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    twst_kmgsn06

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    ツイートしたトレジャミ♣️🐍「カウントダウン」と同じ内容です。
    パーソナルスペースのお話。

    #ツイ腐テ
    #twst_BL

    【カウントダウン】

    興味を持ったきっかけは、些細なことだった。

    いつも誰かに囲まれてあちこちに頼られる先輩は、誰にでも優しく相手に寄り添うように見えて。その実、物理的な距離は遠い……いわゆるパーソナルスペースをしっかり取る方なのだな、と。

    もちろんパーソナルスペースというのは誰にでもあって、気にするようなものでもないはずなのだが……過不足なく、かつ相手に気付かせないほど自然に、しかし計ったように正確に距離をとる姿に気付いてしまうと、つい気になった。昔から、他人の身の振り方や距離感は目につく方なのだ。

    立ち話の時など特に顕著で、その距離実に80センチ。

    手を伸ばせばたしかに届く、しかしその気にさせないような絶妙な距離感。
    ただしハーツラビュル寮生は例外のようだ。さりげなく頭を撫でたり、普段一緒にいるダイヤの先輩とは肩を組んだり━━━━自分からは滅多にしないが━━━━している。
    となると、人そのものが苦手というよりは、自分のテリトリーに入れても良いかどうかの線引きをきっちりしているのだろう。
    かく言う自分もそういった距離感は保ちたいタイプなので、先輩と会って話すのはある意味気楽だった。


    それが、まさかカウントダウンだったなんて。あの頃の自分は思いもしなかったんだ。



    **

    まったく、カリムの気まぐれも勘弁して欲しい。
    なぜこんな苦言を呈しながら学園の厨房にいるかと言えば、あいつが勝手に監督生たちを宴に誘って帰ってきたのだ。まぁ所謂、いつものやつである。
    ただし問題は、材料のミルクをちょうど切らしている事だ。ではメニューを変えればいい話だが、「ジャミルの作るミルクチャウダーがうまいんだ、せっかくだから食べに来いよ!」という誘い文句でメニューを確定させてきた主人のせいでそうもいかず。
    昨日ミルクを飲み切ったのは誰だと思ってるんだ、とは言うが無駄と割り切って、仕方なく厨房へ拝借しに来た訳である。厨房ゴーストは、熱砂の食材を交換条件に出せば即座に頷いてくれた。ついでに厨房使用許可も取ったので、その他のご馳走もまとめてここで作る事にする。


    「ん、ジャミルか。ここで調理するのは珍しいな」

    ガチャリと扉が開かれて現れたのは、長身で緑髪の、最近何となく目につく先輩。

    「トレイ先輩。ここを使われますか?」
    「あぁ。隣の調理台を借りるよ」

    初めて遭遇したが、先輩は時々ここを利用しているらしい。
    互いに邪魔になるわけでもなく、気にせず各自の工程を進める。調理器具だって大量にあるのだから、1人増えたところで困らない。それぞれ自分の分を確保して、俺が宴のご馳走を作る間に目にも鮮やかなプチガトーが続々とできあがっていった。




    調理も順調、あとは味を整えれば完成だ。ミルクたっぷりの鍋をぐるりとかき回していた、その時だった。


    「ジャミル〜!俺様もう待ちきれないんだゾ〜!!」

    バァン!と激しい音とともに、お腹ぺこぺこでさまよっていたグリムが乱入してきた。
    スカラビアで大人しく待っていろと言ったのに!監督生は何をして……

    「こら待て、それはお前には、」
    「うぐっ!か、辛い〜〜!?」

    制止する間もなく既に出来上がっていたスパイス漬けの肉焼きサンドにかぶりついたイタズラ猫は、スパイスの辛さに目を白黒させて勢い良く飛び去った。
    その拍子にぶつかった、天井に吊り下げていた鍋がちょうど頭上に落ちて、くる!


