲しくなくて……笑って欲しくて。
    笑っていてほしくて……ぼくは、ぼくにできることをしたかった。
    それに、ぼくは怖かった。
    いつか飽きられて捨てられるかもしれないという恐怖があった。
    だから盗んででも二人の求める物をすぐに用意した。
    願いはすぐに叶えてやるのが愛される秘訣。
    何か対価をあげないと、役に立たないと、捨てられてしまうかもしれないから。

    だから今のぼくの親……とれーなーにも何度もお餅を差し出した。
    でも、一度だって食べてはくれなかった。
    何もしなければ愛されない、役に立たないぼくなんかいらない。
    怖くて怖くて、無理矢理さんどいっちに挟もうとした事もあった。
    すぐに気づかれてお説教を受けたけれど……。
    とれーなーはぼくにこう言った。
    物をくれるから愛する、そんなのは本当の愛じゃない。
    自分がこれから対価の要らない本当の愛を教えてあげる……と。
    ぼくは理解できなかった。
    何もできないぼくには愛される理由なんてないと思っていたから。
    すると続けてこう言った。
    オニっこ……オーガポンは昔、男の人と過ごしていたのだと。
    お互いがいればそれだけで幸せだったのだと。
    何もしなくても愛される事は出来る。
    そして、間接的とは言え男の人を奪ったのがぼくだったからオニっこはあんなに怒っていたのだと教えてくれた。

    あの時はどうして仮面を盗んだくらいであんなに怒っていたのか理解できなかったけど……それだけじゃなかったんだ。
    ぼくはオニっこから大切な人を奪ってしまった。
    それこそ、じいじとばあばくらい大切な人を。
    もしも、勝手な都合でじいじとばあばを奪われたら……僕は絶対に相手を許せない。
    ……正直、ぼくはイヌっことキジっこに無防備に飛びかかってきた男の人が悪いって思ってた。
    けれど、オニっこと男の人にとってあのお面は、ぼくにとってのともっこと同じくらい大切なものだった。
    サルっこにそう説明されてすんなり理解できた。
    ともっこがぼくに立ちはだかってきた時、ぼくは腸が煮えくり返るような感覚を覚えた。
    それはぼくの大切なお供であるともっこを奪ったニンゲンが許せなかったから。
    あの時のぼくとオニっこは、全く同じ状況だった。
    そう考えれば、男の人が悪かっただなんてちっとも思わなくなった。

    ぼくはオニっこ達を傷つけるつもりなんて無かった。
    でも、ぼくは結果としてオニっこ達を傷つけてしまった。
    オニっこは、もう怒っていないっていうけど……でも、ぼくは何度も心から謝った。
    だって、ぼくは謝らなくちゃいけないから。
    失ったものは……取り戻せないから。

    ……そういえば、じいじとばあばはお餅で欲望を引き出されても、実の子供が欲しいとは言わなかった。
    言われたってこればかりは叶えられなかったけど……ぼくがいるから、ぼくこそが本当の子供だから要らないって意味だったのかな?
    そう考えると嬉しくもなるし、悲しくもなる。
    ぼくは本当に……自分で全部壊してしまったんだなって……。

    じいじとばあばがもういない事実を直視した日、ぼくは生まれてから一番泣いた。
    どれだけ泣いてももう戻ってこない、愛してはもらえない。
    頭では分かっていても心が追いついてくれなくて、ともっこまでぼくのために泣いてくれた。
    二人の代わりにはなれないけど、自分達が一生ぼくを愛するって慰めてくれた。
    その優しさが嬉しかったし……悲しかった。
    こんな力を持って生まれたせいで、ぼくが何も知らない愚かな子供だったせいで、みんなを不幸にしてしまったんだ。
    ぼくもニンゲンと同じように生まれてきていれば、こんな辛い結末にはならなかったって……そればかり考えてた。
    でもね、今はこの身体がとても嬉しいと感じてる。
    長い長い間、オニっこに迷惑をかけて悲しい思いをさせてしまった罪を……ぼくの長い命を存分に償いに使えるから。
    もちろん、そんな簡単に許してもらえるなんて思ってない。
    いいや……永遠に許されなくたって当たり前だと思ってる。
    例え大切な人のためだからと言っても……どんな理由があっても、誰かを傷つけちゃいけない。
    この言葉は、ぼくにとっての戒めだ。
    ぼくはまだ子供で……自分の力を、感情を上手く制御できなくて。
    それで誰かの幸せを壊してしまう。
    だから、この言葉を胸に刻んでおかないといけないんだ。

    ぼくはどれだけオニっこに酷い事をしてしまったのか理解した。
    だから、許されなくたっていい。
    ほんの少しでもオニっこの傷を癒せればいい……そう思ってる。
    オニっこはもう心配しなくていいって笑顔で言うけど……その表情にはどこか陰が射しているような気がするんだ。
    その笑顔の陰が何なのか……ぼくにはまだわからないけれど……。
    そんな笑顔も、いつか本当の笑顔に変わってくれるといいな。


    ……あれ?
    ……今、じいじとばあばの声が聞こえたような……?

    あそこって……てらす池って呼ばれてるところだっけ……。


    ……ううん、気のせいだよね。

    さあ、今日はオニっことともっこのためにさんどいっちを作る練習をすると決めてる。
    今のとれーなーは上の部分を落としたり、食材を爆発させたりするからぼくも手伝おうと思ったんだ。
    そうしたら、美味しいものはみんなを笑顔にすると聞いたから作ってみようって考えたというワケ。
    もちろんお餅は入れないよ。
    あんなものを使ってお願い叶えて愛されたって何の意味もないんだから。
    いつかぼくのさんどいっちをみんなで笑い合いながら食べる……そんな日を、ぼくは待ち望んでいるんだーーー!
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