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    あんちょ@supe3kaeshi

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    POIPOI 24

    10分で読めます。すきま時間にどうぞ!4月3日に開催されたひいあいWebオンリー用展示でした!

    ギャップ おれは教室の隅にいる少年をじっと見た。少年は窓際の席で、西に傾いている日の光を浴びながら、虚空を睨んでいた。髪は夕陽に染まらずとも強い赤。碧い瞳に白い肌をしている。右耳にはイヤホンをしていて、左耳にはピアスがついているのを、おれは知っている。長い脚を机の上に投げ出していてどう見たって「お行儀の良い生徒」ではない。教室には、おれとそいつの二人きり。おれは体操服の入った袋をぎゅっと抱きしめて、すうっと息を吸い込んで緊張をほぐした。
    「お、おい! 次、体育なんだけど!」
     勇気を出した。よく頑張ったおれ! 本当はこんな不良に自分から声をかけるようなこと、したくないのに。クラス委員を押し付けられてしまった気の弱い自分を呪う。おそるおそる顔を見ると、その端正な顔立ちはピクリとも動かなかった。
     え? 無視? 無視した今? 机には右耳にはまっているのと同じイヤホンが置いてあるし、片耳あいてんだろォ!
    「おい、聞いてるのか?」
     少し声を荒げて、おれはそいつの正面に立った。長い脚で蹴られそうな位置なので、体操服入れでなんとなく腹を守る。そいつは今初めておれに気づいたみたいに、視線、首の順に動かしておれを見た。
    「は? なに? 俺に言ってんの?」
    「そうだよ! 普段居ないんだから、登校してる時くらい授業出ろよ!」
     こんなことまでクラス委員の仕事なのか。授業に出る出ないは個人の責任だろ。先生かこいつの親がなんとかすればいい。
     不本意に話しかける羽目になったおれの気なんざ知らず、そいつははぁっとムカつく溜め息を吐いた。
    「……やだよ、だるいし。だいたい体操服持ってきてねーし」
     そう言って、流し目で窓の外を見た。グラウンドでは、早めに準備を終えたクラスメイトたちがまばらに歩いている。
     そういえば、こうやってこいつと話すの初めてだな。声も初めて聞いたかも。低くて怖い声色だけど、まっすぐ響いてくる声だ。……いや、今はそんなことよりも。
    「あっそう、おれ遅れるから行くな」
     別にこいつに断る必要もないんだけど、何も言わずに教室を出るのも負けた気がする。遅れないよう、教室を速足で出て行こうとしたら、背の高い男に追い抜かれた。教室に残っている生徒はおれの他に一人しかいない。……クソ、こいつ背も高いのかよ。
     体育に出る気になったのか? いや、持っているのは学校指定の鞄だ。かわいらしい、カエルか何かのキーホルダーがついている。明らかにこいつの好みじゃなさそうだし、彼女にでももらった物なんだろうか。何もかも「勝ち組」の要素に見えて腹が立つ。
    「授業出る気になったのかよ」
    「冗談。六限のあとはどうせホームルームだし、だるいから帰る」
    「勝手にしろ」
     もうすぐチャイムが鳴る。おれは好かない表情で笑っているそいつを追い抜き返して、急いで更衣室へと向かった。

