愛と呼ぶにはなんとやら 放課後の化学準備室には、俺との雑談を主な目的として足を運ぶモノ好きな生徒が度々訪れる。
六月十二日、天気のご機嫌とりが難しいこの頃、今日も土砂降りの雨で空気が冷たい。親が迎えに来るまで暖まらせて、という生徒のためにストーブを焚きながら軽い雑談をしていた。
「それでねそれでね、ウエディングドレスって────────────なんだって」
「へぇ...」
「あは、じろ〜ちゃん興味無さすぎ」
今日はプロポーズの日だ、なんて浮かれていた生徒が結婚に関する雑学を得意げに話すのを聞いて、仕事片手に相槌をうつ。
「興味」
ないことはないけど、と呟く。本当だ。こういった自分に縁がない(と、少なくとも自認している)事柄に対しての知識は、小さくても知れる機会があるのなら知っておくべきだ、と思う。面白いし、人生において知らないことが減っていくのは、安心するから。
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