    「っジャミル!」

    ガシャーーーーン


    咄嗟に魔法を使おうとしたところで、ぐい、と後ろに体が傾いで、目の前に鍋が落ちる。見れば、トレイ先輩が咄嗟に腕を引いて助けてくれていた。後ろから支えられる手は安心感があり、思わずほっとする。
    と、思う間もなくパッと手を離され温もりが遠くなった。

    あ。

    すぐにいつもの距離感。80センチメートル。

    その切り替えの速さに気付いたのは、俺が先輩のパーソナルスペースに元々気付いていたからだろう。

    「怪我はしてないか?」
    「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」
    「気にしないでくれ、ジャミルなら自分で何とかできたとは思うんだが……つい咄嗟にな。何事も無くて良かったよ」

    にこりと微笑む彼の金朱雀色の瞳は穏やかで……
    レンズ越しに煌めくそれが、何を映しているかは少し遠くて見えなかった。



    **


    「悪い、ちょっとその小さじ使ってもいいか?すぐ終わるんだが」
    「ええ、構いませんよ」

    同じ厨房で料理をするのは、何度目になるだろうか。
    各自で揃えていたはずが、いつしか共有する厨房の器具が増えていく。次第に確認もせず同じ計量カップや匙なんかを使うようになった。洗い物や準備片付けの手間が減って都合がいい。

    野菜を切る俺の右肘あたりから、粉をふるう彼の左肘まで。50センチメートル。



    **


    「今日は随分とたくさんの種類を作ったんですね」
    「あぁ、次のパーティーで見栄えと味のバリエーションを増やしたくてな……そうだ、食べてみてくれないか?」
    「え……いいんですか」

    バニラにチョコ、イチゴ、キャラメル、鮮やかな緑はピスタチオか。カラフルで可愛らしいマカロンたちが見事に焼きあがっている。
    できたばかりのマカロンを1種類ずつトレーに載せて、差し出してきたその手からの距離は、30センチメートル。
    キャラメルフレーバーを1つ手に取り齧る。

    「おいしいです、とても。甘くて……ほろ苦くて」

    近くて遠い、30センチ。

    トレーごと受け取った後も、彼との距離が開くことはなく。

    縮まることも、なく。



    **


    今日は、少し普段と違ったメニューを作ってみることにした。宴が今日ある訳ではなく、いつかのための作り置きなので焦る必要も無い。
    気になっていたレシピを再現しようと思ったのだが……材料が上手く混ざらず、ボウルの中身を回す手を止めてひと息ついた。

    「どうした?上手くいかないところでもあるのか?」
    「ええ、まぁ……」
    「何か出来ることがあれば手伝うよ」
    「……では、お言葉に甘えて」

    これまでも何度か互いの作業を手伝ったことはある。
    どうやらもっと力強く混ぜる必要があるようなので、横からボウルを押さえてもらうことにした。

    普段黙って隣に並び、作業音だけが響く厨房に会話が生まれる。静かに互いの作業をする時間もどこか落ち着いて好ましいが、同じ作業をする時に自然と始まる雑談は心地よい。
    と、その会話に一瞬の間が空いた途端。

    「……ん、悪い、ちょっといいか?」
    「?ええ、何か……!?ちょ、」

    先輩は押さえていたボウルを手放したかと思えば、するりと俺の後ろに回って抱え込むように再びボウルを支えた。
    触れてはいなくとも感じる、俺の背中全体に覆い被さるような体温。首元から髪にかけて感じる穏やかな息遣い。
    その距離、20センチメートル。
    いや、耳元に話しかけられる度に少し屈んで近づく声は、何センチ先から発されているのか。

    「な、んで、急に、」
    「んー?こっちの方がちゃんと力入れて押さえられるだろ?」

    平然と答える声が、またひとつ近づく。
    15センチ、いやもっと、10センチ?

    「ほら、お前が混ぜないと終わらないぞ」

    ふっ、と吐息が耳をくすぐると同時、ぞくりと背筋を這い上がる感覚に肩を震わせる。
    それは決して嫌悪ではなくて、そのわずかな身動ぎすら腕の中に呑み込まれていく感覚に息が詰まった。2人を隔てる薄い空気の層を無視するように背中全体で感じる体温。
    茹だる頭が囁きかける……もう、身を任せてしまえ。