     ***

    「ふあぁ~~~カッコよくてムカつくゥ!」
     シアタールームのソファで、クッションを抱えて座っていた藍良は、隣に座っている一彩の腹に思いきりそのクッションを叩きつけてきた。
    「あ、藍良! 痛いよ! そんなに気に入らなかった?」
    「そんなわけないでしょ! 聞いてた? カッコいいって言ったのォ!」
    「光栄だよ! でも叩くのをやめて欲しいよ!」
     ぼふぼふと叩きつけられるクッションを受け止めながら一彩は藍良の肩に触れる。窘めるように見つめると、藍良は大人しくなって、一彩の胸にもたれてくれた。
     二人で鑑賞していたのは、ALKALOIDの四人で出演した学園ドラマだ。第一話は一彩と藍良が演じる人物が出会うシーンから始まる。性格のまったく違う十六歳の高校生が、クラスという同じ箱に詰められたことで出会い、お互いの素性を知っていく友情物語。よくある学園青春モノだ。
    「はぁ~、ドラマ緊張したねェ。第一話の感想をエゴサするの怖い」
    「怖いならしなければいいよ。僕は、藍良の演技も素敵だと思ったよ」
    「でも、気が弱くて委員長を押し付けられるってところがいかにもおれだし、演りやすかったよォ。ヒロくんは普段と全然違う役だし、すごいなァって思った」
     一彩が演じたのはクラスで一番の問題児。めったに登校せず、登校したとしてもまともに授業を受けない生徒だ。教室にいない時は外で自由気ままに過ごしているが、実は頭が良く、心を開いた相手には情を寄せる少年。第一話ではまだ、その情に熱い部分は見えないのだが、撮影はそこそこ進んでいるので二人とも先の展開を知っている。
    「藍良に演技を褒められると嬉しいよ」
    「むぅ~、悔しいけど、たいへんよくできましたァ」
     藍良がこちはを見上げてきて、一彩の癖毛を両手でわしわしと撫でた。
     一通り撫でた藍良は電池が切れたようにまた一彩の胸に倒れ込んだ。大人しくなった藍良を抱き締めたときにいたずらを思いつき、そのまま体重をかけてソファに藍良を押し倒す。
    「えっ?」
     突然のことに驚いたのか、藍良がぱちぱちと瞬きをする。一彩は胸に抱えていたクッションを掴んで、床に放り投げた。
    「じゃあ、『お前』が『俺』にご褒美ちょうだい?」
    「は? え……なに?」
     いつもと違う口調に呼称。藍良は戸惑い、一彩を見つめ返す。してやったりと思った一彩は、目を細めて笑ってみせた。
    「演技、よく出来てたんだろ? 藍良はこういう『俺』のほうが好き?」
    「え、ま、待って……」
     不意打ちは成功したようだ。藍良は何かに抗うように首を横に振るが目はこちらに釘付けだ。
     藍良の目には普段の温和な一彩から一転した、強気で生意気なクラスの問題児が映っているだろう。
    「……このまま『俺』と、レッスンさぼるか?」
     ソファの革の上で所在なげにしている手を握り、唇同士を近づける。それが触れようとした瞬間、藍良は一瞬気が緩んで身を委ねそうになる。しかし。
    「だ、だめェ!」
     はっと我にかえった藍良が一彩の肩や胸を押し返す。体重をかけているのは一彩のほうなので藍良は一彩が退かない限りは起き上がれないのだが、ぽかぽかと叩いて抵抗するので一彩は許してあげた。
    「ふふ、どうしたの藍良」
     背中を起こしてあげて、またソファに座らせる。藍良はカーペットの上に落とされたクッションを拾い上げると、自分を守るようにそれを抱きしめた。
    「ふふ、じゃない! 何いきなり」
     赤くなってふくれた頬がかわいらしい。
    「藍良を少しからかってみたくなったんだよ。普段とは違う自分を演じると、ファンからの評判がいいから、藍良も好きかなって思って」
     ギャップが良い、という類の評価をいまいち理解していなかった一彩だが、アイドルとしてさまざまな現場を経験する中でそれを理解できたような気がしている。普段とは違う雰囲気で話したり、らしくない振る舞いをしたりすると相手はその意外な一面に心を揺さぶられるのだ。
     普段はかわいらしい藍良がたまに見せる小粋な振る舞いに、一彩が心打たれる感覚に近いのだろう。
     しかし藍良は目の前の一彩の演技に、わかりやすくぷぅっと頬をさらに膨らませた。
    「す、好きじゃない」
    「そう?」
     これはあてが外れたか。ギャップが好きな人もいれば、イメージ通りでいてくれるアイドルを好む層もいるだろうから仕方ない。一彩はまたひとつ学んだが、藍良はさらに不意の反応を見せた。
    「おれは普段のヒロくんが一番好きだもん」
     クッションに口元が隠れて声がこもっていたが、はっきりと聞こえた。一彩は思わず笑みが浮かぶのを止められない。どうして今日は、らしくない悪戯ばかり浮かぶのだろう。そう考えながらも一彩は、藍良の耳元に唇を寄せて、わざと熱っぽく囁いた。
    「そういう事を言うと、ますますからかいたくなっちゃうんだけど?」
     効果は的面。藍良の耳がぼっと赤くなった。
    「もォ~! やめてェ! 変な事覚えないでェ!」
     藍良が振り上げたクッションが、思い切り一彩の背中に振り下ろされた。
     自分にしか見せない藍良の表情。これもギャップなのだとしたら、自分以外に見せて欲しくは無いと、一彩は思った。
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    あんちょ@supe3kaeshi

    DONE【うさぎ⑥】塾一彩とうさぎ藍良のパロディ小説。コンセプトバーで働く藍良と、彼目当てに通っちゃう学生の一彩くんのお話。今回は藍良視点。◆◇◆◇9/10追記
    ◆◇今夜もウサギの夢をみる◆◇ Scene.10Scene10. ウサギの独白 ◆◇◆◇


     おれは、アイドルが好きだ。これまでもずっと好きだった。
     小さいころ、テレビの向こうで歌って踊る彼らを見て虜になった。
     子どものおれは歌番組に登場するアイドルたちを見境なく満遍なくチェックして、ノートにびっしりそれぞれの好きなところ、良いところ、プロフィールや歌詞などを書き溜めていった。
     小学校のクラスメイトは皆、カードゲームやシールを集めて、プリントの裏にモンスターの絵を描いて喜んでいたけれど、同じようにおれは、ノートを自作の「アイドル図鑑」にしていた。
     中学生になると好みやこだわりが出てきて、好きなアイドルグループや推しができるようになった。
     高校生になってアルバイトが出来るようになると、アイドルのグッズやアルバム、ライブの円盤を購入できるようになった。アイドルのことを知るたび、お金で買えるものが増えるたび、実際に彼らをこの目で見たいと思うようになった。ライブの現場に行ってサイリウムを振りたい、そう思うようになった。
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