いつまでたっても 吹き抜ける風に涼しさが感じられ、日差しも柔らかくなってきた8月下旬。真夏に比べれは朝夕は随分と過ごしやすくなったものの、まだ気づけば汗が滴る日が続いている。今日もよく晴れていて昼間は暑くなりそうだ。そんなある日の朝、僚艦が一隻ゆったりと接岸場所へと入っていく。
「ちはやー、今来たのは?」
「ぶんご。掃海母艦」
前を横切っていく艦上の顔見知りに向かって軽く手を上げつつ、隣からの問いかけに答える。いままでであれば真っ先に出迎えへと行くであろうくまのは、珍しいことにじっとしたまま動かない。それどころか若干にじり寄って隠れようとすらしている。残念ながら、ほぼ同じ背格好となった今ではあまり意味を成さないのだが。それでも背中越しに目線だけはちらちらと艦へと向けているから気にならないわけではないんだろう。先ほど名前を耳にした時に、あの人が……とぽつりと呟いたのが気になった。このところ慣れないことで疲れ気味なだけ、ではなさそうだ。
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