    ゆっくりと首だけで振り向く。
    10センチにも満たない距離。

    その唇はもう目と鼻の……いや、唇の先。

    触れ合うまであと。5、4……


    ふ、と不意に笑った彼の吐息がかさついた唇を掠める。

    「……目、閉じないのか?」

    「えっ……っ、!」


    最後のスリーカウントは、数える間もなく塗りつぶされた。
    あんなにももどかしくて、縮まる度に柄にもなくくすぐったい感覚を楽しんでいた距離感。その距離感をじっと見つめながら、いつしか待ち望んでいたゼロ距離。いざとなったら妙にいたたまれなくて、ぎゅっと固く目を瞑る。が、程なく俺の前髪をさらりと梳きながら眉間を撫でた指先があまりに優しくて、強ばっていた力が抜けた。
    いつしか腰元に添えられていた手に促されるまま身体を反転させ、正面から向き合う。

    目を閉じても実感できる彼との距離が愛おしくて、伸ばした手は先輩の背でシャツを手繰った。
    かちゃり、と音を立てた眼鏡すら2人を隔てることに歯痒く感じた瞬間、先輩が素早く取り去った。乱雑に調理台に置いたカチャン!という音も既に遠く聞こえる。


    「んっ……んぅ、っく、んん……っ」
    「っ、ん……っは、はぁ……」

    このままひとつにとけあってしまえるんじゃないか、なんて我ながら頭の沸いた考えが脳裏を過ぎる頃……ひんやりとした空気が濡れた唇を撫でる。

    あぁ、1センチに満たないこの隙間が、こんなにも遠い。
    どちらともなく吸い寄せられて、再び瞼を下ろす……


    「ジャミル」

    こんなにも甘く、やわらかく自らの名を呼ばれたのは初めてで、ぱちりと目を見開いた。
    触れ合わせたままの唇の上で、息に紛れるようにして小さく囁かれた言葉。

    「受け入れてくれて……ありがとう」

    覗き込んでくる金朱雀色に真っ直ぐこちらを射抜かれる。いつものガラス越しでは気付けないほど、その瞳の奥は熱に濡れてどろりと溶けるようだった。「愛おしむ」とはこういう事をいうのだと、その声色と表情に初めて思い知らされる心地がする。
    と同時に、どこか泣きそうにも見えるその表情、低い掠れ声に紛れたほんのわずかな震え。

    あぁ、どうやら俺はずっと勘違いをしていたらしい。
    この人は、テリトリーに他人を入れたくないのでは無かったのだ。
    自分を入れてくれる人を、慎重に見極めていただけ。共に歩んできた相棒、いつも頼ってくる寮生、友と呼んでくれる部活仲間。
    自らを否定されないと確信を持った上でコミュニケーションを密にするその姿勢が、何をもって彼に培われたのかはまだ俺には分からない。彼に親しみを持たれて拒否する人物など、数える程もいないだろうに。

    ただ、その不器用な臆病さが今の俺にはどうにも失い難く……愛おしく、思えて。

    しかしまぁ、俺自身が自覚するより前に、俺は先輩を否定しないと確信を持って動けるような人だ。臆病なようで強かなような、絶妙なアンバランスさに、くつりと笑いが溢れた。その声を耳にしてか、眼鏡が調理台に追いやられたままの先輩は俺の表情をはっきり見ようと距離を詰め、きょとりと不思議そうにこちらを見つめる。そんな無防備な表情を、この特別な距離を許されているのが自分であると思えば胸がじんと熱を訴えてきた。
    心惹かれていることをもはや否定できる気がしない。


    「トレイ先輩」

    「うん?」


    その熱をもっと感じたくて、音にならない想いを唇に込めた。
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    もちろんパーソナルスペースというのは誰にでもあって、気にするようなものでもないはずなのだが……過不足なく、かつ相手に気付かせないほど自然に、しかし計ったように正確に距離をとる姿に気付いてしまうと、つい気になった。昔から、他人の身の振り方や距離感は目につく方なのだ。

    立ち話の時など特に顕著で、その距離実に80センチ。

    手を伸ばせばたしかに届く、しかしその気にさせないような絶妙な距離感。
    ただしハーツラビュル寮生は例外のようだ。さりげなく頭を撫でたり、普段一緒にいるダイヤの先輩とは肩を組んだり━━━━自分からは滅多にしないが━━━━している。
    となると、人そのものが苦手というよりは、自分のテリトリーに入れても良いかどうかの線引きをきっちりしているのだろう。
    かく言う自分もそういった距離感は保ちたいタイプなので、先輩と会って話すのはある意味気楽だ 4531

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